2-2

 クラップは、偵察係を作り、交替で偵察に行かせることにした。偵察係は男だけとして、クラップも例外ではないと定めた。

 それから数日後、ボロックに魔族の盗賊が二十人で攻めてくると偵察から知らせが来た。

「戦いだ。みんな、武器を整えろ」

 クラップが指示を出す。

 すると、

「うるせえ、命令するな」

 と怒る新人兵がいて、クラップは驚いた。

「おれが司令官だ。従え」

 クラップがいうと、

「ああ、勝負するかあ?」

 と新人兵がつかかってきた。味方を傷つけるわけにはいかない。どうやって、安全にいうことを聞かせるか、クラップは迷った。

「おれたちが作戦立てた方が勝てるぜ。命令するのは、おれたちに任せろよ」

 新人兵がいきり立つ。

 何を求めての挑戦なのかわからない。この新人兵たちには、司令官に逆らうことにたいした意味はないのかもしれない。だが、ここでクラップが判断をまちがえれば、魔族との戦いに支障が出る。ボロックが落されれば、『約束の置時計』は失われるのだ。クラップは焦る。

「領主さまは戦争の経験がないんだろ。おれのが場数を踏んでるぜ」

 新人兵がいう。信用するわけにはいかない。そして、クラップは、自分がそこまで無能ではない自信がある。

 命令系統をどう構築するのか、などという軍略はこのような事態では机上の空論に思えてくる。陣形を組んで戦うなど、考えるだけ無駄だ。

 この反抗的な味方とどう協力して戦うか、とりあえず、考えなければならないのはそれだけだ。

「命令に従えない者は、自分で考えて戦え。ただし、味方を攻撃する者は罰することにする」

 クラップがいった。

 わるくない作戦指揮だ。ジンジャンは喜んだ。

 そして、人間十一人と、魔族の盗賊二十人の間で戦闘になった。

「この木の柵、意味ないよ」

 簡単に壊される木の柵を見て、ロスがぼやいた。

「イージニー、何か策はあるか」

 クラップが軍師に聞くと、

「大事なのは情報収集だよ。敵のことばを解読して、敵の情報を収集して、次の戦いに備えるの。戦争の原因を解明することが大事だよ」

 イージニーはいった。

「そんなこといったって、魔族のことばのわかるやつはいないだろう。向こうがこちらのことばを知って話かけた時以外に魔族のことばなんてわからないぞ」

「そうなると、ことばの翻訳はボロックの課題だね。戦いが終わったら翻訳家を探すといいでしょう」

「戦いが終わったらな」

 クラップは軍師との話し合いをそれで終わらせて、自分で大剣を振るって戦闘に参加した。

 反抗的だった新人兵も普通に戦っている。魔法剣士シドニーは強く、謎の来訪者メイビーはもっと強い。

 数時間すると、戦闘は終わった。

 大きな怪我を負った者は出なかった。防衛拠点ボロックは再び戦争に勝利した。

「勝ったぞおお」

 クラップは領地の民衆に自軍の勝利を伝えるために叫んだ。

 メイビーが敵軍に囚われていた女修道女を助け出したようだった。

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