第66話 継承

「みんな、アイツはいつここに現れてもおかしくはない、休める時に休んでほしい」


 太郎、レベッカさん、バリー隊長… そしてセーバルちゃん。

 4人には一先ず休んでもらうことにして、この束の間の休息を各自自由に過ごしてもらうことになった。


 俺は外に出ると、朝が近付くのを感じながら風に当たり考えた。


 

 帰れないかもしれない。


 

 スザク様を救うとは言え、また戦わなければならない。無事でいられる保障がない。まず、俺にはもう生きている資格がない。


 妻を拒絶した。

 その事実を思い出すと心が張り裂けそうな感覚を覚え思わずグッと胸を抑えた。


 俺はこの身が朽ち果てようともスザク様の洗脳を解く。そしてアレクサンダーとの件に決着を着けて全てが終わった後、約束通り彼女の元へいくのが筋だろう。


 これを望んでいたではないか?生きてるか死んでるかわからないこんな中途半端な体で妻のいない世界を生かされることこそ地獄なのだと。早く家族の元へ連れていってくれと。

 


 でも。



 ダメだな… やはり俺は長生きし過ぎた。




 おもむろにサーベルを展開し鞘のまま杖のようにして地に突き立てると、母親に言った。


「ハァ… なぁ君だけ聞いててくれるか?いや何も言わなくていい、これは…」


 いつものように溜め息をつき、周囲には誰もおらず聞いてもいないことを確認すると、心を決めた。


「ただの一人言だ」


 溜め息を取り返すように大きく息を吸うと、ポツリポツリと言葉を紡いでいく。


 風の音は、そんな小さく消えそうな俺の声を隠してくれた。








「レベッカ?」


「…zzz」


「寝ちゃったか」


 各自休憩。

 そう言われたので何をするでもなく二人で寄り添いソファーに座りこんでいた。二三言会話をすると、レベッカは緊張が解けたのかすぐに眠りに落ちてしまったらしい。今はこうして俺の肩に頭を乗せ、小さく寝息をたてている。


「かなり無理させちゃったもんな。それに君は人より目がいいから、俺なんかよりずっと疲れていただろうに…」


 顔にかかる髪を指でそっと撫で、彼女の寝顔をただじっと見つめていた。


 俺は守らなければならない。

 大切な人。


 もしアイツが来ても、君のことは俺が絶対に守るから。


「よしっ…!」


 決めた。


 どーせ眠れない。

 そう俺は遠足とかあると楽しみで眠れなくなってしまうタイプだ。ましてや緊張感のあるこの状態で落ち着けるはずもない。


 できることをやろう、その時がくるギリギリまで。


「じゃあおやすみ?」


 君の額にキスをして、起こさぬようにそっとこの場を後にした。


 俺が向かうのは家の外、壊された壁の隙間からあの人がいるのを確認した。この寒空の下、一人で何を黄昏ているのだろうか?そんなことをしている暇があったらセーバルさんと少しでも一緒に過ごせばいいんだ。ただでさえ心配かけていたのだから。


 俺は外に出ると、今でも大きく見えるあの背中に向かい声を掛けた。


「シロじぃ、なにしてんの?」


「…っ!?あぁ太郎か、全然気付かなかった」


 珍しく驚いた様子でこちらへ振り向いたシロじぃ。考え事でもしていたのだろうか?気配に気付かないなんてらしくない… とは言えこんな状況だし、この人は特に何か考えなくてはならないことが多いのだと思う。


「太郎、今…」


「なに?」


「いや、いいんだ… どうした?今の内に休んでおけよ?」


「と思ってたんだけど寝付けなくてさ?ちょっと稽古つけてほしくて… ダメかな?」


 少し照れくさかった。

 落ち着かないならいっそ無心になって体を動かしたいと思いそう頼むと、シロじぃもそれは同じだったのか心良く了承してくれた。


「あぁ、それじゃいつも通りウォーミングアップからだ。かかってこい?」


「っし!よろしくお願いします!」


 野生解放を使わないシロじぃとの組み手は、あの時の殺し合いのような激しい戦闘とは違う。違うけれど、決して手加減はしない。いつもそうだ、俺はいつも全力だった。


 軽く拳を交え体を温めると、もう外の寒さなど気にもならず俺は地べたに寝転んだ。


「はぁーっ!やっぱり勝てねぇや!」


「そんなことはない、あの時は危なかった… 最後のがまともに入っていたら立てなかった。本当に強くなったな?」


「へへ… あの時は無我夢中でさ?どうやったか覚えてないんだよね?でもそっか、後少しだったのにな~?」


 楽しかった。

 シロじぃとの修行はガーディアンの訓練とは違う不思議な高揚感がある。例えるなら、父親とキャッチボールしてるかのような。

 もちろん本当の父親ともキャッチボールくらいしたことはあるのだが、両親もこんな風に鍛えてくれたことはなかったし、野生解放さえしっかりコントロールできたら後はもう俺のやりたいようにやれと言われていたから。


 シロじぃは寝転ぶ俺を見下ろし思い出したように言う。


「そうだ、アレをまだしっかり教えてなかったな」


「アレ?」


「これだ」


「おぉっ!」


 宙に浮かび、自由に動くサンドスターの大きな手。そうだ俺はこれをやりたかった。俺は思わず飛び起きた。


「教えてやる、と言ってもそう難しくはない。お前ならこの短い時間でマスターできるだろう。役立ててくれ?」


「よっしゃ!ねぇ?そう言えばこれ結局なんていう技なの?全然名前教えてくれないじゃん?」


「ん~… そうだな、別に名前なんてなんだっていいんだが、俺は始めこう呼んだ。“獅子王の前足”」


「ハハハッ!マジ?ちょっとセンス!」


 シロじぃにもこんなところがあるんだなと思い余計に面白いと感じた。そうして俺が笑うと貴方はムッとすることもなく、少し照れくさそうにこう言った。


「やめてくれ?俺も後で恥ずかしくなったから言うのをやめたんだ、それで… 妻がある時これに名前を付けてくれたんだ?なんだと思う?」


「え?奥さんが?えーっと… わかんないや、教えてよ?」


 皆目見当も付かないので俺はすぐに教えてくれとせがんだ、するとなんとまぁとんでもない名前が飛び出してきたのだ。その名は。


「猫パンチだ」


「ブフッ!?猫パンチぃ?ハハハハッ!マジなのそれ?夫婦揃ってセンスどうしたのさ?」


 思わず吹き出した俺を見てシロじぃもどこか少し楽しげだ。まさかそんな可愛い名前がついてたとは、まったくネーミングセンスのない夫婦だ… あれ?俺の名前って…。


「たまたまだよ、妻のセンスはそう悪くない。まぁさすがに恥ずかしいから猫パンチ!って堂々と言ったことはないけどな」


「俺の名前がレオ太郎なのも二人のせいな気がしてきた」


「お前の名前がアレなのは妻の親友だったフレンズの壊滅的なネーミングセンスが遺伝した為だろうな」


「マジ誰それ?許さんぞ」


「サーバルキャットだ」


 サーバルキャット!どーせ「あーはー!あなたはライオンの子だから~?レオ太郎ちゃんで!わーい!」って俺の親父のネーミングセンスジャックしたんだろ?クソ!俺に子供ができたらめっちゃいい名前つけるからな!しゃしゃり出てくんなよ!言っとくけど俺の意思の方が全然強い~!


 とそんな雑談に一区切りを付けるとシロじぃは簡単に例のやつのやり方を説明してくれた。


「いいか?イメージしろ、自由に動く手… それは目の前にある… それはお前の手だ、体の一部だ」


「むむむ… 手… 手…」


 シロじぃが言うには。


 手の形を作り出すというよりはそこに手があることを意識するということらしい。前からやってる形質化、つまり壁とかそういうのとは少し違って、ここに手があると強く願い思い込むのだそうだ。


「昔自分で自分の腕を切り落とす機会があってな」


 なんて切っ掛けを教えてくれるのだが、それってどんな機会なんですかね?聞くところによるとシロじぃは腕を失いがちらしい。


 いや、どういうことだそれは。


 さておき、そもそもサンドスターコントロールを習ったのもそれが始まり。動物がフレンズになる際に体を得るように、シロじぃもけものプラズムを形成し腕を治そうとしたのだとか。


 結果はご覧の通りだ。


 その後けものプラズムの腕、右腕のほうだけでアレができるようになった。そうそれこそが“猫パンチ”だ。


 なんでも何か武器は作れないのかと試行錯誤を繰り返すうちにそもそも手があればいいのではないかと思い立ち誕生した技らしい。


 だからこれは腕を治す時の応用。


 願えばそこに現れる。


 らしい!


「できた…っ!」


「いいぞ、ゆっくり動かしてみろ?」


 右手の先に、また右手。


 それはシロじぃが作りだした手のように大きくはないし、とても不安定で今にも消えてしまいそうだった。


 それでも俺はその手をぎこちなく動かしていく。


 小指から順を追うように拳を握り、また開く。


「触れてみろ、そこの瓦礫」


 それは壁を壊された時に出たであろう瓦礫、俺は作りだした手を向けそれをそっと掴み持ち上げる。


「よしっ!」


「上手いぞ」


「やった!…あぁしまった!?」


 瓦礫を掴んだのも束の間、形質化が安定せず指をすり抜け下に落としてしまった。掴んでいた瓦礫が地に落ちたのと同時に、作りだしていた手もただのサンドスターに戻り空に散る。


 これは尋常ではない集中力がいる。

 気を抜くとイタズラにサンドスターを消費してしまうだけ、注意が必要だ。


「ダメか~…」


「いや、始めてでそこまでできたなら上出来だ、流石だよ太郎は」


「へへ、そう?でも実戦に使うには早いかも… ごめん?役立てるのはまた今度になりそう」


「気にするな、俺がもっと早く教えていればよかっただけのことだ。よくやった、もう… 大丈夫だな?」


 もう大丈夫。

 なんだか引っ掛かる言い方だった。まるでこれでおしまいみたいな、教えることは無くなったかのような。


「いや、今の見たでしょ?全然大丈夫じゃないって?今度ゆっくり教えてよ、あの早いやつとかさ?応用は沢山あるんでしょ?」


「そうだな… なぁ太郎?」


 思い出したように俺の名を呼ぶ貴方。いつものように無表情、なのにどこか寂しげなのが伝わってくる。


 なんかあった?


 なんて突っ込んで聞くことができず、俺は普通に返事をする。


「何?」


「渡しておきたいものがある」


 そう言うとシロじぃは隠すように首に下げていた首飾りのようなものを外し俺に手渡した。


 牙だ、羽もついてる。


「これは?」


「御守りだ。俺が昔妻に贈った物で、ユキがずっと大事に保管してくれていた」


「な!?いやこんな大事な物!?」


 なんだか恐れ多くて、俺はそれをすぐに返そうとした。でもシロじぃはダメだと言わんばかりに黙って俺のその手を突き返した。


「始めはミクに渡そうかと思っていた… でもきっとこの御守りはあの子に俺を押し付けることになるだろう。だから俺の子孫としてお前に持っていてほしい。きっと… ユキがお前を守ってくれるはずだ」


 その目は真剣だった。


 シロじぃから奥さんへ、奥さんから娘のユキばぁへ、そしてユキばぁから俺へ… シロじぃはそう言っているのだ。

 

 その意思を、その眼差しから、俺は感じ取れた気がした。


「わかった、大事にするよ」


「ありがとう、負けるなよ?」


「シロじぃもね?」


 シロじぃは… 一度俺の肩に手を置くとそのまま家の中へ戻ってしまった。シロじぃなりにご先祖らしいことをしたかったのかもしれない。


 俺はギュッと御守りを握ると強く思った。



 ユキばぁ見てて?俺もヒーローになるよ!


 


 








「失礼します」


「ユウキくん、どう?調子は?」


「絶好調… ではありませんが、まぁ特に変わりないですよ?ベルは?ミクはどうですか?」


「命に別状はないし眠っているだけよ?少し脳に負担が掛かったようね、出血のわりには問題ない… ベルくんのほうも怪我もなく健康よ?」


 僕とミクがカコさんの診察を受けていると、おじさんが心配でもしていたのか部屋を訪れた。おじさんは僕の前に屈み、いつものように目線を合わせるとまた尋ねた。


「たくさん怖い目に逢わせてしまったな… 大丈夫か?辛くはないか?」


「平気、なんでもないよ?」


「そうか… ベルは強いな?」


 おじさんはそう言って僕の頭にポンと手を置く。でも違う、僕は強くなんてない。今回のことでどれ程自分が小さく無力な存在なのか思い知らされた。


 そう、僕は弱い。

 

 心も、体も。


「先生、四神籠手はどうですか?」


「ナノテクが使われているから見た目を綺麗に直すことは容易いの。けれど、またかなりの無茶をしたわね?あまり負荷を掛けると次は持たないかもしれない」


「そうですか… すいません」


「ううん… 私がもっとちゃんとしたものを造ってあげられたらよかったのだけど」


 二人はこれからの会話をしていた。


 おじさんはまた戦うつもりだ、あれだけボロボロにやられてやっとみんなで戻ってこれたのに。


 まだ終わっていないから。


 おじさんはあそこで起きたことも簡単に説明していた、ミクに起きたことやスザク様ののことも。そうして全てをカコさんに伝え終わると最後にブレスレットを差し出しこう言うのだ。


「先生、これをお返しします」


「それはもう貴方のものよ?」


「この家を建て替えてもまだおつりがくるくらいの金額が入っているはずです、使ってください?必要ならそちらに全て送金します」


「ユウキくん…」


 僕から見てもそう思った。

 カコさんが考えていることがわかった。 


 おじさんはまるでもう戻ってくるつもりがないような、そんなことを言っているんだ。


「受け取れないわ?」


「どうせ使い道のないお金です、みんなの為にパーっと使ういい機会かと思ったんです、どうか納めてください?」


 カコさんは。

 ぐっと涙を堪えてそれを受け取っていた。

 もう止めることができないのだと思う、おじさんは止めても無駄だろうし、誰かがやらなくてはならないことだから。


 おじさんの方も直接は言わないけれど、きっと自分が戻れないことをわかっているからこんなことをしている。自分がいなくなった後もみんなが困らないようにって。


 僕は何も言えずにいた。


 僕は弱くて臆病。


 遠回しに止める言葉すら言う勇気がない。


「今度は… ちゃんと食器洗い機を付けるわ?最新式の… 台所は前よりずっと使いやすくするから?だから…」


「ありがとうございます、楽しみにしてます」


 それだけ話すと、おじさんは部屋を後にした。あぁしてみんなの元を回って心残りの無いように何か伝えて回っているのかもしれない。


 でもミクには?ミクには何も言わずに行くの?


 未だに目を覚まさないミクを見た時、僕は思わず立ち上がりおじさんを追いかけていた。


「おじさん!」


 その背に向かい呼び掛けると、すぐに立ち止まりこちらへ振り返る。僕は無我夢中だった。考えるよりも先に思ったことを口に出していた。


「何でだよ!」


「…?」


「みんなで帰ってこれたじゃないか!もういいじゃん戦わなくたって!あんなにボロボロにされて!籠手もグシャグシャにされたのに!なんでまた行こうとするんだよ!おじさんがやることないだろ!」


 僕は無責任なことを言っているのかもしれない。誰かが解決すべきことなのかもしれない。おじさんも僕も、決して無関係なことではないのかもしれない。一生ついてくる厄介なことなのかもしれない。


 でもそんなのどうでもいい、僕は前みたいにみんなで暮らしたかった。


 みんなと遊んで、同じ時間に寝て同じ時間に起きて、おじさんの作ったご飯食べてまた遊んで、勉強とか修行とかしていつも通り過ごせばいいと思った。


 何よりミクが、おじさんと何も話せないままお別れになるのかと思うと…。


「ミクの側に付いててあげてよ!何にも言わずに行くなんて無責任だよ!」


 僕が叫ぶと、おじさんは何も言わずにゆっくりとこちらへ戻ってきた。


 勢いで色々言ってしまったのでもしかして怒られる?少しだけ怖くなって顔を見れずにうつ向いてしまった。だから僕は臆病なのだ。


 言うのは簡単なのかもしれない、でも僕の場合その後立ち向かう勇気がない。


 行くなって言えても、行かせないことはできない。代わりに行ってあげるくらい強いわけでもない。


 おじさんは、そんな僕の前にまた屈むと言った。


「やっぱり、強いなベルは?」


 そう言いながら優しく僕の頭を撫でた。


「強くなんかない… 何もできない… 肝心な時いつも怖くて動けない…」


「動いてるじゃないか?みんなが言わないことを俺に言うことができたのはベルだけだ、止めてくれてありがとう?怖いよ俺も、でも行かなくちゃな?スザク様を放ってはおけない」


 ありがとう?違う。

 僕はただ足を引っ張ってるだけ。


 おじさんの言葉に反し僕はどんどん消極的になっていった。


「おじさんさんがやられちゃった時… 僕怖くて見れなかったよ… その後ミクがおかしくなった時も、僕は何よりミクが怖いと思った… なんにもできなくて、結局おじさんとお母さんに泣きついて… いつも後ろに隠れることしかできない… 学んだことなにも生かせてない…」


「できてるよベルは?怖いということを認めることもまた勇気だ。それにベルが後悔するより立ち向かうことを選べる勇気を持っていることも俺は知ってる。だから大丈夫、ベルに無いのは勇気じゃない、自信だ、自信を持て?」


 泣き出してしまった僕の肩に手を置き、おじさんは優しく励ましてくれた。何事にも勇気というものは必要で、僕にはそれがたくさんあるのだと教えてくれた。


 何かを認める勇気、誰かに頼る勇気、そして立ち向かう勇気。


 それらができるって、それだけでも勇気のいることなのだと。


「ベル、手を出しなさい?」


 そう言われ、ゆっくりと両手を出すとおじさんはお母さんの剣を展開させ、それを僕に持たせた。


「これ…」


「これを返す」


「え…?」


 ずっと夢見ていた、いつかは僕がお母さんの剣を引き継ぐのだと。おじさんが認めてくれたら、今度は僕がお母さんの代わりに戦うんだと。

 

 でもだめだ。

 今ならわかる。


「どうして?僕… 僕じゃダメだよ?お母さんは剣を抜かせてくれない、僕は相応しくないよ?」


「いいやベル、相応しくないのは俺なんだ」


「どうして?おじさんじゃなきゃこれは抜けないのに!」


 荷が重い、覚悟が足りない。


 僕は恐れ多くて剣を必死に突き返したけれど、おじさんは受け取ろうとはしなかった。


 その理由を、真っ直ぐ僕の目を見て教えてくれた。


「俺は、これを殺しに使おうとした。お母さんは確かに強い怨みを抱えているが、この剣で命を奪うのは彼女の信念に反することだ。だから殺しを許しそれを目的とした俺はもう相応しくないんだよ。でもベル?お前はわかっているはずだ?その小さな体で、母親と同じ大きな信念を既に持っている。今確信したよベル?もうお前は立派な戦士だ、母親に負けないくらい強い心を持っている。だからきっと抜けるよ?お前が望めば… お母さんは答えてくれる。当然だろ母親なんだから?」


 なんて返したらいいのか、もう僕の頭では言葉が浮かばなかった。でもおじさんの言いたいことは理解できた。


「ベル?俺の代わりにお前がミクを… みんなを守ってくれ?」


 その時、何も言わずに僕はサーベルを受け取った。


「頼んだぞ?」


 おじさんは…。


 自分がここを離れる間… という意味で言っていたのか。

 それとも、自分がいなくなった後… という意味で言っていたのか。


 あるいはどちらも含めていたのか。


 それはわからない。


 でも受け取ったからには…。


「わかったよ…」


 僕に背を向け、ゆっくりと歩いていくおじさんに向かい小さく消えてしまいそうな声でそう答えた。














「さて… 後は」


 君はもう眠っているだろうか。


 それとも、眠れずにいるだろうか。



 部屋の前まで来て一度深呼吸をするとノックをしようと手を伸ばす。


 が…。


「おっ… と… 起きてたんだね?よかった」


「うん」


 ノックするまでもない、彼女は俺の気配に気付き自らそのドアを開いた。


「あのセーバルちゃん… ちょっと、話せるかな?」


「入って?」


「あ、うん」


 君はそう言うと俺の手を引き部屋に招き入れ、そっと戸を閉めた。

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