第31話痴漢冤罪女子集団に反抗してみた3
翌日の昼休み。
風紀委員長から強引に押しつけられた痴漢冤罪事件解決のために動くことになってしまった奏介は、風紀委員室で昼食を取っていた。朝比賀はいないが、自由に使って良いらしい。
この場にいるメンバーは奏介含めて六人だ。
詩音、真崎、水果、わかば、ヒナである。色々事情が重なってここのところ奏介が関わっていた五人である。
「じゃあ、結局奏ちゃん、受けたの?」
「受けたっていうか、強引にやらされる。あの人、そろそろどうにかしないと、やりたい放題だな」
今回は学校外のことなのだ。本来なら受けなくても良いのだが、トランプで負けたイメージが強いので強く出られないところがある。今後に向けて対策を練るべきかもしれない。
「ちょっと、あんた朝比賀先輩に何かする気じゃないでしょうね!?」
ファンクラブ部長、わかばが声を上げる。ちなみに彼女は朝比賀から奏介の補助をするように言われたらしい。
「ん? 橋間は俺に何か文句でもあるの?」
笑顔を向けると、勢いよく頭を下げた。
「申し訳ありません! 余計なこと言いましたっ」
「お前は学習能力が無さすぎるんだよ」
「あはは。橋間さんは菅谷と何があったんだい?」
水果は栄養補給用オレンジゼリーを吸いながら言う。
「橋間さんはトラウマレベルで何かあったらしいんだよ……!」
詩音は恐ろしいとでも言いたげに体をぶるっと震わせた。
「まぁ、しゃーねぇわな」
靴箱嫌がらせ合戦を知っている真崎は笑いながらパンを頬張る。
「ボクは嫌いじゃなかったけどね」
ヒナは何気なくタコウインナーを箸でつまむ。弁当は手作りらしい。
「ねぇねぇ、橋間さんはトラウマで僧院さんは嫌いじゃないってどういうことなの?」
詩音が首を傾げる。
「ヒナが特殊なのよ」
わかばがため息をつきながらお茶を一口飲んだ。
「そういえば椿は元風紀委員長知ってるんだね」
「まぁね。特別仲良かったわけじゃないけど地元で小学校一緒だったし。あたしもたまたまその場にいたから、後で山瀬先生に話を聞かれてさ。でもまさか山瀬先生が風紀委員相談窓口に相談してるとは思わなかったよ」
余程切羽詰まっているのだろう。その結果、押し付けられてしまったわけだが。
「なんか悪かったね、菅谷。あたしが無理強いしたみたいで」
「いや、無理強いしたのは朝比賀委員長だから」
悪い人ではないのだろうが、あの噛み合わなさは苦手だ。
「それで、どうするか決めたの? 奏ちゃんだったらやっぱり証拠を録音、録画したりして?」
「まぁ、それが一番だね。地道に集めるよ。……忠告はしたから遠慮なくやれるし」
皆は首を傾げたが、昨日のことを思い返す。ボイスチェンジャーを使って、女子グループに大袈裟に脅しをかけてみた。その後の様子を伺ってみたものの、反省する気はないようで、また次のターゲットをどうするかで盛り上がっていたのだ。証拠を突きつけて告発すれば彼女達が逮捕される可能性は高まる。残念ながら色々な意味で人生終了となるが、同情の余地はなさそうなのである。
「てかさ、証拠を集めるってどうやるんだ?」
「痴漢捏造するための相談を録音したり、満員電車の中で痴漢捏造をするその瞬間だけを録画したり。一歩間違えれば盗撮だから結構命がけだけどね」
それでも、犯罪の証拠となる録画録音は違法ではないはずだ。実行するにあたってきちんと法律を確認しておくことにする。
「う……確かに盗撮って騒がれたら厄介よね」
わかばが青ざめて口に手を当てる。
「相手、女の子の集団なんだよね? 奏ちゃんが証拠を見せる時大丈夫?」
詩音の心配は当たりだ。かなり危ない橋を渡ることになるだろう。
「ねぇ、証拠突きつけるの、ボクがやろうか? 女子の方がスムーズに上手く行きそうじゃない?」
ヒナがそう行って立ち上がった。
「僧院……」
「菅谷くんにはお世話になってるからね。引き受けるよ?」
頼もしい言葉だが。
「いや、もし失敗した時に僧院が顔覚えられて後々、仕返しとかされたらヤバイから」
何しろ人数が多い、一人くらい逃げおおせるメンバーもいるだろう。
「そりゃお前も一緒だろ?」
真崎が呆れ顔で言う。
「……なんか、ほんとすまないね」
水果が申し訳無さそうに言う。
「椿は気にしなくて良いよ」
と、そこで水果が何かを思い付いたように、目を見開いた。
「菅谷、良い考えがある」
「考え?」
水果はこくりと頷いた。
◯
放課後連れて行かれたのは、演劇部の部室だった。
そこには非常勤美術講師の大山という女性教員がいたのだが。
奏介、水果、詩音、ヒナそして美術講師の大山達のやり取りを見守るのは真崎とわかばである。
「……目茶苦茶可愛いわね」
「あぁ、力作だな。ときめきそうになって踏みとどまったぜ」
「でも……今のあいつをあたしがからかいでもしたらぶっ殺されるわ」
わかばはそっと両手で顔を覆った。
「絶対止めとけ」
「わかってるわよ。まだ死にたくないもの」
遠くでのそんな会話を聞き流しつつ、奏介は目の前の鏡を見た。
「……なるほど」
顔の異物感が半端ない。表情を作ろうとすると妙に突っ張る感じがする。
「と、特殊メイクって凄いっ」
詩音が感動したように言う。
「さすが大山先生」
水果も満足そうに頷く。
「もはや菅谷くんじゃないよね。おー、変な感触」
ヒナに頬をつつかれ、奏介はそっと彼女の手を払い、立ち上がった。
「まぁ、顔を覚えられないように顔を変えるっていうのはわかった。でもなんで女顔にする必要があるんですか?」
しかも、わりと美少女だ。鏡の向こうには体操服姿の見慣れない女子が立っている。恐らく、ロングヘアは大山の趣味だろう。
「元の顔が分からないようにって言われたから」
確かに要望通りなのかもしれないが。
「この顔で人前に出ろって?」
奏介は不機嫌MAXである。
「大丈夫だよ、奏ちゃんスタイルは良いから!」
「聞いてない」
「まぁまぁ、良いじゃないか。別に女装しろとかスカート履けとか言ってないんだし。行くときは男子制服はなしにしてもティーシャツにジーパンでどうだい?」
「女装じゃない、か」
「顔変えとけば危険が減るだろう?」
「危険……か」
水果の言葉に奏介は少し考えてから、
「仕方ないか」
ため息を一つ。
「なんかこう、アンニュイな感じの表情が堪らないよね」
「う、うん。ドキッとしちゃった。奏ちゃん、ほんと美人」
わかばが会話に入って来ようとして、踏みとどまっているようだ。真崎はそんな様子に笑いを堪えている。
「これなら菅谷って分からないね。あたしの心配も減るよ。こんなことさせて悪いけどさ」
確かにこの姿なら後腐れがないだろう。それどころか、女子としてあの犯罪集団と対峙出来る。男というハンデがゼロに。
奏介は笑った。
「そうだな。どうせなら、二度と社会復帰出来ないように徹底的に叩きのめす必要がある。この格好なら、やれるかもな。声はまぁ高めにすれば行けるだろ」
「そ、奏ちゃんが笑ってる」
詩音が一歩後退。
「これはもう、そいつら終わったわね」
わかばが顔を引きつらせながら近づいて来て言う。
「そうだ、橋間」
鋭い視線がわかばを捕らえる。
「な、何よ!? 可愛いとか言ってないじゃないっ」
「これ終わったら俺、朝比賀優都を締めるから。こんな危険なこと、一風紀委員に頼むことじゃないよな? 文句ある?」
「ご、ございません!」
奏介(女子顔バージョン)VS痴漢冤罪女子集団、開始。
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