第93話~番外編~第87話リリスとの裏会話

安登矢が喫茶店を出ていくのを確認した奏介はすっと表情を消して、ゆっくりとリリスを見下ろした。


「よお、檜森」


「お……お久しぶりでございますっ」


 リリスは頭を下げた勢いで、テーブルに額をぶつけた。


「久しぶり。元気だったか?」


「は、はいっ、元気でしたっ」


 いい返事だ。確かに元気そうである。


「そうか、それはよかったな。あ、店員さん、コーヒー二つで」


 奏介はそう言って、一息ついた。


「あ……あのっ、わたくしめは一体これから何をやらされるのでしょうか!?」


「なんだその言葉遣い。いや、知らないけど、ちょっと脅されててね、俺は檜森に告白させられるらしい。で、振られて泣いてる情けない姿を見て笑いたいみたいだな」


「……え、菅谷さん、私の事が好きなんですか?」


「はぁ? なんで俺がお前なんかを好きにならなきゃならないんだ? ふざけてんのか?」


「も、申し訳ございませんっ」


 涙目である。


「あ」


 奏介は口元を押さえた。


「悪い、当たるつもりはなかったんだけど、ちょっとイライラしてて」


「へ?」


 奏介の普通すぎる態度にぽかんとする。彼女への制裁は済んでいるため、奏介の中で敵意は三割ほどだ。


 奏介は息を吐いた。運ばれてきたコーヒーを一口飲む。


「あの、なんか安登矢さんが告白ドッキリをやりたいってことで呼ばれたんですけど、そのターゲットは菅谷さん、てことですか?」


「ああ、そうらしいね」


 リリスは顔を引きつらせる。


「え……安登矢さん、頭おかしいんじゃないですか? 菅谷さんにドッキリを仕掛けるなんて……」


 ドン引きだった。


「お前も同類だし、仮にも元カレに酷いこと言うんだな」


「! なんで知ってるんですか?」


「調べた」


「あ、はい……。でも、そういうことなら断ります。元々乗り気ではなかったので」


 リリスは肩を落とした。


「へぇ、反省してるんだな。意外だよ」


「それは、もう。色々思い出しますし」


 体をぶるりと震わせる。


「でもまぁ、喜嶋がやりたいみたいだから付き合ってやればいいんじゃないか?」


「……ふえ? でも」


「あいつは俺に喧嘩売ってきてるからな。買ってやるんだよ」


 奏介はにやりと笑う。


「……えっと、じゃあ私は何をすれば」


「何をすればって? お前、元カレより俺の言うこと聞くのか?」


「安登矢さんに味方したら菅谷さんに喧嘩売ることになるじゃないですかっ」


「へぇ、よく分かってるな。なら、あいつの言う通りに動いて構わないぞ。なんでも聞いてやれ。出来れば、俺に対していじめをするって発言を録音してもらえると助かる。ちなみに、お前があいつに言われてやったことに、俺は文句は言わないよ。」


「そ、そうですか。分かりました。では安登矢さんの指示で動くということで。……後で謝罪に伺います」


 暗い顔をする。


「そういうの、いらないから。あ、ついでに今の彼女について色々聞いておいて。あのクズ、三股してるらしいからな」


「さ、三股ですか……。了解です」


 安登矢の浮気具合には普通に引いているようだ。


 奏介は喫茶店の、入り口へ視線を向ける。まだ帰ってこなさそうだ。


「そういえば、聞きたいことがあったんだ」


 リリスは目を瞬かせる。


「なんでしょうか?」


「お前ら、小学校の同窓会とかしてるの?」


「同窓会って……あぁ、時々やってますね。カラオケとかファミレスに集まっておしゃべりするくらいですけど」


「ふーん。そうか」


 奏介は何やら考える素振りをする。


「あの、もしかして声かかったことないですか? 今度私が幹事の時に連絡しましょうか?」


「いや、お前、自分を虐めてたクラス連中の集まりなんかに参加したいわけないだろ。そうじゃなくて、その同窓会で俺の話でも出るのかってことだよ。俺にちょっかいかけてくる奴ら、喜嶋で三組目だぞ。担任合わせたら四組目か。いい加減相手するのが面倒なんだよ」


「え、いえ、菅谷さんの話題は出たことないと思いますけど」


「なら良い。順番に菅谷を虐めてやろうとかそういう話し合いでもしてるなら一網打尽にしてやろうと思ったんだけど、偶然か」


 コーヒーを飲みながらスマホの操作を始める奏介。


「そんな話するわけないですよ……」


「まぁ良いや。じゃあ、そういう感じでよろしく。彼女やら録音やらは強制じゃないから、やりたくなきゃ別にやらなくていいぞ」




 後日、リリスは本当に謝罪に訪れたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る