第10話靴箱で酷い嫌がらせをされたので反抗してみた1
数分後、帰宅するために奏介は真崎と共に靴箱の前へ来た。
「完全に引き立て役だったな。女子がめちゃくちゃ騒いでたぞ」
「勘弁して欲しいよ。無理矢理やらされた上に見世物にされて、しかも風紀委員会に入れられるとか」
「公開処刑だな」
「皆の前で負かして俺が断れないようにしたんでしょ」
非常に質が悪い。これをやられたら突っぱねることが出来ない。公開勝負と言っていたが、それは奏介の性格を見ての判断だったのかもしれない。
「正論で殴るの得意だもんな、お前。二人だけで勝負したらなんだかんだ躱されそうだし」
「もうそこまで読まれてるとしたら絶対に勝てないよ。諦める」
「頑張れよ、風紀委員」
心のこもっていない激励を受け、奏介は靴箱を開けた。
「……!」
声に出すのはどうにか押さえたが、取り出そうとした右の靴の中に五個の画びょうが入れられていた。そして左の靴の中には赤マジックで『しね』の文字が。
「ん? どうした?」
奏介は靴を反対にし、画びょうを靴箱の中へ出して靴だけを引っ張りだした。
「なんでも。帰ろう」
「おう」
奏介はそっと辺りを見回して見る。そばの階段で雑談をしている三人の女子生徒達。口元が笑っている。その中の一人は風紀委員の橋間だった。
同じ経験をしたことがある。小学生の頃だ。誰が始めたのか靴にイタズラをされて、それがどんどんエスカレートして行き、教科書や体操服にまで被害が及んだ。やがてクラスメート全員から嘲笑されるようになって。
翌日。
奏介は重い足取りで学校へ向かっていた。
「ねぇねぇ、なんか調子悪い?」
「ん? ああ、寝不足で」
「そうなの? 昨日のこと引きずってるのかと思ったよ。みんな、なんか笑ってたし」
「笑ってた、か」
「え、あ、なんか落ち込んでる?」
「いや、そういうわけじゃないよ」
詩音と共に靴箱の前へ。彼女とは少し離れているので中を覗かれる心配はないだろう。
開ける。
「っ……」
上履きに入れられた数十個の画びょう、靴箱の中には『しね』だの『消えろ』だの『キモオタク』だのとにかく罵詈雑言が書かれていた。
放課後。
奏介は一人で靴箱の前に立った。
「……」
開ける。
目を背けたくなる。画びょうや罵詈雑言、さらには靴が泥だらけになっている。
「……」
今日は机の中にいれていた教科書が濡れていた。隣の席のクラスメートが快く見せてくれたのは良かったが。
微かに笑い声が聞こえてきて振り返る。
「やだぁ、オタクと目があった~」
三人組の女子は逃げるようにどこかへ行ってしまった。
水道で洗って帰った。
翌日。
この日は珍しく詩音、真崎と靴箱で一緒になった。
「おはよー、針ケ谷君」
「よお。なんか早くね?」
「奏ちゃんがなんか一本早いバスで行こうって……あれ、どうかしたの?」
「なんだ? 靴にラブレターでも入ってたか?」
二人が奏介の靴箱を覗き込む。
そこには、
「えっ」
「なっ」
二人とも絶句。
ハサミで切り刻まれた上履きの残骸が。
「な、何これ」
奏介はうつむいた。
「まじかよ、ひでぇ……」
奏介は鞄に手を突っ込んだ。取り出したのはミネラルウォーターのペットボトルである。
「ねぇ、二人ともさ。橋間はしまわかばって奴のクラス分かる?」
「橋間? 確か一組じゃね。まさかこれ、橋間が?」
奏介は一組のくつ箱へ走った。二人も付いてくる。名前を確認し、一番下のくつ箱を開けた。可愛らしいサイズのローファーが揃えてしまわれていた。
奏介は無言でミネラルウォーターのキャップを外し、躊躇いもなく靴全体へ注いでいく。
「そ、奏ちゃん!?」
そのままミネラルウォーターを出しきったのだった。
そして次に鞄から取り出したのは牛乳のパック。ちなみに賞味期限が切れている。
それを開けて丁寧に靴の中へ注いでいく。私立校指定の高いローファーだけあって、漏れの心配はない。ミネラルウォーターは盛大に漏れ出してしまっているが。今日は昼前から雨が降るらしいので目立たなくなるのではないだろうか。
最後にパックを潰して終了だ。
「さて。しお、メモ帳持ってる?」
「へ? あ? う、うん」
「あと書くもの貸してね」
「何するの?」
奏介は借りたメモ帳に文字を書いて、そっと靴の先端に置いた。
『次やったら潰す♡』
奏介の後ろで、詩音と真崎は戦慄した。
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