第二章 だらだら日常編(波乱あり)

第44話副委員長が新人委員長に突っかかっていたので反抗してみた1

退院して学校に戻ると、風紀委員長の朝比賀が委員長を辞任したと聞かされた。とはいえ、少し前にメッセージが届いていたので奏介の知るところではあったのだ。




『自分を見つめ直すことにするよ』




 奏介の説教が大分効いたらしい。わかばの話によると、爽やかスマイルは控え目に、憂いを帯びた様子が評判でファンクラブでは盛り上がっているらしい。なんとも言えないが、一応反省する気持ちはあるようだが。




 復帰一日目の放課後。奏介は風紀委員の会議に出席していた。新しい委員長は東坂とうさかあきらという二年の女子に決まったらしい。


「よ……よろしくお願いします」


 皆の前でぺこりと頭を下げたあきらは小柄で童顔、おさげ髪で中学生のような容姿だった。気弱そうだが、あの朝比賀と風紀委員顧問の山瀬推薦だそう。


「そういうわけで、風紀委員会としては今まで通り学校内の風紀を取り締まり、一人一人が自覚を持って行動するように」


 そう呼び掛けたのは山瀬である。


「じゃあ、委員長一言」


「は、はい。こういった役職は初めてでして、至らないこともあるかとは思いますが、よろしくお願いします」


 風紀委員達から拍手が起こる。元々風紀委員ではなく、委員長として入ってきたそうだ。


「なんだか心配になるわね。東坂委員長」


 隣に座るわかばが言う。


「あぁ。でもなんで副委員長が上がらなかったの?」


「んー……。ちょっと問題があって。まぁ、だからこそ外から委員長候補を探したみたいね」


「え」


 朝比賀も問題があったが、副委員長も何かあるのだろうか。


 わかばの視線の先には一人の男子生徒の姿が。むすっとして、この上なく不満そうに東坂あきらを睨んでいる。


 不穏だ。






 新風紀委員会委員長が就任しての活動一回目。


 今後の活動についての会議中、副委員長こと田野井公平たのいこうへいが司会進行をもたついている東坂委員長を睨みながら立ち上がった。


「もう良いです。委員長なのにこんなこともスムーズに出来ないんですか?」


「……えと、ごめんなさい。まだやり方に慣れていなくて」


 ホワイトボードの前で申し訳無さそうにする東坂委員長。


「風紀委員会を背負っていく立場として考えが甘すぎるんですよ」


「ちょっと田野井君、さすがに言い過ぎでしょ。慣れてないんだからさ」


 田野井はそう嗜めた三年女子を睨む。


「うちの風紀委員会はたるんでいますね」


 雰囲気的に風紀委員達は三年女子に同意のようだ。田野井の物言いに眉を寄せているメンバーが多い。


「あーあ、始まったわね」


 わかばも呆れ顔だ。


「なるほど」


「朝比賀先輩は割りと受け流すのが上手かったんだけど、東坂委員長はヤバイかもね」


 その後もちくちく文句を言われ続ける東坂委員長に段々申し訳なくなってきた。朝比賀の代わりとして風紀委員長になったわけで、その原因を作ったのは奏介なのである。


 少し様子を見ることにした。






 活動二回目。


 会議が終わった帰り際である。


「東坂委員長、これ、半分以上間違っていますよ?」


 田野井が東坂委員長にわざわざ書類を見せつけていた。帰りかけの生徒達は彼を見る。雰囲気的に最悪なのだが、彼は気づいていないようだ。止めに入ろうか悩んでいるメンバーもいる。


「ご、ごめんなさい。引き継ぎはして貰ったのですが、細かいところがまだ分からなくて」


「それでも委員長なんですか!? ふざけすぎでしょうっ、委員長という肩書きをなんだと思ってるんです!? これくらい出来なくて」


「田野井先輩」


 奏介は挙手をした。


「ん……?」


 振り返って眉を寄せる田野井。


「口を挟んですみません。あのですね、東坂委員長はまだ活動二回目でしたよね? 出来なくて当然では?」


「出来なくて当然? 委員長なんだから出来て当たり前の」


「じゃあ、田野井先輩はちゃんと仕事を教えてあげたんですか?」


「何……?」


「だから、委員長の仕事を教えてあげたんですか? 細かいところが分かってないって言ってるじゃないですか。教えてもないのに出来ないってそんなの当たり前でしょ。何わけの分からないこと言ってるんですか?」


 田野井は口を半開きにした。

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