第三章 山城ボロック

3-1

「おう、おまえら、また戦いに勝ったんだってな。今度も、おまえたちの強さに見合うだけの強さの城に改築しておいてやったぞ。普通の山城にしておいた。」

 築城技師がいった。

 ボロックが一般的な城に肩を並べたので、領主クラップを始め、領民一同みんな喜んだ。

「やっと普通の城になったな」

「始めはどうなるかと思ったけどな」

 クラップとロスは語り合う。

「あまり聞きたくないかもしれないが、ボロックに魔族の正規軍が近づいている。次の戦闘から本番だ。」

 クラップがいうと、

「確かに聞きたくないな」

 とロスがいった。

「王都から援軍はまだ来ないが、非公式に援軍に駆けつけてくれた者たちがいて、味方の兵は百人になる。魔族の正規軍が何人いるのかわからないが、それにこの百人で勝つしかない」

「不安になるな」

「ああ、安心していられない」

「クラップ、いろいろいうやつはいるが、おれはおまえの味方だからな。安心しろ。おれは味方でいてやる」

「ああ」

 クラップは、親友のことばがありがたくて、感動した。だが、いわなければならないことがある。ロスにとっては、残酷かもしれないことをいわなければならない。

 クラップは慎重に間をうかがっていった。

「ロス、突然、こんなことをいうのは驚くかもしれないが、おれ、ジンジャンと婚約することにした」

 ロスはぴたっと止まった。ちょっと動揺している。クラップとロスとジンジャンは子供の頃からの幼なじみだ。三人とも、それが壊れるようなことはないと思っていた。三人ともまだ若い。

「そうか。ついに婚約か」

 ロスはいった。

「ジンジャンにはもういってある。今は返事を待っている」

「きみたち二人なら、きっとうまくいくさ」

 ロスは冷静にいった。

「戦争があるだろ。万が一がある。その前に決めておきたかった」

「おめでとう」

 ロスはいった。

「まだ、決まってないんだ。返事を待ってる」

「ジンジャンが断るはずないさ」

 ロスはそういった。

「これからもよろしく頼む、ロス」

「ああ、わかってる。さっきもいったが、おれだけはおまえの味方でいてやる。いろいろいうやつはいるだろうけど、気にするな」

「ありがとうな、ロス」

 そのあと、少しの沈黙があった。

 しばらくしてから、ロスが口を開いた。

「そういえば、シドニーってジンジャンの双子の兄弟だとかいってなかったか。二人はどういう関係なんだ。婚約するなら、その辺りもはっきりさせておかないといけないんじゃないか」

 ロスがいう。魔法剣士シドニーの名前が出て、クラップもビビった。あの男には謎めいたところがある。

「シドニーは女たちにすごい人気がある。ボロックの一番の美男子さんさ」

 クラップはいった。

「領主は、女たちの士気をあげるために、イケメン兵士の調整までしなければならないものかもな。たいへんだな、クラップ」

「肩の荷が下りることがないよ、ロス」

 領主はぼやいた。

 クラップは、ジンジャンが婚約に同意してくれたら、ジンジャンに『約束の置時計』のことを話そうと思っていた。ジンジャンの理解が得られるようなら、次にロスに相談しよう。防衛拠点ボロックが人類の最終防衛拠点だということを打ち明けよう。

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