第45話副委員長が新人委員長に突っかかっていたので反抗してみた2

副委員長である彼に口答えすることで、風紀委員をクビになる可能性がある。しかし、朝比賀に無理矢理入れられたようなものなので、そうなったところで奏介にダメージはない。


 ここはひとまず、朝比賀の代わりに推薦されてしまった東坂委員長を庇っておいた方が良いだろう。


「教える? オレが? 何故?」


「副委員長なんですから、ちゃんと委員長を支えてあげないと」


 田野井は眉を寄せた。


「委員長は支えられて仕事をするものじゃない。もしオレなら誰かに頼る前に自分で」


「話聞いてます? 誰かに頼るとか頼らないとかの前にまだ委員長の仕事を覚えてないって言ってるんですよ。最初くらい教えないとやり方が分からないでしょう」


「そんなものは見て覚え」


「東坂委員長は今まで風紀委員じゃなかったんですって。料亭の料理人じゃあるまいし、見て覚えろも何も事務仕事にそれいらないでしょ。大体、このまま何も教えずにやらせて間違いだらけだったら、仕事の効率が悪すぎるんですよ。今も間違ってるとかなんとか文句つけてましたけど、田野井先輩が教えないのが悪いんでしょ」


「これは東坂委員長が無能だから」


「無能かどうかはすべての仕事を教えた一ヶ月後に判断してください。その書類が間違ってるのは田野井先輩の責任です。反省してください」


 室内がしんとなる。


「菅谷、お前朝比賀元委員長の推薦だったな」


 標的が明確に奏介に変わった。


「ええ、まぁ」


「実質、今の風紀委員は副委員長であるオレが仕切っている。東坂委員長が使い物にならないからな。お前の後ろ楯である朝比賀元委員長はもういないんだっ」


 腕を横へ振るポーズをつけながらそう言い放った。ドヤ顔である。


「……とりあえず、間違った書類直してもらえます? 仕事が進まないんで」


「なっ」


 奏介の冷めた対応に他のメンバーから笑いが漏れる。


「お、温度差ありすぎでしょ」


「菅谷、動じないんだな」


 などなど聞こえてくるが、奏介は真っ直ぐに田野井を見ている。


「お前、わかってるのか? 今のオレならすぐにクビに出来るんだぞ!」


「冷静に考えて、東坂委員長と山瀬先生の許可が必要ですよね。まぁ、二人がそう思うならそれでも構いませんけど」


「どこまでオレをバカにすれば」


 と、ついに他のメンバーが声を上げた。


「あのさぁ、菅谷君の全部正論だよね?」


 この前の三年女子だ。


「田野井、マジで言ってる意味わからんぞ」


「委員長になれなかった逆恨みうざ」


 田野井に味方なしだ。


「あ、あの、皆さん。申し訳ありません。私がお仕事を覚えきれていないばっかりに。精一杯頑張りますので、よろしくお願いします」


 そう、頭を下げた東坂委員長だったが、その一週間後。




 いつもの会議終わり。風紀委員室にて。


「あの、田野井さん。もう少し誤字を少なくしましょうか? スマホでも構いませんから、きちんと調べて書類に記入して下さいね」


「は、はい」


「では、もう一枚渡しますから、明日の放課後までに。もし間に合わなさそうだったらメッセージくださいね。手伝いますから」


 東坂委員長はにこにこと笑いながら空の書類を手渡す。


「わかり、ました」


「田野井さん、話すときは相手の目を見ましょうね?」


「は、はいっ」


「良いお返事です」


 仕事を覚えた東坂委員長は凄かった。ついたあだ名は『お母さん』。今ではあの田野井が手も足もでなくなってしまった。


 朝比賀の見る目は確かだったらしい。






 その日、解散後。


 奏介は東坂委員長に呼び出された。


「すみません、帰るところなのに」



「いえ、大丈夫です」


 委員長机に座ったままにっこりと笑った東坂委員長。


「一週間前はありがとうございました。あの一件で現風紀委員の結束が強くなった気がします」


「別にそんなことないですよ」


 奏介が笑って見せると、


「ほんとに良い子ですね。田野井さんと副委員長替わりませんか?」


「本気、ですか?」


「もちろん、冗談です。田野井さんも良い子ですよ。ちょっとやんちゃですけど」


 くすくすと笑う。圧倒的強者感だ。色々な意味で勝てる気がしない。


「これからもよろしくお願いしますね、菅谷君」


 奏介、風紀委員継続決定。

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