第二章 木の柵の付いた城ボロック

2-1

「おう。おまえら、戦いに勝ったんだってな。おまえらの強さにふさわしいだけ城を改築しておいてやったぞ。木の柵を付けておいた」

 築城技師から知らせがあった。見ると、確かに、田舎のボロ城ボロックに木の柵が付いている。

 ボロックは、東に山、南に森、西に大通り、北に湖を持った地形をしている。

 もっとすごい城に改築したいのに、なかなかそうはなりそうにない。クラップは悩んだ。

「志願兵が五人増えた。」

 ロスがいった。

 クラップが新しい五人にあいさつに行く。

「戦ってくれるか」

 クラップがいうと、

「あんたが司令官か。やっぱり、自分の町が本当に戦争に巻き込まれたと聞くと、黙ってられなくてね。志願した。よろしく頼むよ、大将」

 若い男がいう。

「ああ、これから少しずつ敵は強くなっていく。今はまだ小手調べの弱い敵しか攻めて来ないが、いずれ、魔族の正規軍が攻めてくるだろう。それを守りきらなければならない。がんばってくれ」

 クラップがいう。

 これで、味方は十人か。とても、魔族の正規軍と戦える数じゃない。もっと味方を集めなければならない。王都からの援軍はいつ来るのか。

「姉ちゃん、かわいいね」

 新しい志願兵がジンジャンを見ていう。

「なんだい。ひょっとして、この姉ちゃんと領主さまができているとかあるのかい?」

 新人兵はぶしつけだ。

「いいえ、わたしはクラップとはむかしからの友だちで、そういう関係じゃないです」

「クラップとロスのどちらが好きなんだ?」

 新人兵はどこからどういう情報を得ているのか知らないが、どんどん話を進める。

「いえ、クラップとも、ロスとも、どちらと決めているわけじゃないです」

 ジンジャンが答える。

「お兄さんたち、そういう話は後にしてくれ」

 ロスがいう。

「なんだよ、ロス兄貴。ロス兄貴にも可能性あるみたいだぞ」

「だから、そういう話は後にしろ」

 ロスがいう。

「おれの可能性もあるのか」

 新人兵がいう。

「当たりめえよ」

 新人兵同士で言い合って笑ってる。

「女の新人兵もいるのか」

 クラップが新しく入った五人の中にいる女に気が付いた。

「領主さま、これからよろしくお願いしまあす」

 女の新人兵がいう。クラップも女の兵が増えるとうれしい。

 しかし、この中で『約束の置時計』を知っている者は何人いるのか。クラップが把握している限り、それはクラップしか知らないはずだが、ボロックに住んでいる者たちの間で秘かに伝わっている可能性がある。掃除係や備品管理係たちによって発見され、うわさが広まっている可能性がある。女神シアジアが百年後に必ず人類を幸せにすると約束した百年後までの時間を数える置時計。王都の王さまが知っているのだ。王さまの関係者から漏れている可能性もある。

 魔法剣士シドニーは知っているのか。神界から来たというメイビーも知っているかもしれない。味方の中に謎めいた者は多い。天才軍師に憧れているといっていたイージニーはどうだ。

 そして、知るのが後まわしになった場合、親友のロスやジンジャンが気分を損ねるかもしれない。なぜ、教えてくれなかったのだと問い詰められるかもしれない。

 それは、ボロックの領民みんなにもいえる。クラップが『約束の置時計』のことを黙っていたら、後で教えてもらえなかった領民から怒りを買うかもしれない。それは、ボロックだけじゃなく、人類すべてに対してそうだといえる。こんな秘密をクラップひとりで抱え込んでいてよいのだろうか。だが、情報を漏らしてはならない。クラップは相談するものを求めたが、相談を盗み聞きされたら、そこから人類の百年後の幸せが壊れるかもしれないと思うと、軽々しい行動には出れない。

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