第51話昔告白されて振った男子を騙して付き合ってみた1
高校一年生の
「あ、あのさ。リリスさん」
「何ですか?」
リリスは笑顔で首を傾げる。周りから超絶美少女とまで言われるリリスの笑顔に彼は思わず視線をそらした。恥ずかしげに眼鏡を直す。
他校に通う彼とは数日前に駅で出会った。その時のちょっとしたハプニングの末に仲良くなり、今に至る。
「今度の日曜日、で、デ……デートしませんか!?」
「え?」
「ほら、は、初めての週末だし、映画とか遊園地とか」
「……」
「あ、いや! ごめん。ほらゲームではデートでそういうとこ行くからさ。えと、なんならラ、ランチだけでも。その、リリスさんの私服も見たいし」
「きも」
その一言に彼は一瞬固まり、無表情のリリスと目を合わせた。
「……へ?」
「きもいです。私服? 見せるわけないでしょう。やっぱり、ゲームオタクってきもいですね。今日でさようならです」
「へ、えっ、だって、ゲーム好きな人が好きって」
「合わせてあげただけです。きもいのでもう声かけてこないでください」
彼は一歩後退し、
「そんな」
「ゲームなんて下らないです。あなたには二次元の女がお似合いですよ」
涙を浮かべると、走ってどこかへ行ってしまった。
「ぷっ、はははっ、良いじゃん。最高!」
出てきたのは三人の同級生だ。男二人女一人、リリス含めて仲が良い四人組なのである。
「ガチ泣きしてたわね~。あーあ、罪作りなリリスちゃん」
女子がクスクスと笑う。
「三日も付き合ってあげたんですから、感謝すべきでしょう」
優越感に浸りながら得意気に言った。
最近四人の中で流行っている遊びだ。言い返して来なさそうな若者を捕まえて、付き合う振りをして最後にこっぴどく振る、という。他校の生徒に絞っているのはもちろん、後腐れをなくすためである。
四人は駅へと向かった。
「さーて、次どうすっか」
「次、俺行こうか? 地味ブス希望~」
「え、ブス専だったの?」
「んなわけあるか。可愛くない女を乙女にしてやるんだよ。その方が最後おもろいじゃん」
四人で笑い合う。このスリリングな遊びが癖になりそうだ。ストレス解消にも凄く良い。
「あれっ、菅谷じゃね?」
四人一斉に指さされた方へ視線を向ける。道路を挟んだ向かいにあるバス停に立つ男子生徒が目に入る。
「うわぁ、変わんねぇな。あいつ。そういや、この前石田が逮捕されたときにさ、ニュースで小学校の頃にいじめもしてた~とか言ってたじゃん? やっぱあいついじめられてたんだなーって思った。せんせーが誤解だって話したけど、結局俺らの中では卒業まであいつがいじめっ子ってことになってたし」
「あー、ちょっと可哀想とは思ったわ。実はワタシも酷いこと言ったことがあったのよね」
リリスは退屈そうにその話を聞いていたが、
「そういや、リリちゃんコクられてなかったっけ? あいつに」
男子に問われ、リリスは耳の後ろにかけた髪を指でくるくるしながら三人を見た。
「ええ。ちょっと優しくしたらすぐ。まぁ。普通に断りましたけど」
まったくタイプでないどころか真逆である。
「だよな」
三人はひとしきり笑って、
「あ、じゃあさ、お詫びに何かしてやろうぜ」
「お詫び、ですか?」
悪い笑みである。
「思い人の檜森リリスと恋人気分を味わえる三日間をプレゼント! どうよ?」
「それ、次のターゲットってことじゃん」
女子が笑いながら言う。
「いいだろー? 好きな女優や俳優と三日間恋人になれるつったら最高だろ」
「そりゃ確かに。んで、リリスはそれで良いのか?」
リリスは少し考えて、
「ええ、構いませんよ。面白そうですし」
かつて告白してきた男子ならちょろそうだ。
「んー、今回の出会いは……久しぶりにばったりで良いよな。シチュエーション的にシンプルな感じで」
「毎日会うようになって、みたいな? 良いじゃん。ロマンチック」
話し合いはその場の数分で終了した。
翌日。
リリスは髪を指でくるくるしながら、バス停のそばで奏介が来るのを待っていた。
「昨日と同じ時間ならそろそろ」
と、見つけた。こちらへ向かってくる奏介の姿が。
「さて、行きましょうか」
リリスはたたっと彼に駆け寄った。
「あの、菅谷君ですよね?」
奏介は目を見開いてリリスを見た。
「え?」
「覚えてませんか? 私、檜森リリスです。ほら、小学生の頃の」
しばし驚いた様子の奏介だったが、思い出したのか表情が柔らかくなった。
「檜森、さん。うん。覚えてるよ。あ、その制服隣り町の」
「ええ。菅谷さんは桃華なんですね。前にこの辺りで見かけたので気になって」
「そうなんだ。懐かしいな」
びくびくしながら少しぎこちなく笑う。女慣れしていない証拠だ。
「よかったら一緒に帰りませんか? 嫌じゃなかったら途中まで歩きで」
バスの路線は違うが、お互い乗らなければ家の方向は同じなので可能だ。
「え、い、良いの?」
リリスは口元に手を当てて、くすくす笑う。
「良いのって誘ってるの、私ですよ?」
「あ、そうだよね。うん……じゃあ、よかったら」
頬を微かに赤らめる彼。初な反応だ。このあとのことを考えるとなんとも不憫である。
(まぁ、騙される方が悪いですしね)
心の中で呟いてから、
「はい」
にっこりと笑って歩き出す。
ついて歩き出しながら、奏介は目を細め、鋭い視線を彼女の背中に向ける。それから、口元に薄い笑みを浮かべた。
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