第78話事故を誘発するような運転をしていた運転手に反抗してみた2

「れ、連帯責任でしょ? 同じ車に乗ってたんだから」


「俺は免許持ってないし、取る資格もないし、なんなら運転していたいつみさんとの血縁関係もありません。大事な知人であることに変わりはないですけどね」


「へ、屁理屈を」


「ところで、百パーセントこっちが悪いみたいに言ってますけど、いつみさんの運転に問題はなかったと思うんですけど?」


 女性はこの上なく不機嫌そうな顔になり、軽蔑の目を向けてきた。


「ぶつけてきたの、このおばさんでしょ? 何言ってんの? ガキが」


「車間距離って言葉知ってます?」


 少し前に真崎がバイクの免許を取ろうとしていた時に聞いた。それ以前にも親に聞いたことがある。


「ばかにしないでよ。車と車の距離のことでしょ。何、それくらい知ってるからっていい気になってんの?」


「車間距離を保って走行するのが安全な運転ですよね? いつみさんは前の車とぶつからないように間隔を空けてたと思うんですけど、そこへ割り込んで来ましたよね?」


「それが何?」


「ぶつからないように距離を空けてるっつってるでしょ? そこへ割り込んで来たらそりゃぶつかるって話です。頭弱いみたいなのでもう一度言いますが、車間距離は前の車とぶつからないように余裕を持って空けてるんです。そこへ割り込んで来たらぶつかるんです。理解出来ました? おばさん」


「っ! 何度もおばさんおばさんて」


 奏介は呆れ顔で息を吐いた。


「食いつくのそこですか? ていうか、自分が言われて怒るようなことを何度も人に言ってて性格悪いですね」


「はぁ? こっちが被害者なのに相手を罵っちゃダメなわけ? 怒るのは当然でしょ!?」


「接触しなくても、事故を誘発するような運転は罪に問われますよ」


「なん……なのあんた」


 怒り心頭の様子で女性は、睨んでくる。


「あたしに問題があったって言いたいの? ぶつけたのはこいつ!」


 いつみを指でさす。


「それは事実でしょ? なんであんたみたいなガキにあーだこーだ言われなきゃならないの」


「いつみさんがぶつけたのは事実でもあなたに問題あったのも事実でしょ」


 と、サイレンが聞こえてきた。どうやら警察が来たようだ。


「言ってられるのも今のうちね。警察が来たらこの車の状態見て判断するだろうし。ぶつかる前に何があったかなんて」


「ドライブレコーダー」


「……え?」


 奏介は親指で後ろのいつみの車を指した。


「いつみさんの車、ドライブレコーダー搭載してるんです。写ってますから」


 女性の顔から強気な様子が消えた。


「あー、その顔。少なからず自分が危険運転をしてたって自覚あるんですね? その上でいつみさんに罪を擦り付けようとしてたんですか。最低最悪ですね。……いつみさんもそんなに謝らなくていいのに」


 ぽかんとしていたいつみは不思議そうに首を傾げた。それから、


「いえ、私がぶつけたのは事実ですし、そこら辺は素直に謝罪すべきだと思いまして。どちらにしろ、ドラレコの映像でこちらの方の過失になることはわかっていますよ」


 淡々と当たり前のように言う。


「いつみさん、律儀だね」


 詩音が苦笑を浮かべていた。つまり、この場でその事実を知らないのは彼女だけであり、とんだ道化師だったわけだ。


「わ、わからないじゃない。警察がどんな判断するかなんてっ」


 動かぬ証拠があるのだから言い逃れは出来ないだろう。


 と、近くに停まったパトカーから降りた警官達が歩み寄ってくる。


「追突事故ですね。まず状況の説明を」


「この女が後ろからぶつかってきたのっ」


 興奮した様子でいつみを指さす。


「はい、ぶつけてしまったのはわたしです。前の車と距離を空け走行していたのですが、こちらの方の車が急ハンドルで割り込んできまして」


 冷静ないつみが現場の道路を指で示しながら説明を開始する。警察は女性の様子には呆れているようだ。


 奏介と詩音はいつみの車に戻った。


「あ、伯母さんだいじょうぶ?」


 チャイルドシートに乗ったままのあいみが不安そうに聞いてくる。やはり、むやみに降ろさなくて正解だった。いつみが暴言を吐かれているところなど見せたくない。しかし警察も来たことだし車の状態も見るだろう。


「大丈夫だよ。一回降りようか」


「う、うん」


 その後はいつみに言われて、先に奏介の家に行くことになった。保険会社から代車を借りることが出来たら、迎えに行くとのことだ。


 あいみと手を繋いで三人、道を歩く。


「そういえば、二人ともどこか痛くない? ほら、交通事故って後から痛みが出るって言うよね?」


 詩音の質問にあいみが首を傾げる。


「痛くない。そうすけ君は?」


「俺も大丈夫そうだけど、しおは?」


「うん、平気! なんか大丈夫そうだね。こっちがぶつかられたわけじゃないからかな」


「いやまぁ、そこまで衝撃はなかったから。いつみさんもあの人も心配なさそうだけど」


「ああは言ったけど、いつみさん大丈夫かなぁ?」


「ドラレコはしっかり動いてたからね」




 その後、過失は女性の方にあるということになったらしい。もちろん、決め手は映像だ。


 ドライブレコーダーは最強である。

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