第63話万引きを強要してきた連中に反抗してみた4
証拠を突きつけると、三人は表情を固めて動きを止めた。
「副店長、警察へ電話お願いします」
「早く店長呼んできて」
「お客様ー、あまり集まらないでくださーい」
周りがバタバタと慌ただしくなる中、三人は呆然としている。
「お前らは万引きをしてこいって俺達に言ったけど、それが犯罪になるって自覚あったか?」
「……え」
片巣が目を瞬かせる。まるで狐に摘まれたような顔だった。それがまた許せない。
「もうすでにお前らは犯罪者だ。何がバレなきゃ大丈夫だ。金を払わず商品を盗って良いわけねぇだろっ」
三人はびくりと肩を揺らす。
「しかも、それを他人にやらせて自分達の手を汚さないとか、最低のどうしようもないクズだな。どうせ万引きくらい対した犯罪じゃないとかバカな考えもってんだろ!? この店の運営だってタダじゃないんだ、商品を売った金で社員やバイトに給料払ったり、次の仕入れたりしてんだ。どういうことかわかるか? お前らが俺達に強要した行為は、ここの店員全員の給料と次に仕入れをするための金を盗んでるのと同じなんだ。その結果運営ができなくなって、潰れるかもしれない。親の金で学校行って、お小遣いもらって、楽しく過ごしてるだけのお前らに、その責任が取れんのか!?」
「そ、そんなことまで知らないわよ」
「そうだ、一つや二つでそんな」
と、片巣がはっとしたように笑みを浮かべる。何か閃いたようだ。
「な、何偉そうに言ってんだよ。やったのはお前らだろ。お前らが犯罪者だっ、万引きしたことに変わりはないんだからなっ」
「してねぇよ」
「へ?」
すると、近くにいた店員さんが鋭い視線を彼らに向けた。
「ええ、してませんよ。彼らは毎回ちゃんと代金を払ってましたから」
「え? は?」
「本当にバカだな」
奏介は蔑むように言って、
「勘違いしてるみたいだから言うけど、お前らの罪は万引きじゃない。犯罪を他人に強要しようとした強要罪だよ。詳しくはないけど、重い罪らしいぞ? よかったな、明日から学校へ行かなくて済むし、家族共々周りから熱い視線を送られるんじゃないか」
三人はぶるぶると震えだした。事の重大さは伝わったようだ。
「証拠は全部とってある。なんなら動画もあるぞ。間抜けだな。あれだけ録音録画されてるのに気づかないとかさ。そういえば、星」
「へ!?」
名指しに、星はさらに怯えた表情になる。
「お前にはチャンスがあったと思うけど、なんで棒に振ったんだ?」
「え?」
「親がちゃんと止めてくれたのに、どうして聞かなかったんだ」
「なんで、知って」
奏介は息を吐いた。
「きちんと娘を叱れるお前の両親がこれから苦しむと思うと、辛いよな」
「お前、なんなんだ? なんでこんなこと出来るんだよっ」
奏介は三人の顔を見回した。
「最初にお前らが根黒に喧嘩売ったからだろ? こいつに喧嘩売っといて俺が黙ってるはずないだろ」
根黒が目を見開いて奏介を見る。
「まあ、今さら反省しても遅いだろうけど」
その後は警察が来て、証拠を提出し、軽い事情聴取を受けて帰された。予想通り、片巣達は逮捕されたらしい。ちなみに、いくつか余罪があったそうだ。
◯
帰り道。奏介は根黒と一緒に歩いていた。
「ありがとう、菅谷君」
「別に俺のためでもあったからな。それに、小四の時は根黒がいたから楽しかったこともあったし」
思い返してみると、いじめられ仲間とはいえ一緒に過ごせる友達がいる学校生活は楽しかった。随分と気持ちが救われたものだ。
「ぼ、僕もだよっ、うんあの時は」
「黙っていなくなってなければパーフェクトだったな」
無表情の奏介。
「ち、違うんだよっ」
「慌てなくても気にしてないって言ったろ。なんでそういじめてくださいみたいな態度取るんだよ。シャキッとしろ。ほんとに俺がいなかったらどうしてたんだ」
と、根黒が足を止めた。
「あ、あのさ菅谷君」
振り返ると、根黒が顔を赤く染めてもじもじしていた。最高に気持ち悪い。
「ぼ、僕を、菅谷君の弟子にしてくださいっ」
「嫌だ。下らないこと言ってないで帰るぞ」
意味不明だし、何の弟子なのかも分からない。
「じゃ、じゃあせめて友達に」
「別に良いけど……」
「なんで嫌そうなの!?」
そんなやり取りをしつつ。彼とはあの公園で別れた。
◯
翌日放課後。
奏介は久々に真崎と昇降口へとやって来た。
「へぇ、万引き強要ねぇ」
「まぁ、全部解決したけどね」
「それにしても昔の友達に騙されて犯罪に巻き込まれるとか結構精神的ダメージ、デカイよな」
「脅されてたから仕方ないんじゃない? 結局制裁出来たから俺は満足だけど」
「あっ、奏ちゃーん」
と、向こうから詩音が手を振って近づいてくる。
「どうした?」
「最近学校出るの早いのに帰り遅いから心配してたんだよっ、今日はもう大丈夫なの?」
「ああ」
詩音の表情が明るくなる。
「そっか、よかったね」
深く聞くつもりはないのだろう。
「で、漫画読んだ?」
それはそれとして、漫画の感想を聞くのがメインの目的のようだ。
「まだ」
「むー楽しみにしてるのに」
と、後ろからわかば達三人組が近づいてくるのが見えた。
「あ、生きてたわね」
「こんにちは」
わかばとモモが声をかけてくる。
「菅谷くん、どうだった? 上手くいった?」
ヒナが首を傾げる。
「あぁ、ありがとな」
ヒナはにっこりと笑う。
「君の役に立ててよかった」
「あんたのことは心配するだけ無駄ね」
「え、橋間は心配してくれたの?」
「いや、ちょいちょい心配してるじゃない。巻き込まれ体質過ぎてハラハラするのよ。まぁ、全部杞憂なんだけど」
「そうか、ありがとう」
「キモっ」
「締めるぞ」
「すみませんっ」
いつもの流れだ。
するとモモが困ったように、
「ごめんなさい。なんか、かける言葉が特になくて」
「流れに乗らなくて良いんだぞ、須貝」
以前に関わった時は家のことで気落ちしているのかと思ったが、元々大人しい性格のようだ。そう考えると、くつ箱の嫌がらせをしてきたわかばに引っぱられていたのだろう。
「……きっと菅谷君なら心配ないわね」
モモの言葉に奏介は小さく頷いた。
「あれ、この面子なら椿だけいねえじゃん。部活?」
「そ、演劇部だよ!」
「椿ちゃん、どんな役やるんだろ? ボク、一回見てみたいんだよね」
「演劇部……この前言ってた特殊メイクの先生がいるのよね?」
モモが興味ありげに詩音に聞いている。
根黒が言うように、いつの間にか友達は多くなったのかもしれない。挨拶をしたり、雑談をするクラスメートもいる。小学生のころとは比べ物にならないほど、普通の日常生活だ。
特に今のこのメンバーの中に、根黒を放り込んでみるのも面白いかもしれない。なんとなく、そう思った。
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