第43話エピローグ

当然だが、二週間ほど入院することになってしまった。骨折はしていなかったものの、打撲があちこちに出来ていたとのこと。


 傷の具合はというと、気合いを入れて切りつけたせいで大分深かったらしい。


 奏介は病院のベッドの上で小さく息を吐いた。事件の被害者と言うことで一人部屋が用意されているのだが、それ故に暇なのだ。


 入院十日目に入ると、徐々にやることがなくなってくる。体の痛みも落ち着いてきたので余計に時間を持て余してしまう。


「奏ちゃんっ」


 聞き覚えのある声に振り返る。笑顔で手を振っているのは詩音である。


「なんだ、結構元気そうだね、菅谷」


「ぼこぼこにされたって聞いたから顔、ヤバイかと思ったけど、大丈夫そうじゃん」


 詩音に続いて部屋に入ってきたのは水果と真崎だった。


「お見舞い来てくれたの?」


「詩音に、面会して良くなったって聞いたからさ。どうだい、体の調子は」


 と、水果。


「ああ、大分良いよ。週末には退院出来ると思う」


「え、マジ? なんだ、よかったな」


「学校も普通に来週から行けそうだよ。骨折しなかったからね」


「んじゃあ、なんか奢らなきゃな。退院祝い」


 そういえばそんな約束もしていた気がする。


「あんた、ほんと無茶するね。自分からトラブルに飛び込んで行ったんだって?」


「喧嘩を買ったまでだよ」


 水果は呆れ顔、真崎は苦笑を浮かべている。


「もうああなったら奏ちゃんは止められないからね……」


 詩音は複雑そうな顔でそう言って、


「石田君達のことなんだけど」


 奏介は詩音に視線を向ける。


「逮捕されたって。マスコミがわたしのとこにも来たよ。同じ出身校ってことで話を聞かせてほしいって。色んなところに取材に行ってるみたい。マスコミさん達、奏ちゃんの家もわかっちゃってるみたいだしね」


「目茶苦茶大騒ぎになってるよなぁ。小さい頃から悪ガキだったから、色々やらかしてたらしいぜ? それも報道されてるし、公開処刑だな、あれは」


 と、再び病室のドアが開いた。


 覗き込んできたのは、わかばとヒナである。


「あー、賑やかだと思ったら」


「やっほー。皆お揃いだね」


 どうやら彼女達も見舞いに来てくれたようだ。


 奏介は二人の後ろを見る。


「須貝は一緒じゃないんだね」


「家の用事があるらしくて、よろしくって言ってたわよ」


 肩をすくめるわかばである。


「元気そうね。今度は相手を少年院送りにしたんだって? 伊崎さんから聞いたわよ?」


「まぁ、否定はしないけど。お前も、気をつけた方がいいぞ。橋間」


「ちょっ、なんで脅すのよっ、来てあげたのにっ」


「あははー。でもよかった。怪我したとは言え、菅谷君の望む通りになったんでしょ?」


 奏介はヒナを見上げ、ゆっくりと頷いた。


「ああ、そうだな」


 と、詩音が手を叩いた。


「はいっ、じゃあ皆集まったところでお菓子食べよう。持ち込み禁止だけどこっそり持ってきたんだ」


「こんな大人数でいるとこ見られても大変なのにここでお菓子食べる? 大丈夫かい?」


 水果が言うと、真崎が部屋のドアに鍵をかけた。


「ま、誰か来たら来ただろ」


「そう言いつつ、鍵閉めるのね……」


「伊崎ちゃん、なんのお菓子?」


「よく聞いてくれたね、僧院さん。チョコレート&クリームパイお徳用だよ!」


 奏介はその様子を見ながらぼんやりと小学生の頃を思い出していた。もうあの辛い日々に囚われることは、本当の意味で無くなった。汚い手を使ったが、これで気持ちの整理がついた。


 息を吐く。そして、


「頼むからもう少し静かにしてよ。さすがにバレるって」


 奏介は苦笑を浮かべながらそう言った。

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