第62話 合流

「地震か…?」


「妙なタイミング… weird変ですね


 突然の地響き、大きな揺れではないが俺達は急なことに少し動揺しその足を一度止めた。そうこの揺れは妙だ、先ほどの胸に感じた違和感から凄く嫌な予感しかない。この地震のような何かの発信源は普通ではない。それが何かというのはハッキリとはわからないが、普通じゃないってことだけはわかるのだ。


「怒ってる…」


 不意に口から出た言葉だった。

 そう怒りだ、俺は怒りを感じている。


「レオ?それって誰のこと?あの人?」


「わからない、でもなんかこう…」


 感じるのだ。

 姿が見えなくても分かる激しい怒り、全身に重苦しい空気がまとわりついているようなこの感覚。


 俺が黙っていると隊長が尋ねた。


「地震ではなく人為的なものだと言いたいのか?建物を揺るがすほど強力な力だと」


「先で激しい戦闘があるのかも… そっか、シロじぃだ!きっとシロじぃが本気を出してるんだ!」


 と考えるのが自然だろう、こんなことができるフレンズは俺の知る限り守護けもの以外にシロじぃだけ。そしてこの先にいるのはシロじぃ… いよいよ四神の力を使わなくてはならない事態ということだ。


 だと思うのだが。


「シロじぃは無事なのかな…」


「この揺れが彼の仕業なら揺れている間は無事だ、そうだろう?」


「はい…」


 本当にシロじぃなの?

 

 自分で口にしといてそんな違和感がある、そしてその違和感は俺の胸にまた妙な感覚を与え、また思わずぐっと胸を押さえた。


「レオ?本当に大丈夫?さっきからそうしてるけど病気か何かじゃ…」


「痛くもないし苦しくもないんだ、でもなんだこの感じ… 説明できなくて」


「とにかく急ごう、強敵がいるとするなら彼に加勢しなくては。行けるか?」


 そうだ、もし苦戦しているのなら力になりたい。行くんだ、とにかくこの先へ。


 行ってみれば全てわかる。


「行きます!」


「よし… すぐそこだ、走るぞ!」


「「了解!」」










 今、僕の目の前で起きたこと。


 おじさんが刺されたこと。


 ミクがそのショックのせいか目、耳、鼻から血を流し頭が痛いと苦しんでいたこと。


 僕はとにかく心配だったし不安でもあった、ミクに何が起きてるか全然わからなくて、頼りのおじさんも殺されてしまったから。


 でもそんな僕を置き去りにするように、ミクはどうやっても出られないと思っていたこの僕らを閉じ込める透明な壁をなんらかの方法で破り、外に出ることを可能とした。


 それからすぐにミクがおかしくなっていることに気付いた。おかしいんだ、とても。

 一つわかるのは、今のミクがとても怒っているということだ。


 ミクは怒号を飛ばしながら壁の外へ足を踏み出すと、次はおじさんを刺して笑っていたアイツに向かいこう言った…。


「なぶり殺しにされる気分を知っていますか?知らないでしょうね?醜い奴!お前も串刺しにしてやるッ!!!」


 そして目が爛々と輝きフワリと少しだけ宙に浮き始めた。その口調は丁寧で、でもとても力強く乱暴な言葉遣いであのイーターと呼ばれる目玉の怪物に言い放つ。


 そしてアイツはそれを尚嘲笑うが…。


「ナンダオ嬢チャン?敵討チカ?可愛ィネェ?壁壊セテ良カッタネェ?デモ忘レタカ?“蟷螂ノ斧”!ギィッヒハハハハハァ!?ガキガチョット覚醒シタカラッテドーッテコタァネェ!」


「イーター待て、何か妙だ… あの娘は今何をした?何と言った?」


「報いを受けなさいッ!!!」


 そう言ってミクが手を振りかざすとたったそれだけの素振りでアイツを壁に強く叩きつけた。かなり頑丈であろう金属にめり込んでしまうほどに… 触れてもいないのにだ。


「アァァァァアッッッ!?ウ、動ケネェ!?ナンダナンダナンナンダヨォォォオィィィッ!?」


「うるさいっ!!!口を開くなっ!!!」


 身動きが取れず喚き散らしていた怪物にそう言うと、ミクは一度両手を高く上げそのまま振り下ろす。


 するとどうだ?


「アァァァァアッッッ!?ガァァァッ!?ゴェェアァッ!?」


 機械部品、鉄骨、なんだかとにかくいろんな物が怪物目掛けて一斉に飛んで行ったのだ。それらはヤツの手足や胴体の至るところを潰し壁に打ち着けていく。最後に大きく開いていた口に鉄骨が突き刺さりヤツを黙らせることに成功した。


 宣告通り串刺しにされたのだ。


「アァァァ…!オォァアァァ!」


 でも死んでいない、あそこまでやられても何か声にならない汚い声を出しながら生きている姿は不気味という他にない。


 僕は恐ろしかった、イーターのことじゃない。


「まさか… 自力で記憶をフィードバックさせたとでも言うのか?スザク!あの娘を止めろ!」


「後ろに隠れて自分は何もしないっ…!薄汚い卑怯者!あなたのような人の命では彼とは釣り合わないッッッ!!!散々苦しめた後に体をバラバラに引き裂いてやるッッッ!!!覚悟しなさい!僕は彼の為ならスザク様だろうと退しりぞいてみせるッッッ!!!」


 血の涙を流しながらあんな残虐な言葉を口にし、実際にそれができてしまう今のミク。ぼくはそんなミクが恐ろしくて仕方なかった。もう出られるのに… 僕はこの壁の無い檻から出ずにその場にヘタりこんでいた。


 こんなこと思うなんてダメだとは思う、ミクが知ったら傷付くと思う、ミクは優しくて繊細だ。


 だけど…。


 そもそも、あれは本当にミクなの?


 ミクとは思えない。


 じゃあ… 今目の前で暴れているの誰?


 ミクはどこへ行ったの?


「スザク様… あなたは何をしているんです?神様がただの人間に… 隠れて命令してるだけの人に言いなりなんですか!そんな人の為にッ!彼を痛め付けたんですか?!神様失格ですねッ!四神ってそんなものだったんですかッ!」


「…」


「馬鹿なっ… 四神に匹敵しているとでも言うのか?ヒトのフレンズとはなんなんだ?」


 スザク様が出す炎は、ミクの目に見えない何だかよくわからない力で打ち消されていく。あのミクが、あのスザク様と互角に戦っている。おじさんでさえ手も足も出なかったスザク様にミクがだ。


 目に見えている全てが信じられない。


 僕の父親だと名乗るアイツが表情を崩し動揺するのが皮肉にも理解できる。きっとみんなそうだ、こんなのありえない。


 僕は… 僕はどうしたらいいの?


 胸に剣を突き立てられ、壁に張り付けにされてしまったまま動かなくなったおじさんを見た。さっきまで目を背けていた、恐ろしくて見ることができなかったからだ。


 おじさん教えてよ?僕はどうしたらいいの?教えてよお母さん?何をすればいいの?


 助けを乞うように立ち上がり、僕は走り出した。おじさんならなんとかしてくれるって、お母さんならきっと教えてくれるって甘えていたからだ。


 もう死んでいる、わかってるそんなこと。


 でも僕にどうしろって言うんだ。


 わかんない、わかんないよ…。


「おじさん… お母さん?」


 二人の前に立ち、死というものを目の当たりした。おじさんはお母さんに刺されたまま膝を着くことも許されずそこにある。たくさん血が流れ、壁や足をったって床を真っ赤に染めている。本当ならとっくに治っているであろう切られた左腕もそのままだ。


「本当に死んじゃったの…?ミクが大変だよ?おじさん起きて?起きてよ…」

 

 返事はない。

 あるはずもない。


 わかっていた、助けを求めても無駄だってことくらい。でもこうして直面するとまたどうしようもないって気持ちで僕の心が埋め尽くされていった。


「助けてお母さん… 助けて…」


 弱くて、ちっぽけで、情けない。

 サーベルタイガーの子供だからなんだって言うんだ、おじさんに修行つけてもらったからなんだって言うんだ。


 僕は無力だ。


 何もできない、いつも誰かに頼って守られてばかり。



「イーター!動けるか!」


 その時、ヤツが叫んだ。

 それに答え張り付けにされていたヤツも動く。


「ナントカナァッ!アノガキ許セネェッ!ヤッパリサッサト喰ッチマエバ良カッタンダ!クソォ!」


 動いてる、アゴを引き裂いて刺された鉄骨から逃れるとすぐに再生して喋りだした。


「残りの四神を食え!スザクに加勢しろ!」


「オイオイ?イイノカイ?」


「やむを得ん!」


「イイネッ!?オォーイェァー!!!“好機逸スベカラズ”!」


 気味の悪い喜びの声を挙げながら体に刺さる色んな物から強引に音を立てて逃れていく、僕は更に青冷めた。四神が食べられたらアイツは誰が倒すの?誰なら倒せるの?ミクだってスザク様で手一杯なのに… 僕じゃ敵わない…。


 敵わない… けど!


「やめろ!僕が相手だ化け物!」


 言ってしまった。

 アイツはこちらに全身の目玉を向ける。


「ヨォボッチャン?ソンナトコデドウシタ?オ墓ニ手ヲ合ワセテンノカナ?ギィッヒハハハハハァ!?無様ダネェッ!死体ニ頼ンデモ助ケチャクレネェゼッ!?」


「お前なんか!お前なんかぁぁぁぁ!」


「ッタク… ママノ隣デネンネシテナ!」


 来る… 来る… 来る…。


 怖い、絶対に勝てない… でも僕しかいないんだ、何もできないかもしれない。でも何もしないで終わりたくない!


 僕はがむしゃらに走り出した。


 おじさん、お母さん… どうか力を貸して下さい。


 そう願ってただまっすぐ。




 その時。





「ガーディアンズ!アタック!」





 僕がアイツとぶつかり合う正にその時だ、アイツは大きな腕を振り上げ僕を殴ろうとしていた。


「ギィァァァァ!?」


 でもその腕は僕には届かなかった。奇声を挙げて大きく仰け反っていた。


 だって。


「ベル!?ベルがなんでこんなとこに!?」


「レオにぃ?それにレベッカさん?バリー隊長も?」


「こっちにおいでベル君?oh… 怖かったね?もう大丈夫よ?」


「後は我々に任せろ?さて… なんだアイツは?」


 パークガーディアンの三人。

 レオにぃとレベッカさんとバリー隊長まで助けに来てくれた。絶対に、もう誰も来るはずがないと思っていたのに。もうおしまいだって思ってたのに。


「オイオイオイオイ!ナァーンデ ガーディアン ガココマデ入ッテンダァ!?聞イテナイゼ!?」


「バリー隊長?何故ここに!」


 三人の登場に奴等も狼狽えている、ガーディアンが来るのはアイツらにとっても想定外のことだったらしい。


「喋ってる!?なんなんだよアイツ…!」


Disgusting超気持ち悪い!」


「こんなやつまで隠れていたとはな?アレクサンダー代表、我が友サーベルタイガーの敵… 討たせてもらうぞ!」


「白炎の獅子の仕業か… おのれ!」


 三人はすぐに状況を把握して戦闘体勢に入り、僕は安心して力が抜けるとその場に座り込み動けなくなっていた。


 もうダメだと思っていただけに三人の登場が凄く嬉しかった。これがパークガーディアン、今のレオにぃは普段の背中よりもずっと大きく感じた。


「アァァァァァッッッ!!!堕ちろ!邪魔をするなぁッッッ!!!よくもよくもよくも!よくもシロさんをッ!アァァァァァッッッ!!!」


 三人はスザク様と戦うミクの姿を目にすると言った。


「ちょっと… あれってミクちゃん!?」


「なんだあの力は… よくわからんが四神スザクは敵ということでいいか?ネコマタ殿はどうした?」


「怒ってる… じゃあここが揺れていたのはスザク様とミクちゃんが戦っていたから…?そうだ、ベル!シロじぃは!」


「…!お、おじさんは…」


 ふとこちらを見て僕に訪ねるレオにぃの言葉に大事なことを伝え忘れていたと気付かされた。僕は言葉が出ずただ指をさすことしかできなかった。


 そしてそれを目の当たりした三人もまた、ショックを隠しきれず表情を曇らせた。


「嘘… だろ?」


「Oh my god…」


「…やったのは貴様か?」


「ギィッヒハハハハハァ!?ソウダゼェッ!無様ナ最期ダッタ!シカモ オマエ ヨク見タラサッキ食イ損ネタ隊長ジャンッ!セッカク守ッテモラッタノニナァー?自分カラ食ワレニキタカ!ギィッヒハハハハハァ!?」


 バリー隊長はその言葉を聞くと眉をしかめ一人アイツに向かい合うと二人に指示を出した。


「やはり私は寝ている間に守られていたか… レオ!レベッカ!その子を連れてここを出ろ!」


「隊長!一人じゃ無理です!」


「今度は私が守らねばならない、行け!」


 レベッカさんは隊長に従うつもりはない、レオにぃもそうだ。でもレオにぃはその時僕の方を向き直すとこう言ったのだ。


「帰るもんか!ベル行くぞ!シロじぃを起こすんだ!」


「え…?」


 二人は指示に従わない、隊長でもアイツに勝てないことがわかっているからだ。そして倒せるのがここでは一人だってことも理解していた。


「レオにぃでも… おじさん… 死んじゃって…」


 おじさんを起こすという言葉、僕にとって希望とも言えるその言葉。でも現実はそうはいかないことを今正に痛感していた僕は力無くレオにぃにそう答えた。


 でも彼は言うのだ。


「馬鹿なこと言うんじゃねぇよっ!あの人が刺されたくらいで死ぬわけねぇだろっ!あの人はな…!体バラバラにされても元に戻るんだ!死ぬわけがない!絶対生き返る!」


 彼はまっすぐな瞳で、一切の疑いもなく僕に言う。そしてそれを、根拠もなにもないはずなのに僕は信じたいと思った。


「ちょっとレオ!待って!」


「レベッカ!俺はシロじぃに刺さってる剣を抜く!隊長を援護して!」


Oh wellまったくもう!急いでね!長く持たない!」


 レベッカさんとの会話を終えるとレオにぃは僕を抱えておじさんの元まで走った。そして向かい合うと、確かにおじさんが死んでいるのだということをレオにぃも感じ取ったのかグッと胸を押さえていた。


「これだったのかよさっきのやつ…っ!ねぇシロじぃ?ベルとミクちゃんが捕まってたの?言ってよ?なんで黙ってたんだよ… しかもそれでこの様かよ?馬鹿じゃねーの!嫌味言ってやるからな!ちゃんと起きて聞けよな!」


 レオにぃは深く深く刺さっていたお母さんの剣を掴み力いっぱいそれを引き抜いていく。剣が抜けていく度におじさんの胸からドロドロと血が流れだし、僕は思わず目を覆いそうになるのを我慢してそれを見守った。


 そして。


「よし抜けた!シロじぃ!シロじぃ起きて!助けに来たよ!ミクちゃんがなんか大変なんだよ!あのキモい目玉一緒に倒して早く助けてあげようぜ!シロじぃ!ねぇシロじぃ!」


 抜かれた剣はその場に雑に置かれ甲高い金属音が響く。レオにぃはおじさんを抱きかかえて必死に呼び掛けていたが、それでも冷たくなってしまったおじさんは目を開けることも返事を返すこともない。


 やはり、死んでいる。


「くそ!くそ!くそぉ!起きろって言ってんだろ!なんで起きねぇんだよ!くそぉ!馬鹿野郎!」


「レオにぃ… おじさんやっぱり…」


「それ以上言うなっ!俺は諦めないぞ! …何か、何かないのかよ… っ!?そうだ籠手は?」


 籠手、おじさんが左腕につけていたやつのことだ。レオにぃはそれに気付くと辺りを見回しながらそれを探す。


「あった!あんなところに… 取ってくる!ベルはここで待ってて!」


 おじさんの左腕、肘から下。

 スザク様に腕ごと切り離された四神籠手と呼ばれるそれを拾う為にレオにぃは走った。僕は倒れるおじさんの血に真っ赤に染まったお母さんの剣を拾い、強く願った。


 お母さん助けて…。


 その間も攻防が繰り広げられる。


「オォット!兄チャン!ソイツニ触ンナヨ!」


「チッ!邪魔するんじゃねぇっ!キモいんだよ!目玉お化け!」


「レオ!任せて!…fire!」


 イーターの妨害があったけれど、それをなんとかかわしたレオにぃは見事おじさんの腕を回収して見せた。更にそのまま気を取られたイーターには間髪いれずにレベッカさんの攻撃が直撃する。


「ギャァァァァァァァアッッッ!?クソォォォ!!!コノアマァァァ!!!」


 まるで大砲みたいな攻撃、それをコントロールトリガーから発射するとイーターも堪らず体勢を崩しその場に倒れ込んだ。でも負担の大きい攻撃方法だったのか、レベッカさんもまたその場に膝を着く。


「レベッカ!無理をするな!」


「頭を狙ったんだけどな… sorry…?後頼みます隊長…!」


「チクチクト鬱陶シィ奴等ダナァオイ!残ラズ食ッテヤルカラ覚悟シトケ!」


「こい!私が相手になってやる!」


 隊長は強いけど、いつまで持つかわからない…。後はもう…。


「はぁ… はぁ… シロじぃ?俺今度はちゃんと持ってこれたよ?ほら?これで治るだろ?あの時みたいにさ?ほら!」


 グシャグシャで、今にも崩れ落ちそうな四神籠手、ひび割れた所からは一緒に潰されたおじさんの腕から流れ出ていた血が滴っている。


 レオにぃはそれを切られた箇所にくっつけるけれど。


「なんでだよ… なんで治らないんだよ!」


 四神籠手は…。

 おじさんの体を強くしてくれるらしい。本当はいつ壊れてもおかしくない弱った体を、真ん中の四神玉というもので強化してくれるって。

 

 でも、グシャグシャになったこの四神籠手では死んでしまったおじさんの体までは直してくれそうにないらしい…。


「起きろよ馬鹿野郎ぉっ!起きろってんだよぉっ!みんなに誤解されたまま死ぬなぁっ!ヒーローは死なない!倒れても何度でも立ち上がるんだ!あんたはヒーローだ!今だってヒーローだよ!あんたが違うって言っても俺はそう思ってるよ!頼むから起きてよぉっ!起きろォッッッ!!!チクショウッッッ!!!」


 レオにぃは、おじさんを抱きかかえたまま泣いていた。ここに来るまできっと二人の間で何かあったのだと思う。そういう色々を乗り越えてまた会えたのに、次会うときおじさんはもうこの世にはいなかった。


 認めたくないのだと思う。


 僕だって認めたくない…。


 拭いても拭いても涙がこぼれ落ちてくる。


「無責任だ… ここまでやっといて死ぬかよ普通… ベルはどうなる?ミクちゃんはどうする?なんの為に俺達ぶちのめしてまでここまで来たんだよあんた…?」


 本当に。


 本当にもうダメなの?


 そんな時に。


「レオ太郎… ボウヤをこっちへ…」


 か細くて今にも消えてしまいそうな声、その声の主は。


「せ、セイリュウ様?大丈夫ですか!?っていうか、四神がみんなやられて…」


「油断しただけよ…!いいからボウヤを連れてきて!」


「は、はい!」


 言われた通り立つこともままならないセイリュウ様の元におじさんを連れていくと、隣に寝かせるように指示を受けた。レオにぃは言われた通りおじさんをそっと寝かせた。


「傷を… 治すわ… ボウヤ一人くらいならなんとかなる… どーせ私はしばらく動けない… 後はボウヤに任せるしかない…っ!」


「そんなことしてセイリュウ様は大丈夫なんですか?」


「見くびらないで?私はジャパリパーク東方の守護者、四神セイリュウよ…っ!」


 大丈夫なはずがないのは僕にもレオにぃにもわかっていた。だけど、それでもセイリュウ様の言う通りにするしかない。


 セイリュウ様が手をかざすと水が小さな蛇のようにおじさんに巻き付いていきその傷を癒していく。胸の刺し傷が塞がり、切られ潰されていた腕が再生していく。


「後は… 頼んだわ…」


「あ、セイリュウ様!?」


 傷を癒すと意識を手放し深い眠りに落ちてしまった。


 でもおじさんの傷は治った…。


 あとは…。


「呼び掛けよう!ベル!」


「うん!」


 頼るしかない、助けてもらうしかない。


 それしかできないから。


「おじさん!起きてよ!みんながやられちゃう!ミクも大変なんだよ!」


「起きてくれシロじぃ!寝てる場合じゃないんだよ!なんの為にここまで来たんだよ!助けに来たんだろミクちゃんとベルを!」


「おじさん!」


「シロじぃ!」


 

「起きてっ!」

「起きろっ!」



 そしてレオにぃは正にライオンのような雄叫びを挙げ、強く強く呼び掛けた。



「さっさと帰ってきやがれぇッッッ!!!このクソジジィィィッッッ!!!」













「…誰がクソジジィだ」

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