第五章 難攻不落の要塞ボロック

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「おう、おまえら、また戦いに勝ったんだってな。今度も、おまえたちの強さに見合うだけの強さの城に改築しておいてやったぞ。難攻不落の要塞にしておいた。」

 築城技師がいった。

 城がものすごく高性能になって、ボロックの住民一同は喜んだ。

 クラップは、今度こそ、翻訳家を探すように手配した。魔族のことばがわかるものを探した。魔族のことばの研究機関は、ボロックからかなり遠くになるが、あるにはあるらしい。クラップはそこから魔族のことばの専門家を招いた。

 クラップは魔族の動きに対する情報を集めた。その結果、わかったことは、今、地下世界の魔王が地上の人類を征服するための軍を派遣しているということだった。すでに、ボロックは最弱の城ではなくなっているが、魔族の攻撃がやむことはなさそうだ。最弱の城だけではなく、人類の城すべてが攻撃の対象にされているのだ。

 人類の城で落とされた場所は多く、いくつかの名城や重要拠点が魔族に陥落させられていた。ボロックはよく持ちこたえている方だ。

 王都から手紙が届いた。王さまから領主クラップへの書状と一緒に、王都に家族や友人のいる兵隊たちの手紙も届いた。

「近いうちに、強力な魔族の軍がボロックを襲うだろう。王都も攻撃にさらされて、持ちこたえるのは厳しい。巧妙にボロックを守備してくれ」

 ということが書いてあった。

 戦争の原因が、魔王の地上征服のためだというなら、魔王を倒せば戦争は終わるということだな、とクラップは考えた。『約束の置時計』に魔王が気づいているかどうかはわからない。しかし、このまま防衛戦をつづければ、いずれ、魔王みずからがボロックに攻めてくるかもしれない。そうなったら、ボロックの兵で魔王を迎え撃とう。クラップは、魔王に直接攻められることまでを想定した。

 しかし、まずは、近いうちに来るという強力な魔族の軍だ。それを防ぎきらなければならない。また、ありえないほど強い魔族たちが攻めてくるんだろうな。

 王都の有志が応援に来て、ボロックの兵力は一万人ほどになった。味方の兵士たちの腕もめきめきと上達している。

 クラップにはまた別の悩みがあった。味方の兵士たちの上達度に比べて、親友のロスの弓矢が未熟なことだった。

 ロスは、相談相手としてはいなくてはならないやつだし、他の兵士との折衝もうまくやってくれている。クラップの大剣の腕は、味方の兵士たちの賞賛するところだったが、ロスの弓矢の腕は、あまり評判がよくない。誰にでも欠点はある。ロスは、あまり、弓矢の扱いがうまくないのだ。それが、連戦の戦いの中でわかってきてしまった。まあ、そんなことは考えても仕方ないことだな。司令官の親友の欠点というものは聞きたくないものだ。

 クラップがそんなことを考えていると、もっと遥かに厄介な問題が起こった。

 王都からやってきた援軍の帝国騎士たちが、防衛拠点ボロックの司令官の座をゆずれというのだ。帝国騎士たちは専門に軍略を学んだものたちが大勢おり、クラップの命令など聞けないのだという。

 帝国騎士たちは、クラップの執務室を占拠して、クラップたちを追い出そうとした。クラップは大剣を手に持って、引き下がった。

「司令室の乗っ取りか?」

 クラップがいう。

「領主には、こちらの指示に従ってもらう。あなたでは防衛拠点ボロックは守れない」

 帝国騎士たちは強引だった。

「おまえたちは知っている者か、それとも知らない者か、どっちだ」

 クラップがいう。

「どういうことだ。領主が不明瞭なことをしゃべっているぞ」

 クラップには、帝国騎士たちが『約束の置時計』を知っているのかどうかわからない。クラップは、ジンジャンには『約束の置時計』の話をした。そしたら、ジンジャンの取り乱し方は激しく、これは簡単に他人に教えるのはやめた方がよさそうだと、クラップは判断したのだ。

「帝国騎士たちよ、聞け。おれは領主クラップの作戦指揮を今まで見てきた。数度の戦いに勝利したのは、領主クラップの賢明な作戦指揮があったことは大きい。領主クラップは、すでに魔族の精鋭に対して、何度も勝利を得た実績を持つものである。ここは、帝国騎士たちが従え」

 誰かが応援をしてくれた。クラップは背筋がぞっとしていたが、その説得に効果があるのを見て、安堵のため息が出た。

「ロス、メイビー、力づくで司令室を守らないとダメだ。調子にのった帝国騎士たちを追い出せ」

 クラップが指示を出す。

「おれが思うに、こいつらは知らないやつらだ」

 謎の協力者メイビーがそういって、帝国騎士を槍の柄で突いた。

「手を出したぞ、こいつ」

 帝国騎士が叫ぶ。

「防衛拠点ボロックには秘密がある。秘密を知らない者は、おれに従ってもらう」

 クラップがいった。

 クラップたちのことばに、帝国騎士たちは司令室乗っ取りをしてよいのかどうか確信が持てず、体に入れる力が弱まっていき、クラップとロスとメイビーに押されるままに、司令室から出て行った。

「危ないなあ。本当に何が起こるかわからないな」

 クラップはうめいた。

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