第102話詩音の悩み2
詩音はうつむいたまま、奏介と目を合わせようとしない。
「え、それって、菅谷をいじめてた奴の言葉を信じて事件沙汰にした教師ってこと?」
「そのいじめっ子は菅谷君が牢屋にぶちこんだんだよね?」
わかばとヒナがそれぞれ聞いてくる。ちなみに今の風紀委員室ランチメンバーは奏介の大体の事情を知っている。
「そいつって小学校教師だったんだろ? なんでうちの高校の非常勤やってんだ?」
真崎の疑問はもっともである。
「土岐先生は体育の先生で、ダンス講師とか演劇指導とかそういう方面で有名だったから、今回もそれで演劇部の先生が助っ人として呼んだって。あのね、奏ちゃん」
「お前、なんで土岐に目をつけられたんだ?」
奏介の言葉に詩音がびくっと肩を揺らす。
「わ、わからないよ。演技が下手だったから」
「何かあったんだろ?」
「な、何も」
「すぐ顔に出るんだから隠そうとしても無駄だ」
詩音は頷いて、
「そうだよね。……土岐先生、わたしと奏ちゃんのこと覚えてたんだ。やっぱり奏ちゃんのことをよく思ってないみたいで、わたしに色々聞いてきたの。他の生徒に危害を加えてるようなら、ただじゃおかないって」
奏介の眉がぴくりと動いた。
「それで?」
「石田君のことがあったでしょ? なんでか奏ちゃんが被害者だって知ってて、また小学生の時みたいに石田君に何かしたんじゃないかって怒り出して。さすがに反論したんだよ。奏ちゃんが怪我をさせられたのになんでそう言うことを言うのか、石田君は他にも色々悪いことをしてたのに犯罪者を庇うのかって」
「中々やるじゃない、詩音。……まぁ、でもそれで補習ってこと?」
わかばの問いに詩音は頷いた。
「もうここまで来たら、わたしが土岐先生に反抗的な態度とって奏ちゃんのことを曖昧にしようと思ったんだけど、色々悪口言われながら補習させられるのってキツくて。だから奏ちゃん、土岐先生の目がわたしに向いてるまま劇が終わるのを待ってほしいの」
「伊崎」
真崎はなんと声をかければいいのかわからないよう。わかばも同じらしい。
「しおちゃん」
ヒナは心配そうに詩音を見、
「で、どうする? ボク手伝おうか?」
「情報提供は頼むかもしれない。その時はよろしく、僧院」
「ふふ、了解。まぁ、君は出来るだけ一人でやりたいんだろうし、どうしてもの時だね」
詩音はだらだらと汗をかいている。
「聞いてた? わたしの話聞いてたのかな?」
「応援してるわ。あたしは役に立てる気がしないし」
わかばは肩をすくめる。
「橋間と同意見だ」
真崎も言う。
「わ、わたしの話……」
詩音は涙目になっていた。
「しお」
「は、はい」
奏介は目を細めた。
「俺をかばってくれたのなら嬉しいけど、土岐の方をかばってるなら同罪だぞ」
詩音はさっと青ざめた。ヒナが首を振る。
「いやいや、大事な幼馴染をかばってるに決まってるよ! ね?」
「それは当たり前だけど、そろそろ奏ちゃんが人を殺しそうだから」
その場がしんとなった。奏介も含む全員が無言になる。しばらくして、
「大丈夫だ、自分の手を汚すわけないだろ」
奏介がそう言った。
詩音がヒナに抱きつく。
「ひーちゃん、止とめてね!? 絶対止とめてね!?」
「はいはい、その時はボクに任せてよ」
ヒナが苦笑を浮かべながら言う。
「向こうから何か仕掛けて来そうだけど、あんた勝算あるの?」
わかばの問いに奏介は少し考えて、
「何を仕掛けて来るかにもよるけどな」
「ま、あんたのことだから、心配してないけどね。体を張るのもほどほどにしなさいよ?」
「ああ」
奏介は真崎と視線を合わせる。
「菅谷のことは心配するだけ無駄だからな」
「まあね」
演劇の練習で忙しそうな水果とモモには秘密にすることにした。大事なイベントを台無しにすることがないようにと。二人に心配をかけるわけにはいかないだろう。
「教壇に立てるのも後少しだ。覚悟しとけよ」
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