第88話昔の同級生を脅して言うことを聞かせてみた3
その日、鈴とのデートを終え、帰りながら彼女二号の柚子と電話をしたのだが。
『男好きで彼氏がいて、女の子なら五歳以下じゃないと興奮しないのに同年代の彼女と付き合うってどういう神経してんのよ!?』
安登矢の性癖が大変なことになっていた。完全に変態だ。
「いやっ、おかしいんだって。なんで信じるんだよっ、それ、デマだからな!?」
『浮気してるんじゃないか疑ってたけど、まさかこんなっ』
「う、浮気? 何言ってんだよ」
『だって、もう四日もデートしてくんないじゃない。しかも、最近男の子と帰ってるでしょ? つまりそういうことなんでしょ』
「待てって、話を聞いてくれ」
必死に説明し、最終的になんとかわかってくれたようだった。
通話を切り、額の汗を拭う。
「ふう、一気にスリル感出てきたな。それにしても、誰だよ。変な噂流しやがって。彼氏とか名乗るやつか?」
舌打ちをする。
「菅谷に告白させたら、絶対見つけてやるからなっ」
少し早いが、明日には告白ドッキリをさせてしまおう。彼女達のケアに回らないと後々面倒そうだ。
翌日放課後。
安登矢は桃原公園にいた。よく晴れた日で、空はオレンジがかっている。今日は夕日が見られそうなのだ。
「どうよ、告白にはロマンチックな場所だろ? 本当は夕日の砂浜にしようかと思ったんだけど、ここの方が綺麗だし」
「う、うん……でも、なんでスーツなの?」
奏介には似合わないスーツを着せていた。バラの花束を持たせている。中々にダサい。
「一世一代の告白なんだから当然だろ? と、そろそろリリが来るな」
「や、やっぱり止めようかな」
「大丈夫だって、行け行け」
安登矢が隠れてみていると、リリスが階段を上って、公園内へ入ってきた。
緊張した様子でリリスに何か言葉をかけ、バラの花束を差し出した。
しかし、
パアァンッ。
安登矢は笑いを堪えるのに必死だ。予定通り、リリスが奏介の頬を張ったのだ。そして、
「ダサいです。なんですか、そんな格好して。花束なんかもらっても嬉しくありません」
リリスは侮蔑の表情を奏介に向けて、公園から去って行った。
「あーあ」
安登矢は奏介に歩み寄った。
「お疲れっ」
肩に手を置くと、
「う……うう」
「おいおい、マジか。泣くなよー」
傑作だった。こんな気合いが入った格好をして、振られて、号泣など。
(大成功! ってな)
形だけ慰めつつ、奏介とは早々に分かれた。
翌日、昨日の爽快感を引きづりつつも、今日からは彼女達のケアに回らなければならない。
「ふふ、上手くやって見せるっての」
奏介のことなど、すでに忘れかけていたのだが、
「ん」
先程からスマホがかなりの頻度で鳴っている。
「んー?」
呟き系SNSや画像投稿SNSのアカウントからの通知がなり続けているらしい。
見てみると、
『おい、人の泣いてる姿撮して笑い者にするとか何考えてるんだ』『これ、隠し撮りでしょ? しかも加工なしなんて酷すぎる』
『いじめでしょ』
『てめぇ、特定してやるからなっ』
『どんだけクズなんだよ』
『相手の女の子にも強制してんの? 最低っ』
安登矢は目を瞬かせた。
「……ん?」
コメント欄がほぼ炎上状態だった。何かまずい投稿でもしただろうか。そう思って投稿を遡ってみるが、特に叩かれるような呟きや画像はない。
原因を突き止めたのは昼休みに入ってすぐだった。
「なんだこれ」
とある有名動画サイトである。そこに喜嶋安登矢の名前でアカウントが作られていたのだ。
「おーい、喜嶋ー。学食行くけどお前どうするー?」
「あ、おれ用事あるから、今日パス」
安登矢は教室を出て慌てて階段を上り、屋上入り口の扉の前に座った。動画サイトの喜嶋安登矢アカウントに投稿されている動画のタイトルは『オタク告白させてみたwwww※爆笑、男泣き注意』
ドキドキしながら動画を再生してみる。
真っ黒画面で音声だけ流れる。
『え、告白されたら頬を叩くんですか? ……さすがにひどくないですか?』
リリスの声である。
『だいじょーぶだって。あいつ、恨んだりしないっしょ。おれが慰めとくから思いっきりやってやれ』
『どうしても?』
『なんだよー、面白いから良いだろー?』
次に場面が切り替わる。今度は映像だ。
「んな!?」
どこからの視点かわからないが、公園である。安登矢とスーツ姿の奏介が映ったのだ。遠目だが、安登矢の顔にはモザイクが、しかし奏介の顔に加工はない。
「あ……」
そして会話が聞こえてくる。
『絶対行ける。勇気出せ、スーツも目茶苦茶似合ってるし』
そこで字幕が出る。
ー実際、ダサいけどwー
『でも、おれなんか相手にされないんじゃ』
『そんなことないって、頑張れよ!』
そこからは昨日の流れ通りだった。告白して振られた上、奏介が号泣。度々視点が切り替わり、かなり遠目のこともあるが、奏介の顔は普通に映っている。ちなみにリリスは顔が黒い丸、姿をモザイク処理されて、完全にわからないようにしてあった。
安登矢は動画の再生が終わるのと同時に息をついた。息を止めてしまっていたらしい。
「……どういうことだよ」
こんな動画を上げた覚えはない。奏介の告白のさらし上げ動画だ。
「さすがにこんなひでぇことしないっつの」
安登矢の顔にはばっちりモザイクがかかっているので、それも批判されているよう。動画のコメントはオフになっているため、安登矢の他サイトアカウントに文句を言いに来る人がいるようだ。
「しかもおれの名前でアカウント作るって……」
昼休みに入ったせいか、コメント通知が増えてきた。
「っ!」
そして、暴言を吐いてくる輩も増えてきた。その中にはゾッとする言葉を書き込む人も。
「お、おれじゃないっての!」
と、その時だった。
「みんな優しいだろ?」
聞きなれた声に顔を上げる安登矢。
「ネットにはお前みたいに人の情けない姿を見て笑う奴より、俺に同情してくれる人の方が多いらしいな」
奏介だった。見たこともない表情。嘲笑を浮かべている。
「へ……?」
「こうやって無理矢理告白させて動画にして投稿してネットにさらすとか最低のクズやろうだな」
気付いた。奏介は怒っているのだろう。小学生の頃は怒った姿など見たことがなかった。しかし、動画の件を思えば当然だ。
「いや、ちょっ、待て! これはおれじゃねぇって!」
奏介は無言でこちらを見ている。完全に怒っている。あの、気弱な彼が怒るほどのことをしてしまったらしい。
「だ、誰かがおれのアカウントを作って上げたんだっ、だからおれじゃねぇ!」
奏介はにやりと笑った。
「知ってる。そのアカウントを作ってその動画を上げたのは俺だからな」
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