第11話靴箱で酷い嫌がらせをされたので反抗してみた2

 酷い惨状になった橋間わかばの靴箱に潰した牛乳のパックを放り込んで靴箱のドアを閉めた。


「教室行こうか」


 奏介は何事もなかったように歩き出した。上履きは使い物にならなくなってしまったので客用のスリッパを借りることにする。


「お前だけは敵に回したくねぇよ」


「うん、わたしも」


 教室へ向かう途中、二人の引いた様子に奏介は呆れ顔になる。


「あのさぁ。こっちは上履きを切り刻まれてるんだよ? あのくらい優しいでしょ。洗えば使えるんだし」


「た、確かにそうだよね」


「うーん。まぁ、あれはどう見てもひでぇよな。嫌がらせの域超えてる」


 犯罪として訴えられるレベルだ。そうならないのは学校と言う特殊な環境だからか。


「俺だってやり返したくはないけど、こういうのは黙ってるとエスカレートするからね」


 ため息を一つ。


「でも、まずは先生に上履きのこと言った方が良いよ? 悪いことなんだし、注意してもらわないと」


 詩音は時々、ピュア発言をする。本気で言っているのだろう。


「幼稚園生じゃないんだから教師が生徒をコントロールなんて出来ないって。相談するだけ無駄だし、あんなことする奴が注意されたくらいで止めるわけないでしょ」


「はぁ、反論のしようもねぇわ。まったくその通り」


「経験談だからね。実際」


 すると詩音が何やらはっとしたように表情を曇らせる。


「そっか、奏ちゃん、小学校の時に色々あったもんね」


 一度言葉を切って、


「あの頃から比べると、見た目そのままで中身が強くなりすぎたよね」


「……何が言いたいの?」


 奏介が問うと、詩音は首を左右に振った。


「なんでも! ないよ!」


「ところで、橋間と何があったんだ? 目茶苦茶恨まれてるみたいだが」


 奏介は少し考えて、


「実は心当たりがないんだ。直接喋ったこともないし。風紀委員会に入れられたことと関係あるのかな」


「こわっ、喋ったことないのにあそこまでやるのかよ。無差別と一緒じゃんか」


「どう、なんだろう。とりあえず話が出来るようなら聞いてみようかな」


「じゃあ、俺も一組の奴にさりげなく聞いてやるよ」


 詩音が首を傾げる。


「針ケ谷君、その橋間さんて人と知り合い?」


「同じ中学。仲良くはなかったけどな」


「え、そうなの?」


 奏介は少し驚いてそう問うた。


 橋間という名前を出してすぐクラス名を思い出せた辺り、知っているのだと思っていたが、同じ中学だったとは。


「なんとなくどういう性格の人とかわからない?」


「気が強くて、ミーハーっていうか男のアイドルに騒いだり、ちょっとギャルっぽいよな。そんくらいか」


 奏介は顎に手を当てた。


「そうか。いじめっ子に多いタイプだよね。……わかった。ちょっとこっちも気合い入れてこう」


「奏ちゃん、何に気合い入れるの……?」






 昼休み、友人と楽しそうに弁当をつつく詩音を流し見ながら、奏介はおにぎりをかじった。


「どうするんだ?」


 心配そうに問うてくる真崎である。昨日のこともあり教科書はすべて持ち帰ったのだが、今回はロッカーに入れておいた体育用シューズと体操服が水で濡らされていた。ロッカー内の落書きも酷い。ちなみに机の中には画びょうが入っていた。


「うーん」


 大分悪質になってきた。すべて証拠として写真は撮ったがこのままでは悪化する一方だろう。


「ここまで来るとせんせーに言った方が良くね?」


「それこそ悪化すると思うけどね」


 教師には頼らない。こういう場合、頼りにならないのは知っているのだ。


「じゃあどうすんだよ」


「そんなの決まってる」








 放課後。


 奏介は昇降口や生徒達の靴箱からは見えない柱の陰に隠れ、様子を伺ってた。


 奏介の靴箱の前にきゃっきゃっと楽しそうに騒ぎながらやって来たのは橋間を含む女子三人組。


 奏介の靴箱を開けた彼女らはくすくすと笑いながら何かをし始めた。新しい嫌がらせだろうか。


「頭悪そうだな」


 奏介はその様子をスマホのカメラに納める。


 そして嫌がらせを終えた三人が自分の靴箱へ。会話が聞こえてきた。


「そろそろさぁ、来なくなってほしーよね」


「ネー。オタって見るだけでキツいし」


「ほんとうざい。なーんで朝比賀先輩あんな奴に……え」


 自分の靴箱を開けた橋間の動きが止まる。


「え、えっえっ」


 靴を引っ張りだそうとしたのだろう。靴から零れた牛乳が床を濡らしていく。


「や、やだ、これっやっ」


「だ、大丈夫? わかば」


「た、タオル。これ使って良いよ」


 あわあわする三人。そばを通る生徒は苦笑を浮かべている。


 潰れた紙パックが床に転がっているので通行人はただ単に溢しただけだと認識しているようだ。


「何、このメモ……」


 詩音御用達の可愛らしいメモに書かれたハート付きの脅し文句に橋間は真っ青になっていた。


「え……?」


 そのまま観察していると、


「ねえ、あいつの女じゃない? あのオタクのストーカーか何かがいるんじゃないの? それであたし達を」


 橋間友人Aが声を荒げる。楽しそうな雰囲気は一転、見えない恐怖が彼女を支配していた。


「これで、終わると思うなよ」


 奏介は自分の教室へと戻って行った。

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