3-2

 偵察係から、魔族が攻めてきたと報告があった。とうとう正規軍との戦いだ。

「魔族は何人くらいだ」

「およそ200人」

 ボロックの兵は100人だ。人間100人と、魔族200人の戦い。

「王都からの援軍は間に合わなかったな」

 メイビーがクラップのところへ来ていった。

「半分の兵で勝つしかない」

「味方に死者が出るのは覚悟しておけ。できることなら、領主クラップ、万が一、あなたが死んだ時に備えて、遺言をしておいてくれ。あなたが死んだら誰が次の司令官になるのかを決めてくれ」

 遺言か。不吉だな。ビビるぜ。

 クラップが死んだ時に次の司令官になるべき者。それは、『約束の置時計』のことを知る者であるのが望ましい。クラップは、自分以外にそれを知る者がいることを確認できていない。知っていると確信があるのは、王都の王さまだけだ。

「おれが死んだら、次の司令官は王都の王さまの指名した者がなることとする。格好悪いが、これをおれの現在での遺言としておく」

「王さま頼みか。あまり面白くない遺言だな。あんたなら、もっと大胆な指名をしてくれると思ってた。クラップ、もし、あんたが死んだら、次の司令官はおれに任せてくれ。おれは知っている」

 メイビーがいった。おれは知っているとは、何を知っているのか。例のことしかない。だが、こんな確信のない状況で、メイビーが『約束の砂時計』のことを知っていることを信用しろというのか。ここは流れにノルのが良いのか、それとも慎重に行くべきか。

「メイビー、もし、おれが死んだら、知っているものに後は任す。知っているなら、意味はわかるな」

「ああ、ありがたい」

 謎の協力者メイビーはいう。

 そして、午前中に戦争があった。明るい時に敵は攻めてきた。天候は晴れ。数でまさる魔族の軍は不規則な要素がない条件での戦闘を望んだようだ。

「イージニー」

「はい。今回の戦いは、今までとちがい、頑丈な城がありますので、地の利を得られる地形を城の中で選んで戦うことが大事です。兵士ひとりひとりが城の地形の使い方を熟知することが大事です」

「そのように伝えろ」

 クラップは近くの味方に頼んだ。

「司令官、わかってるだろうが報告だ。味方の死者が大勢出てる」

「ああ、盛り返せ」

 ジンジャンは無事だろうか。ロスは。ジンジャンの双子だというシドニーは。そして、知っているというメイビーは。

「魔剣士に気を付けろ。黒い鎧の部隊、桁ちがいに強いぞ」

 誰かがそう叫ぶので、クラップは魔剣士といわれる敵兵に目を向けたが、黒い鎧の魔剣士たち数十人は、ひとりも倒されることなく、人間兵を薙ぎ払いながら陣形を組んで進んでくる。やはり、魔族の正規軍となると、これまでの戦いのような弱い敵ばかりじゃない。向こうはこちらの城を落とせる準備を整えて攻めてきていると考えるべきだ。負けたら、後はない。負けるわけにはいかない。

「魔剣士には遠くから弓矢や魔術で戦え」

 クラップはそう指示を出したが、特に根拠があるわけではなかった。

「魔剣士には、こうやって勝つんだよ」

 シドニーが自分の剣を炎で包んで斬りつけた。シドニーが魔剣士の一人目を倒すと、味方から、男も女も関係なく歓声が飛んだ。

「シドニー、すげえ」

 みんなが喜んでいる。

 しかし、数十人いる魔剣士にシドニーひとりでは勝てるとは思えない。

 クラップは、シドニーよりメイビーの方がもっと凄いことを目視すると、どうしたらその戦い方を他の味方に伝えられるかを考えた。そして、名も知らぬ味方の凄腕の動きに目が奪われる。名も知らぬ凄腕が、魔剣士を斬り伏せている。

 防衛拠点ボロック、落とされるわけにはいかない。この城を守り通さなくてはならない。

「手の空いている者は、魔剣士ではない敵でもいいから少しでも倒すんだ」

 クラップは指示を出す。

 クラップは、自分自身で強敵である魔剣士に挑むべきかどうか迷った。

「迷うくらいならやめておけ」

 メイビーがそういう。この男はおれの心を読んでいるのだろうか。メイビーとの会話では、クラップは、メイビーがこちらのことばの先を読んで答えることから、その可能性を考えてしまう。

 太陽が真上を通りすぎて、傾いていく。戦闘が始まってから、五時間以上たって、ようやく戦闘が終わりつつあった。

 山城ボロックの防衛軍100人は、半数以上の命を失うものの、なんとか、魔族の正規軍の攻勢を防ぎきった。数十人いた敵の魔剣士も、半数以上を撃退し、魔族の正規軍は撤退していった。

 勝った。勝ったのだ。山城ボロックを守りきった。

 戦闘が終わり、怪我をした味方の治療を始めた。まだ生きている敵兵からは武器をとりあげ、敵軍の情報の聞き込みをした後で、捕虜にすることなく解放した。捕虜にしても、食事や排泄の世話をするのは嫌なので、クラップは捕虜をそのように扱うことにしたのだった。あまりにも危険な敵兵が生きのびていた場合はとどめを刺した。

 数日後、戦いに間に合わなかった重装歩兵たちが仲間になった。王都からの援軍だった。わざと遅れてきたのかもしれないと、誰かがぼやいた。

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