第77話事故を誘発するような運転をしていた運転手に反抗してみた1

 いつもの放課後。


 今日は詩音、真崎と一緒だった。風紀委員会議はないが、わかばは見回り当番だ。


「あー、やっと一週間終わりかぁ。で、日曜は動物園だっけ?」


「針ケ谷君、栞、よく読んどいてね! おやつの値段も設定しといたから」


「小学生の遠足か? ちなみにおやついくらなんだ?」


「千円だよ」


「お、おう。反応しづらいな」


 奏介はもたもたしている二人を横目に靴を履いた。


「電車移動だっけ?」


「うん、駅集合。あんまり早いとわたしが起きられないから、九時だよ」


 ドヤ顔である。


「変なところをワンマンにするのやめなよ……」


 と、階段を降りてくる女子達が目に入った。


「あ、今帰り?」


 ヒナが手を振りながら歩み寄ってくる。その後ろからは水果とモモだ。


「ひーちゃん達も?」


「ううん。ボク達は演劇部」


「そういや演劇部、須貝が入りたいっつー話だったよな? 見学か?」


 モモが頷く。


「決めかねていて、見せてもらえるらしいから」


「うち、部員少ないからね。入ってもらえるなら大歓迎だよ」


「ボクは面白そうだからついてくんだ。そういえば動物園楽しみにしてるから」


 そう言って三人は去って行った。






 奏介は二人と正門を出た。


 少し歩くと、車がそばに停まり、窓が開く。


「こんにちは。今帰りなのですね」


 運転席から声をかけてきたのはいつみだった。後ろにはあいみも乗っているらしい。


「いつみさんだー。久しぶりですね!」


 詩音が嬉しそうに言って、奏介も会釈する。


「こんにちは」


「良かったら送りますよ」


「え、良いんですか?」


 詩音、送ってもらう気満々だ。


「知り合いか?」


 真崎に問われ、奏介は頷く。


「後ろに乗ってる子が同じマンションに住んでて、色々あって伯母さんのところで預かることになってさ。顔見知りになったんだ」


「へぇ。んじゃ、おれは歩いて帰るから。日曜日な」


「あ、よかったら送りますよ。三人で帰るところだったのでしょう?」


 真崎は手を横に振った。


「いや、どうせすぐ分かれるところだったんで気にしないで下さい。じゃな」


「ああ」


「またねー、針ケ谷君」


 真崎を見送ったところでいつみの車に乗り込む。


「悪いことをしてしまいましたね」


 そんなことはない、とフォローを入れておいた。真崎は気にしないだろう。


「お邪魔しまーす。あ、あいみちゃんも保育園の帰り?」


 チャイルドシートのあいみは嬉しそうに頷く。


「今日は伯母さんのおしごとが早いから帰るのも早いの」


 そう言ったところで奏介が隣に座る。


「えーと、詩音さんナビいれてもらえますか?」


「はーい。えっと、住所検索、ここでいいんですか?」


いつみは頷いて、指をさした。


「そっちはドラレコの操作です。その下ですね。すみません、車で道を覚えるのが苦手で」


 いつみはそう言って苦笑を浮かべる。

 マンションの住所を打ち込み、案内が開始された。


「そうすけ君、さっきのおともだち?」


「ああ、そうだよ」


「わたしもおともだちできた。ウサギ組なの」


 今の保育園はクラス名が動物のようだ。


「そっか、良かったね」


「もうすぐあいみの発表会なのですが、お二人も見に来ませんか?」


「えっ、あいみちゃん何するの? 白雪姫とかかな!?」


「えっと、お姫様の劇。先生が考えたの」


 先生のオリジナルストーリーらしい。


「奏ちゃん、行こうよ。あいみちゃんの晴れ姿を見届けないと。幼稚園なんて十年ぶりかな?」


「休みの日なら普通に行けそうだけど」


「日曜日なので大丈夫だと思います」


「そうすけ君」


 あいみがそわそわした様子でこちらを見ている。


「わかった。じゃあ、行こうかな。詩音と行くから」


「ほんと? やった。あのね、お母さん来たことないの。伯母さんも来るから三人!」


 嬉しそうだ。そしてサラッと悲しいことを言う。今までの境遇を思うと複雑な気持ちになる。


「では追って連絡しますね」


 と、いつみが言った瞬間である。前の車と空けていた、いわゆる車間距離に白い車が割り込んできたのだ。


「!」


 すぐにテールランプが点灯し、いつみがブレーキを踏むも間に合わなかった。そこまでではないものの、ドンッという衝撃が。


「わっ」


 どうやら割り込んできた車に突っ込んでしまったらしい。






 二台の車を道路脇に止める。


 白い車から降りてきた若い女性は不満げだ。


「申し訳ありません。今警察を呼びましたので」


 いつみが深々と頭を下げる。


「はぁ。あのさぁ、スピードの出し過ぎなんじゃない?」


 奏介と詩音は顔を見合わせた。今の状況を考えても悪いのは彼女だろう。


「こんなに凹んでさぁ。新車なんだけど? おばさんて皆こうなの? 直んなかったらどう責任取るわけ?」


 状況的に言い過ぎだろう。いつみは何度も謝っているが徐々に暴言に変わって行く。


「もう二度と運転しないでよ。迷惑」


 奏介はすっと目を細めた。


「ド下手くそな運転してる癖に偉そうなおばさんだな」


 その一言に勢いよくこちらを向く女性。


「……は? 何? あたしまだ二十歳なんだけど?」


「俺は十五です。五歳年上でしょ? 二十歳なんだけどって言われても困るんですが?」


 言葉に詰まる女性。


「……あのさぁ。ぶつかってきた癖に何偉そうにしてんの?」


「俺免許持ってないですよ。そこのいつみさんが頭下げて謝ってるでしょ。話聞いてないんですか?」


 この件に関しては少し強気に出ても問題ないだろう。何しろ、危険な運転をしていた証拠はいつみの車の中にあるのだから。

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