第六章 魔法の城ボロック

6-1

「おう、おまえら、また戦いに勝ったんだってな。どれだけ強いんだ。おまえたちの強さに見合った城に改築するために、おれたちも本気になったぜ。今度は、魔法の城にしておいてやった。」

 築城技師がいった。

 とうとう、魔法の城という常識では計り知れない強度を持った城になった。防衛拠点ボロックは誰にも落とさせない。ボロックの民は誓う。

 人間の城がいくつも落とされているという。魔族の攻撃は激しさを増すばかりだ。ボロックはよく守り通している方だ、と外から来た者たちは讃える。

「わたしも、ボロックがこんなに頑強な城になるなんて考えてもみなかったんですよ。」

 と商人がいう。

 そんな時、一風変わった来訪者がボロックにやってきた。破れ衣装の怪しげな男だ。その男は、ロスの部屋を訪れて、

「ロス、おまえには死の兆候がある」

 と告げた。

 ロスはびっくりしたが、

「戦争なんだ。死ぬ時は誰でも死ぬもんだろ」

 といった。

「わたしの名前はトルストイ。覚えておくといい。いずれ死ぬロスよ」

 破れ衣装の男はいった。

「あんた、何者なんだ」

「ネクロマンサーだ。今、ネクロマンサー・ドストエフスキーの軍がボロックに近づいている。わたしとドストエフスキーは宿命の間柄。ドストエフスキーが現れるところにわたしが現れ、わたしが現れるところにはドストエフスキーが現れる」

 ネクロマンサーは死者を生き返らせて操る術士のことだったな、とロスは考えた。ネクロマンサーは、おれが死ぬというが、はたしてそういうことがわかるものなのだろうか、ロスにはその辺りのことがよくわからなかった。

 ロスは、司令室に行くと、クラップが浮かない顔をして近づいてくるのを見た。

「どうしたんだ、クラップ」

 ロスが聞くと、

「ロス、今日は厳しいことをいわなければならない。ちょっときつい話になるかもしれないが、我慢してくれ。」

「なんだ、いったい」

 クラップはかなりためらいながら、おずおずとことばをつづけた。

「実は、ロスの弓矢の腕が悪いということが、ボロックで有名になってきている。ロス、きみの弓矢は、五回に一回も当たっていない。気づいていたか」

 それを聞いて、ロスは衝撃を受けた。そういえば、あんまり命中していなかったな、とロスは思った。

「どうしたらいいのかなあ」

 ロスは、本気で落ち込み、自分に自信がなくなった。そうか、おれ、弓矢、下手だったんだ。とロスはようやく自分に気づいた。

「ちょっと考えさせてくれ」

 ロスは、自分の部屋に行って考え込んだ。朝の来訪者トルストイはもういない。変なやつだったな、とロスは思った。おれが死ぬとかいってたな、ロスは考える。

 しかし、今はそれよりも、弓矢が当たらない問題を考えないといけない。どうしたらいいんだ。当たらないものは当たらないんだ。どうすれば。

「銃だ」

 ロスは閃いた。

 弓矢をやめて、銃を撃つことにしよう。銃なら、照準をちゃんと合わせれば当たるはずだ。籠城戦を得意とするボロックには、遠距離戦闘の武器は重要だ。それなら、銃を練習しよう。

 ロスはそして、ボロックにある銃を集め始めた。集めるだけの銃を集めた。その数は三十個。これから、おれは三十丁拳銃になるんだ。

 ロスが自分の戦い方に悩んでいる頃、防衛拠点ボロックでは、気に入らない味方を暗殺する計画が、よくない者たちの間で立ち上がっていた。

 ロスのやつが気に食わねえ。次の戦いで、戦闘にまぎれて、ロスのやつを殺してしまおう。そんな計画が五人くらいのよくない者たちの間で進められていた。もちろん、クラップはそんなことは知らない。戦争中に、都合の悪い味方を殺すということは、時々、あることだ。


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