第73話子供の行動を制限して支配している母親に反抗してみた2
高士母はぽかんとしてから、
「……は? わたしは高士のことを誰よりも考えてるの。どうでも良い? そんなこと、あるわけないでしょ!?」
「え、孤独死が高士君にとって最も良い結末だと? 孤独死させるために勉強させてるってことですか?」
「うちの高士は孤独死なんかしないよっ」
「女の子と話しちゃいけないのにお嫁さんをもらえるわけないでしょ。たくさん友達がいて寂しくないって可能性も潰してるのになんで言い切れるんですか? 日本人の平均寿命八十何歳らしいですけど百歳まで生きて、高士君のそばにいられる自信があると?」
「っ……」
言い返せないらしい。
「まさか何も考えてないなんてことはないですよね? そういえば、漫画やゲームはともかく、テレビも見せないらしいじゃないですか」
「あんなの見てたら頭が悪くなるでしょ」
奏介は高士を見やる。
「ネットとか動画はオッケーなの?」
「ううん。それも、禁止。……友達に面白いゲーム実況する人がいるって教えてもらったけど、見れてなくて」
「へぇ」
奏介は高士母を見る。
「な、何。悪いの? ネットなんか悪影響しか受けないじゃない。それに、なんとかチューバー? あれを真似されたら堪ったものじゃないでしょ」
「それは否定しませんけど、ニュースや世の中で起こってること、流行りなんかも高士君はまったくわからないことになりますよね。社会の先生が言ってましたけど、会社の面接では政治や最近のニュースについてどう思うかなんて質問されることもあるとか。勉強だけやらされてる高士君は恥ずかしい思いをすると思うんですが」
「そ……そんなの、新聞で充分でしょ?」
奏介は高士へ視線を向ける。
「新聞読めなんて言われたことあるの?」
高士は首を横に振る。
「た、高士っ」
「え、なんで今見栄を張ったんですか? 高士君の将来の話をしてるのに、思いつきで発言するの止めてくださいよ」
睨んでくる高士母。
「……なんで他人にそこまで言われなきゃならないの?」
「その他人に向けて頭悪いとかほざいたからでしょ。知ってます? それ悪口って言うんですよ。どう考えても喧嘩売ってるでしょ」
「ほ……本当のことじゃない」
「俺も本当のこと言ってます。何か文句でも?」
その場がシンと静かになる。
「一応忠告しておきます。今、高士君はあなたの言葉を聞いて大人しく従ってますが、この先成長したらどうなるかわかりませんよ」
「……は?」
「反抗期って知ってますよね? 中学生、高校生くらいになった時、自分のやりたいことをやらせてくれないあなたに対して、良い感情なんかもたないでしょ。ずっとこんな状態だと最悪、不良に」
「ずっと続けるわけないでしょ!? お受験があるから。終わったらもちろんお友達と」
「中学入ったら高校受験、高校入ったら大学受験、大学入ったら就職活動。そういう言い訳をして勉強させる気でしょ。いつ友達と遊ぶ時間を作るって言うんですか? ていうか、小学生の今が一番友達と遊べる時期でしょ。それを潰して高士君のため? ふざけてますよね? あなたは高士君のことなんか考えてないんですよ。彼の意見も尊重する気がない。ただ、自分の理想を押し付けてるだけです」
「っ……!」
どうしようもなく悔しそうに顔を歪ませる。
と、高士が前へ出た。
「お母さん、僕、勉強ばっかりじゃやだよ。学校終わってからも遊びたい。漫画読みたい、ゲームしたい、動画も見たい。……お母さん、いつもいじわるするけど、僕のこと嫌いなの?」
高士母は、その言葉にはっとして顔を引きつらせる。
「い、いじわるって、そんな。嫌いなわけ……」
「頭冷やした方が良いんじゃないですか?」
奏介の言葉が効いたかはわからないが、彼女はふらふらと家の中へ入って行った。
高士は水果の家で預かり、夕飯を食べさせたら帰そうということに決まった。それまでに高士母が自分の間違いに気づいてくれれば良いのだが。
午後七時。
奏介と詩音は椿家の前にいた。見送りに出てきた水果、高士と向かい合う。
「それじゃ、またね! 高士君も」
「う、うん。ありがと」
「帰り道、気をつけるんだよ? まぁ、菅谷がいるから大丈夫だとは思うけど」
「ああ、そんなに遅い時間じゃないから大丈夫」
お互い挨拶をし、背を向ける。詩音について通りに出ようとした時、服を引っ張られた。
「!」
振り返ると、高士が服のすそを引っ張っていた。
「ん?」
水果は玄関に入って行くところだ。
「あ、あのさ。兄ちゃん、ありがと。ちゃんとお母さんに言いたいこと言えたから」
「ああ、よかったな」
「それで、さ」
小声になる。
「兄ちゃんは水果姉ちゃんと仲良いの?」
一瞬質問の意味が分からなかったが、彼の複雑そうな表情に気づいた。分かりやすい。
「友達。まぁ、仲良い方かな。友達として」
「よ、よかった。兄ちゃんには絶対負けるし」
「今のところ、学校でもライバルは見たことないよ」
「そ、そうなの?」
奏介は高士の頭を撫でて、
「それじゃ。仲直りできると良いな」
高士はこくりと頷いて、手を振った。
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