第46話生徒会長after

 桃華学園生徒会長、泉カナメ。少し前まで彼女は彼女自身の行いを疑うことはなかった。自身の判断で生徒のために校則を増やすのはもちろん、生徒達は自分を支持してくれていると思い込んでいた。今もそう思いたいが、


「おい、生徒会長だ」


「やば」


 廊下を歩いてくると聞こえて来る男子達の声。カナメの姿を見ると逃げたり動揺したり。悪口ではないが、彼らはカナメと関わりたくないようだ。


 男子差別。とある生徒に言われたその言葉はどうやら嘘ではないらしい。無意識に、男子を下に見ていた。


 カナメは生徒会室へと入る。今日は会議がないので他のメンバーの姿はなかった。


「……男子なんて、下等じゃない」


 反抗的にぽつりと呟いてみるものの、幻聴で『そんなに嫌なら女子高へ転校しろ』と聞こえてくる。まったくその通りで何も言い返せない。嫌なら女子ばかりの環境へ行けば良いのだ。ここは共学であり、男子がいるのは当たり前なのだから。


「くっ、わかってるわよ。そっちが正しいわよ」


 いくら反論の言葉を考えても思いつかなかった。カナメは机に突っ伏して、足をバタバタさせる。


 悔しいがどうしようもない。






 その日の放課後。


 カナメの考え方を壊した菅谷奏介と靴箱で鉢合わせた。


「!」


 ついじっと見つめてしまったせいで彼は眉を寄せる。


「何か用ですか?」


「菅谷君……あなた、わたしの悪い噂を流したりしてないわよね」


「あ、堂々と喧嘩売ってます?」


「純粋に聞いてるのよ」


「会長さんのためにそんな労力使うわけないでしょ。でも、そういうこと聞くってことは周りの自分の評価がわかってきました?」


「……。男子生徒ってわたしのことをどう評価しているの?」


「男子が不利になるような校則を作りまくってるんだからお察しでしょう」




 追加校則~例~




 ○女子更衣室、また女子トイレの入り口に必要以上に近づくのは禁止。




 ○女子と男子の机は必ず三十センチ離すこと。




 ○男子が女子に触れた場合、違反なので反省文を書くこと。




 などなど。発表された時は非難轟々だった。そして守っている生徒は……ほぼゼロだろう。男子の評価というか全校生徒の支持率がかなり下がっている。


 カナメは去年今年と生徒会に入っているが、前任の生徒会長は皆に好かれていた。よく生徒からの相談にも乗っていたが、カナメの代からその役目を風紀委員会相談窓口に取られてしまっている。


「生徒の気持ちを考えようとすることは良いことですね。前も言いましたけど、本来の生徒会長の仕事をしっかりこなして下さい。討論会は見送りになりましたけど、そのうち予算会議があるでしょ」


 生徒会と風紀委員会の討論会は風紀委員長の突然の辞任によって開催は延期になったのだ。


「言われなくても生徒会長の仕事は手を抜かないわ」


「そうですか」


 奏介とはそこで別れた。


「生徒の、気持ち」


 カナメは靴を履き替えながらぽつりと呟いた。

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