5-2
魔族の一個師団が攻めてきた。偵察兵の報告では、魔族の人数は三万人。人間側の一万人を大きく上まわっていた。
クラップが一万人の兵の指揮をとっているのだ。最初の戦いの味方が五人だったことを考えると、かなり出世した感じだ。
「イージニー」
クラップがいう。
「はい。城が難攻不落といってもらえる要塞になったので、また籠りますか」
「ああ、城に籠ろう。」
敵の人数は三倍だ。劣勢だといえば劣勢なのだ。
透明になって進む魔族の部隊や、瞬間移動して要塞の内部に侵入する魔族たちがいて、戦いは苦戦すると思われた。
あの働かない帝国騎士(女)は、戦闘中に飯を食って、酒を飲んでいる。魔法剣士シドニーの剣捌きは健在だ。謎の協力者メイビーはさらに強い。
クラップ自身も大剣を持って戦った。要塞の中に瞬間移動して侵入してくる魔族たちとクラップは戦いになった。司令室の中にまで平気で瞬間移動してきて、襲ってくる。しかも、その魔族の武器の扱いは凄腕だ。
「ジンジャン、気を付けろ」
クラップはジンジャンを守りながら戦う。
この瞬間移動してくる魔族たちにクラップが勝てなければ、クラップの人生は終わりだ。誰か、代わりの者がボロックの司令官をやるだろうが、クラップは自分の生存を諦めたわけではない。
凄腕の魔族数名に、司令室の近くのものだけで勝てるか。クラップは大剣を振るって、魔族を斬ろうとする。しかし、防がれる。魔族の剣を受けるだけで精一杯だ。
ドスッ。近くにいた大男が瞬間移動してきた魔族を倒した。
「助かった」
クラップがいった。
「なに、領主さんが敵を引き付けておいてくれたおかげでさあ。」
クラップは、この大男がいてくれて幸運だと思った。戦場では、時々、思いがけない幸運を感じる。
「おれは、忍び込んで司令官を直接襲う敵がきっと来ると思って、ずっと領主さんの近くで待っていたんでさあ」
大男がいう。
「あんたのおかげで、生きのびることができた。感謝するぞ」
クラップがいった。
それから、司令室周辺の文官たちで、全力を持って、瞬間移動してきた魔族の残りを倒した。
要塞の外側では、魔族の一個師団の師団長がものすごい上級の魔族だということで、話題になっていた。その上級魔族の不気味な外観に、人間たちは目を見張った。
「あんなのに攻められちゃ、持つわけがないな」
人間の兵隊たちはいった。
しかし、それでも、上級魔族に挑む兵士はいなくならず、魔族三万人と人間一万人の戦いは激しさを増し、次々と死者を出した。
朝から始まった戦いが、夜まで長引いた。魔族の中の戦いに積極的なものは昼間のうちに死んでしまったようだが、まだ、強力な敵は残っているようだった。
深夜零時。上級魔族が死んだ。
人間の魔術師の高級魔術によるのだという。
そんなことをするとは聞いていなかったクラップは、みんな、よく戦っていると感心した。
上級魔族が死ぬと、魔族の一個師団は、撤退し始めた。
「敵が逃げ始めました。追撃しますか」
誰かが聞く。
難しいな。逃げる敵を追撃するか、しないかだけでも、判断をまちがえたら負けてしまう。ここは、慎重にいこう。
「追撃はするな。撤退が敵の罠かもしれない。」
クラップの指示が飛んだ。
魔族の一個師団は、こちらが追撃しないとわかると、そのまま逃げて行ってしまった。
勝った。また戦闘に勝利したのだ。
戦いが終わると、片腕を斬られた凄腕の騎士(男)が仲間になった。腕が落されるまでは、ものすごい強い剣豪だったのだという。
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