第100話~番外編~叔父からの手紙

 一日が終わり、石田は自分のベッドに横になった。消灯まで後少し。スタンドライトに照らされながら、天井を見上げる。


「あの野郎、ぜってぇ許さねぇからな」


 少年院に入所して数ヶ月。思い返すのはあの日の菅谷奏介だ。時間が経つにつれ、あの時、彼に恐怖を感じたのは間違いだったのではないかと思うようになっていた。何せ、小学生のその頃、散々いじめたというのに何一つ言い返せなかったのである。そんないじめられっ子に自分が負けるはずないのだ。


 消灯まで後五分を切った。


「……ん?」


 数日前に届いていた叔父からの手紙が目に入った。石田の母親と正反対の真面目な性格で人格者だ。


 すっかり忘れていた。まだ中身を確認していない。


 五分もあれば読めるだろう。


 寝転がったまま封を破り、長ったらしい文章を読んで行く。


「下らねぇこと書いて送ってくんじゃねぇよ……」


 石田の体調の心配、夜の仕事をしながら遊び歩いている母親の近況、そして、


「は!?」


 思わず大声を上げてしまい、口を押さえる。


 文章抜粋。


『ところで、友達の菅谷奏介君という子が春木を心配してうちに来たんだ。また昔みたいに仲良く遊びたい、何年でも待っているからまた会おうと伝えてくれと。私も春木を信じて待つから、しっかり償ってくるんだよ。それでは』


 石田はごくりと息を飲み込んだ。


「は? 菅谷? 友達……? 待ってるって……」


 当然ながらそんな良好な関係ではなかった。


 きっと奏介の言葉はそのままの意味ではない。


 石田は手紙をくしゃくしゃに丸めて、布団を被った。


「なんでだよ!? なんであいつが叔父貴の家を知ってるんだ」




『これで許されたと思うなよ』




 あの時の言葉が思い出される。


「ひっ! ……あいつ……あいつなんなんだよ」


 得体の知れない何かに思えてきた。


「ね、寝ちまおう」


 幸い、少年院ここは安全だ。奏介が手を出すことは出来ないはず。


 今は考えないことにした。

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