第61話万引きを強要してきた連中に反抗してみた2

 根黒はごくりと息を飲み込んだ。


「潰すって、どうやって……」


「奴らは今調子に乗ってるから、まずは油断してるところを軽く攻める」


 奏介はスマホで時間を確認する。


「根黒、お前達、灰島高はいとうこうだろ? 奴らの住所とか家の電話番号とかわからないのか?」


「え、そんなの分かるわけ」


「いや、在籍してるなら全生徒の名簿くらい見れるだろ。学校のPCのパスワード知ってるならすぐに調べてこい」


 根黒は首を左右に振った。


「無理だよ。名簿なんてどこで見るかわからないもの」


「……」


 奏介は目をそらす根黒に複雑な気持ちで視線を送る。あの頃からまったく変わっていない。出来るかもしれないことをやろうともしない。思考停止し、最初から諦めてしまう。


 しかし、奏介を騙してここへ連れてきたり、万引きをやろうとしたりと強く脅されればやらざるを得なくなり、行動するのだろう。


(……ここで俺が脅して調べさせても良いけど)


 それはそれで面倒臭くなりそうだ。だからと言ってさすがに他校へ乗り込んで行って名簿を漁るわけにも行かず。


「ごめん、無理なものは無理だよ」


 奏介はため息を一つ。もう一度スマホで時間を確認する。


「まぁ、まだあいつら家に帰らないだろうから時間はあるか」


「……片巣君達が家に帰るとまずいの?」


「まずくはないけど、いない方が良い。どうせカラオケ行こうぜとか言ってバカ騒ぎしてんだろ。その間に不意討ち喰らわせるぞ」


 奏介はスマホでアドレス帳を開き、とある番号をタップした。


 耳に当てる。呼び出し音の後、


『はい、もしもーし』


 相手が出た。


「僧院か?」


『菅谷くん、どしたの?』


「悪いんだけど頼みたいことがある」


『ボクに? 珍しいね』


「いや、時間があれば自分でも出来るんだけど。ちょっと急いでるんだ」


 伝えたのは片巣率いるリア充グループの個人情報を手にいれたいという内容。


 フルネームは根黒が知っていたのでそのまま伝える。


『灰島高ね。了解。もうすぐ家だからそしたら調べるね。多分すぐわかるよ』


 と、別の声が聞こえてきた。


『ねぇ、また何か捲き込まれてんでしょ? どんだけよ、あんた』


 どうやらわかばと一緒らしい。


「良いんだよ。危ないから関わってくるなよ、橋間」


『何やってんのよ……』


『菅谷くん、わかったらまた電話するから待ってて』


「悪いな、巻き込んで」


『ううん。大丈夫だよ。君のためなら喜んで』


 そこで通話は切れた。それと同時にスマホが鳴る。


「……しお?」


 画面に表示されたのは『詩音』という文字。


 とりあえず出ておく。奏介の母親とも繋がっているので無視すると後々面倒なのだ。


「もしもし」


『奏ちゃん、今どこ?』


「ちょっと寄り道してるんだ」


『えー? そうなのー? せっかく漫画持ってきたのに。じゃあ、勝手に部屋に置いとくね。前に貸した漫画の続きが出たんだよ! 出てくる女の子がめちゃくちゃ可愛いから読んで』


「いや、お前……」


 こんな時に無駄話をしてる暇はないのに。


『それじゃ気をつけて、帰って来てね』


 そして一方的に通話が切れた。最後の方は何かを感じ取ったのかもしれない。


 そんな様子をぼんやりと見つめるのは根黒である。


「菅谷君……友達多いんだね。さっきも一緒に帰る友達がいたみたいだし」


 どこか羨ましげに、言う。


「僕なんか、一人もいないのにさ。学校にいても透明人間みたいなんだよ。君は、随分変わったね」


「お前、この状況で何自分語り始めてんだ。ちょっとは自分でどうすれば良いか考えろ」


 やがてヒナからメッセージが届き、彼らの個人情報が割れた。


 根黒が画面を覗き込んでくる。


「これを知ってどうするの?」


「公衆電話探すぞ」


 今時は少なくなったが、たまに見かけるし、以前のスーパーのバカ息子の件で使ったことはある。スマホを非通知にしてかけても良いが、念のためだ。


 駅の近くにあった公衆電話を見つけ、奏介は受話器を取った。


 まずは女、星ほしトウナというらしい。


 自宅にかける。呼び出し音の後、母親らしき女性が出た。


『はい、星です』


「もしもし、トウナさんのお宅でしょうか」


『はい……そうですが、どちら様?』


「とあるスーパーの店員をしている者です。トウナさんのお母様ですよね。実はトウナさんがうちの店で万引きをしているところを見てしまって」


『……え……?』


 息を飲む気配。


「あ、いえ、警察に届ける気はないんです。お互い面倒なことになりますし。しかしですね、あまりにも何度もされているとこちらでも困るんです。売り上げに影響が出てきますし、うちも従業員を抱えていますからね。公には絶対にしません。ですが、お母様の方からキツく注意をしていただけませんか?」


『え、あの』


「大事になる前に、よろしくお願いします」


 奏介は返事を待たずに通話を切った。


「す、菅谷君?」


「母親が信じるか信じないかは問題じゃない。こうすれば、少なくとも娘に確認取るだろ?」


 奏介はにやりと笑った。






 夜、九時半。カラオケを終えてファミレスでだらだらしてから解散し、星トウナは自宅へと戻ってきた。


「はー。楽しかったぁ。カラオケとか久々だったし」


 玄関のドアを開けると、目の前に母親が立っていた。


「ちょっ!? 何よ、ママ。びっくりするじゃん」


「トウナ、ちょっとこっち来なさい。パパもいるから」


 低い声で言われ、ビクリと体を震わせる。


「え、えぇ? どうしたの、いきなり」


 自宅のリビングに入るとこちらを父親が睨んでいた。そして母親の表情も厳しい。


「なん……なの?」


 トウナは困惑するしかなかった。

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