第52話昔告白されて振った男子を騙して付き合ってみた2
リリスは奏介と一緒に帰り道を歩いていた。彼はリリスが誘って来たことになんの疑問も抱いてはいないようで、終始照れている。憧れの女の子と二人で歩ける、そんな状況が戸惑いながらも嬉しいのだろう。
(ちょろいですね)
あれから今まで想われていたかと思うと、少し気持ち悪いが。
「なんだか顔が赤いですね? もしかして熱でもあります?」
自然な形で額に手を当てると、奏介は固まった。
「あ、あの、檜森さん?」
「熱はなさそうですが」
「ひ、檜森さん、手」
「!」
リリスは驚いた振りをして、手を引っ込めた。
「す、すみません。小さい弟がいて、よくこうやって熱を計るものですから」
弟については事実である。
「あ、いや、その……ありがとう。心配してくれて」
リリスは内心でため息を吐いた。
(ちょろ過ぎて退屈ですね。美少女にデレデレなオタクとかきもいです)
振る時に言ってやろう。そう決めて、照れまくる奏介に笑顔を向ける。
「そういえば、菅谷君は彼女さんとかいるんですか?」
「へ?」
間抜けな顔である。
「え、いや、いないけど。なんで?」
「実は」
リリスは後ろで手を組み、少し恥ずかしそうに見えるように表情を作る。
「私もいないんですよ」
「そ、そうなんだ。意外だな。檜森さんなら格好良い彼氏がいそうだけど」
「いえいえ、モテないですよ」
「モテないって……絶対そんなことないよ。檜森さんのことを見てる男子なんてたくさんいるよ」
自分も見ている男子の一人だと、アピールでもしているつもりだろうか。
ちなみに間違ってはいない。その美少女容姿から学校内ではファンクラブが存在するくらい人気がある。
(余裕ですね。今日告っても良いですけど、もう少しこのふわふわした感じを続けた方が現実感が増すかも)
と、奏介が足を止めた。
「じゃあ、俺はここで……。なんか、久しぶりで楽しかったよ」
「私もです。菅谷君はいつもこの時間なんですか?」
「あ、うん。大体は」
「ではまた、明日会えたら声をかけても良いですか?」
「も、もちろんだよ。うん」
「良かったです。では」
リリスは頭を下げて、彼と別れた。
彼女の背中に向かって手を振っていた奏介はその姿が見えなくなると同時にすっと表情を消した。
「……頭沸いてるな、あの女」
奏介と別れたリリスは近くのコンビニの前で待機していた三人の元へ戻った。
「お待たせしました。どうでした?」
リリスが髪をかき上げながら得意気に笑む。
「いや、マジで完璧。菅谷デレッデレだったじゃん。ザ・キモオタって感じ」
「ありゃ童貞よなぁ」
「振られたら泣きそう~。罪悪感ヤバイかもよ?」
「泣かせるつもりで行きますよ。ちょっと時間かけますね」
すまして言ったリリスはこれからのプランを練り始めていた。何故か非常に加虐心をくすぐられる。
その日から、学校帰りの奏介を待ち伏せし、仲を深めていった。そしてそれから三日後。
帰り道の別れ際、
「あの、良ければ私と付き合ってもらえませんか? 以前は断ってしまいましたけど、久しぶりにお話をしてみて、凄く楽しかったから」
頬を赤らめ、少しもじもじする。見ると、奏介も目を見開いていた。
「お、俺なんかで良いの?」
「はい。菅谷君が良いです」
笑って見せると、奏介は表情を輝かせた。
「う、うん。よろしく、お願いします」
「はい」
こうして、彼と付き合うことになった。
その翌日のこと。
朝から四人で登校していた。
「あっはははっ。彼氏おめでと、リリス」
「まったく嬉しくないですけどね。キモオタが彼氏とか」
小さく息を吐く。
「おいおい、告白しといて言うかね」
男子二人がにやにやと笑う。
「ま、明日デートして明後日には振りますけどね。その時が楽しみです」
「あっ、振る瞬間、録画して動画サイトに流さない? 友達にドッキリ仕掛けてみたってタイトルなら炎上しないんじゃない?」
「それ、面白そうじゃん。顔隠せば大丈夫っしょ」
奏介の話題で盛り上がりながらも学校の前に着くと、校門の前に人集りが出来ていた。
「ん? なんだありゃ」
男子二人は反応するも、リリスは興味なさげに通りすぎようとしたのだが。
リリスの姿を見つけた生徒達がざわつくのが分かった。
「あの、檜森さんっ」
大声で叫んだ男子が歩み寄ってきた。
「……はい?」
見ると隣のクラスの男子だった。
「僕と、付き合って下さいっ」
頭を深く下げ、その声が辺りに響き渡る。
「へ?」
すると、さらに数人の他クラス男子が出てきた。
「おまっ、おれが先なんだよっ」
「ふざけんな、オレだろ」
リリスは呆然とするしかない。何が起こっているのか。
と、正門のところに何か張り紙がしてあるようだ。
ピンク色のハートの紙だ。そこにはこう書かれていた。
『学校のアイドル、檜森リリスは現在、彼氏募集中です! 皆の前で元気よく告白してくれる男子の皆さん。待ってます!』
リリスの後ろ姿の写真が添えられている。
「なんですか、これ?」
まったく心当たりがなかった。
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