第59話 動揺
「アレクサンダー代表がサーベル隊長を?そんなわけ…」
「
そう、冗談か何かのつもりで隊長がそれを言ったのだとしても笑えるような愉快な話ではない。シロじぃが敵に回るのも信じられないけれど、それと同じくらい代表がフレンズの命を奪うというのも信じられないことだからだ。
だがバリー隊長は大真面目な顔で言うのだ。
「冗談で彼がセントラルまで攻め込むと思うか?私だって確信がなければわざわざ話したりはしない」
隊長が違和感に気付いたのはシロじぃと銃弾が飛び交う中殴り合っていた時だった。
何故武器を使わない?何故力を使わない?
始めは思ったそうだ、力を使うまでもないと思われているだとか、サーベルが抜けなくなったのだとか。
でも戦いが激化するにつれ拳から悲しみを感じたそうだ。叩きのめすだけなら俺が言ったように容赦する必要はない、故に深い理由があってわざわざ制限をつけて戦っているのだと確信した。
そして今、この現場を見て隊長は真実に辿り着いた。
「お前達は未だに信じられないだろう?代表がこの件の真の黒幕だと。それが普通だ、何もおかしい感覚ではない、こうして話している私でさえあまり信じたくはない」
「そりゃ信じられないですよ、でも理由がハッキリしてるなら協力を仰ぐのが普通じゃないんですか!何も教えてくれずに戦うしかないなんて!」
「代表を敵に回すというのはパークを敵に回すということだ、必死に声を挙げれば何人かは信じて味方になってくれるかもしれない… だが大多数は代表に付くだろう、お前達がこのことを聞き疑問を感じているのが証拠だ。よく知りもしない男より、このパークの顔となる人物が信頼されるのは当然なんだ」
「だから何も話さず子孫のレオさえ痛め付けたって言うんですか?
レベッカが言うように疑問でしかなかった。そうならそうと話してくれたら俺はきっとシロじぃを信じることができた、わざわざ傷付け合う必要はなかった。代表が黒幕だとかは置いといて、きっと力になれた。そんなに信頼されていなかったのだろうか?
シロじぃがわざわざ敵に回る理由…。
隊長の話してくれたそれは俺の心にスッと安心みたいなものを届けてくれた。あの人は変わってなどいなかったのだと。
「いや逆だ、レオに話せば確実に味方になるとわかっていたからそうしたんだ。わざわざ迎え撃つことで私達ガーディアンを守っていたんだよ彼は…。いいかレオ、お前は彼の子孫だ、協力してもしなくても、仮に何も知らなくても、彼のしたことでお前やお前の両親はパークを追われるかもしれない。だからお前には、“子孫でありながら勇敢にも彼に立ち向かい敗北した”… という事実が必要だった。その事実があればお前の立場が守られるからだ」
代表が敵とわかった時点でシロじぃはたった一人で戦うことを決めていたのかもしれない。
後には引けない、負けるわけにもいかない。だから敢えて真っ正面から俺を…。
聞かされた時、俺の中のモヤモヤとした感覚がどんどん晴れていくのを感じた。一番知りたかった、“何故”と感じていたところ。それにはバラバラだったパズルのピースが次々と嵌められていくような気持ち良ささえあった。
じゃあ。
あの時見た涙は幻でもなんでもなかったのかもしれない。やっぱりシロじぃはなにもおかしくなかった、シロじぃはやっぱりヒーローだったってことだ。
少なくとも俺はこの話を信じたいと感じている。
「レオ…
「レベッカ?俺… 俺何も知らないで酷いこと言っちゃったよ?信じたくなかったんだあんなことするなんて。だから俺頭に血が昇ってしまって…」
「レオ、こう言うとなんだけど… 仕方ないわ?隊長の言うことが正しいとするなら、そう思わせることがあの人の目的だもの。私も色々言ってしまったし…」
なんだか安心した、安心したらたくさん涙がでてきた。
でも同時にムカついた。
理由はわかった、わかったけれどそれでもやっぱり話してくれないのはダメだ。それが俺達の為だとしてもダメなものはダメだ。とそう感じている。
俺だって善悪の区別くらい付く。家族は助け合うものだったはずだ、全部背負い込みやがって。頭の固いじいさんだ。
「隊長、一つよろしいですか?」
「勿論だ」
そこで安心した俺に待ったを掛けるようにレベッカが隊長に一つ尋ねた。まだ釈然としないのだろう、その気持ちもわかる。
「サーベル隊長が代表に殺されたという根拠はなんですか?ご先祖さんがその件で代表を狙うのは理解できますが、それならサーベル隊長が代表に殺られたというところの詳しい説明がほしいです」
俺は話を聞くうちに隊長とシロじぃとの間でやりとりされた情報はこれだったのだろうと、この時なんとなく察していた。
あの日、本部にシロじぃが顔を出した日のことだ。よくは知らないが何か事件になりかけたと聞いている。それから隊長はなんらかの資料を俺を経由しシロじぃに届けた。それにはロックが掛けられて俺は見ることができなかったし、シロじぃも隊長も教えてはくれなかった。
それが今わかるのだろう、隊長は答えた。
「お前達、彼の持つサーベルについてはどれくらい知ってる?」
「サーベル隊長の遺留物としか…」
「ベルから預けられたって聞いてます。あと、シロじぃ以外は抜けないって」
「そうだ、抜けない理由を知っているか?」
レベッカは勿論、俺だってそれはよく知らない。実際に抜けずにいるところを見たことがある。ベルがいくら力を込めても抜けないのに対し、シロじぃなら何事もなく抜刀できる。俺も試したことがあるけれど、鞘と一体になってるのではないかというほど固く閉ざされていた。
まず隊長はその理由を話してくれた。
「彼が言うには… 剣には彼女の意思の一部が残っているらしい、抜けないのは彼女が抜かせないからだと」
剣に… サーベル隊長の意思?
急にオカルトな話だと驚いた。レベッカもこれにはさすがにつっこんだ。
「
「気持ちはわかる。だがレベッカ、あの日は代表が来ていたのを覚えているか?」
「あの日って… 私と隊長であの人を案内した…」
例の事件の日のことだ、隊長の話では俺が訓練場でチヤホヤされている間にサーベルが一人でに動きだし、シロじぃはそれを抜かせまいと必死に抑え込んでいたそうだ。そして已む無く四神の力で一時的に封印したのだとか。
そしてその時そこにはたまたま重役数人を連れたアレクサンダー代表が来ていた…。
「私自身、剣を抜こうとしてみたが叶わなかった… そしてあの時抑え込んでいた彼を目の当たりにしたが、あれはとても演技とは思えない… もしあの時から代表を狙っていたなら、あの時にやればよかったはずだ。わざわざセントラルに攻め込む必要もない、目の前にいたのだからな」
「レベッカ、俺もやったことあるけど… あれは絶対に抜けない、それこそ絶対に抜かせないっていう意思があるって思わされるくらいに」
「
言いたいことはわかる、突拍子もなく魔法の話をされているようなものだ。でも実際に持ち、その場にいた隊長ならわかるのだろう… 親友サーベルタイガーの意志がそこにあるのだと。
「もっと信じられないだろうが… 彼は剣に宿る彼女の意志とわずかに会話できると言っていた、彼はため息混じりに“怨念”と表現していたが」
「
「何を話したか聞いてますか?」
「あの時はほぼ一方的に怨み言を聞かされたそうだ… そこでその時その場にいた代表含む重役数人のうち誰のことを言っているのか聞いてみたらしいのだが、会話にならず聞き出せなかったらしい。彼は事態が収まると私に重役達の情報をくれと頼んできた。代表も例外ではないと… その時に聞かされていたんだ」
しっくりきたと感じた。
剣とお喋りってところはシロじぃしかできない以上口頭で信じるしかないけれど、重役のうち誰かがサーベル隊長を殺害した疑惑で二人の間では情報が共有されていて、そこで今シロじぃのこの行動… 辻褄は合うはず。
「故に私はサーベルを殺害したのは代表なのだと確信している… 始めに言ったがこれは彼にとっての理由の1つに過ぎないかもしれない。まぁ、“代表を出せ”とわざわざ言っているんだ?どちらにせよ上層部はろくなことをしていないのは確かだ」
他に理由… という言葉に少し不安がよぎる。確かにここまで見境の無い方法でくるのはそれ相応の理由がある気がする。まるで怒りに任せているような… どこかいつものシロじぃらしくない。
とにかく、俺も覚悟を決めた。
「隊長、俺信じます… 隊長のこともシロじぃのことも!」
続けて熱に押されたのか、レベッカも答えた。
「私も、二人がそこまで言うなら」
理由はわかった。
敵も誰だかハッキリした。
だったらやることは1つだ。。
「私は行く… ただのフレンズとしてな」
「俺も行きます」
「私だって、このまま引き下がるつもりはありません」
「そうか… 本当にいいんだな?」
隊長は1つため息を着くと背を向けたまま答えた。
「覚悟しろお前達?ここから先、私達はもうパークガーディアンではない、テロリストだ!」
「上等です!」
「
「行くぞ!だが何が出るかわからん!警戒を怠るな!」
「「了解!」」
今度こそ… 今度こそ力になるから。
だってあんたは俺の家族だ、照れくさいから言わないけど、あんたのこともう一人の父親だって思うくらい慕ってるんだぜ?
だからさ… 手伝わせてよ?ヒーローの仕事をさ?
「おい、ところでお前達…」
と意気込んだ俺の出鼻を挫くように隊長は一度立ち止まった。
「ちょ、なんすかぁ?よし行くぜ!って時に?」
「止まってる場合ですか!」
「いやすまない… しかし、いつからだ?」
「「?」」
俺はレベッカと顔を合わせ少し考えた。
そして1つのことに気付くとお互いに目を丸くして口を押さえた。
俺レベッカのこと呼び捨てのままだった。
「ははは… いや、最近っていうか?ねぇレベ… 先輩?」←手遅れ
「無理に隠してた訳でもないんですけどね?ねぇレオ?」
モジモジと顔赤らめる俺と君。
隊にはまだ隠しとこうって話だったのにうっかりバラしてしまったようだ。つまり隊長はこう聞いているんだ、「お前達付き合ってるな?」と。
怒られるかな… 隊長真面目だし。
「フフ… いやなに、こうして見ると似合いかもしれんな?」
「へへへ…」
「アハハ…」
「すまない、つまらんことで時間をとったな?行くぞ!」
「「了解!」」
…
怒りが俺の体をまだ動かしていた。
疲れている、限界も近い、そもそもこんな体でやるようなことではないのかもしれない。
だが怒りという感情は俺を突き動かしてくれる。
性根の腐っている人間を見るとあの時のことを思い出す… 爪から滴る赤い鮮血、船中に散らばる肉片。
怒りが滾る。
「ッ!!!」
鋭い踏み込みと共に抜かれた剣、母親の怨念が刃を更に研ぎ澄ませヤツの首を取らんと放たれる。
俺と子供達を隔てるこの壁ごとヤツの首目掛けて剣を振る。
捉えたっ!
が…。
「オオット!ソウ慌テンナヨォ?」
ギン…!という重たくも高い音をあげ剣が防がれ衝撃波が起こる。ヤツだ、両腕を歪な大剣に変え俺の居合いを止めた。
「お前…ッ!!!」
「ありがとうイーター?」
「ドウイタシマシテボス!ギィッハハハハハ!サァ遊ボウゼェェェ!?ネコマタァァァァ!!!」
「何度でも殺してやる!その汚い笑い声と醜悪な姿が消えるまで!」
俺は力任せに剣を振り攻めに転じていた。激しくぶつかり合う剣は熱を帯び刃を赤く染め、火花を散らせる。
敵は防戦一方… 今度は頭をバラバラにする。ヤツはいつも首だけで逃げる、弱点である可能性が高い。このまま押し切る。
今度こそ逃がさん!
俺はとにかく攻めて相手に攻撃の余裕を与えなかった。やがてあのオーロラのような壁までイーターを追い詰めると、その向こうで澄まし顔の代表は戦いを見ながら言った。
「醜悪だなんて酷いと思わないかねイーター?」
「マッタクダ!俺ノ心ハボロボロ!ギハハハハハ!」
減らず口、余裕を見せているのは虚勢か、それとも奥の手でもあるのか。いや今はとにかくこいつを倒せ。
あれこれ考えるのをやめ頭に向かい突きを繰り出した。
「死ね…ッ!」
その時、代表の口から出た言葉に俺は動揺を見せた。
「イーター… 君も一人の“人間”なんだけどなぁ…」
「っ!?」
なに?
人間… こいつが!?
「ドォシタァ?外レタゼ?ギィッハハハハハ!」
剣は僅かに照準がズレ後ろの壁に当たる。固いが鉄の当たるような独特なあの甲高い音もせず、壁には水面に起きる波紋ようなものが流れ衝撃は吸収された。
「驚いたかな?そう、彼は人間なんだよ… 尤もセルリウムとの適合率が高過ぎて元の体の原型は無くなってしまった。彼の首から下は別の被検体のものを使っている… 覚えてるだろう?君の元に何体か派遣したイーター2の中身だ」
別の被検体?イーター2?まさか…。母親の現場に現れたアイツらのことか?セルリアンの中に入れられたあの…!?
あの時に俺とセーバルちゃんを襲撃したセルリアンの鎧のようなものに入っていた人間、イーターは頭だけになったあと彼らの体を奪い生き永らえているというのだ。
「ソウイウコトォッ!ギィッハハハハハ!!!」
「っ!?」
完全に取り乱していた俺は防御をするも派手に打撃を食らってしまった。
つまり… つまり俺がこいつを逃がす度にこいつは別のヤツの体を…!?
色々な事実が明らかになり思わず判断が鈍る。
「俺達イーターシリーズハナ?身内モイネェ植物人間ダッタノサ!人種モ国モバラバラ!セルリウムノ実験ハソンナ俺達ヲマタ動ケルヨウニシテクレタ!」
「白炎の獅子、貴方は知らないかもしれないが今は植物状態の患者とも僅かに会話できる技術があるんだよ、yesかnoの二択だがね」
取り乱した俺は逆に防戦一方となり、その様子を眺める代表は淡々とイーターのことを話し続けた。
植物状態の人間達に代表は尋ねた「まだ生きたいか?」と。大多数はnoと言う、死んだ方がマシなのだと。だがそれでもまた以前のように立ち上がり体を動かせるならとイエスと答える者もいる。
特にコイツ、後にイーターと呼ばれるコイツの生への執着は凄まじかった。
「彼に尋ねるとyesを即答だったよ、人間でなくなってもいいか?と聞いても即答… なかなか人間とセルリウムとの融合が上手くいかずに難儀していた研究も彼のおかげで大きく進んだ。彼は自我を取り戻した唯一の成功例、唯一の適合者。イーター2の先駆けとなってくれたよ」
「人間デイルヨリズットイイゼ!全テ失ッタ俺ガ何デモ持ッテルフレンズ共カラ奪ウコトガ出来ル!最高ニ満足ッ!ギィッハハハハハ!!!サンキューボスッ!」
「元は日本語の講師で言葉も丁寧だったと本人は言うんだが… この通りずっとハイなんだ、これが本来の彼なのかもしれないなぁ。彼もまた、才能ある者達の前に挫折した一人だ… ただの人間とフレンズの血族では決定的に差ができるからね」
覚悟を決めろ、コイツらはクズだ。
生かしておけばこの先どうなるかわからない、しかもイーターは四神の力に耐性があるから放っておけばどの守護けものでも倒せなくなるかもしれない。代表はそんなヤバいヤツを造る方法を持っている。
やらなくては、元からそのつもりだったろう!今更一人や二人殺すくらいなんだ!
やるんだ!今ここで!
「…この!」
「動キガ鈍ッテルゼェ?モシカシテ俺ガ元人間ッテワカッテ手加減シテンノカ?優シイネェ~?アリガトヨォ!ネコマタ様ァッ!」
ヤツは剣に変化した両腕を大きく振り下ろし、俺は堪らず後ろへ下がる。このままではやられる、余計なことは忘れてまずは倒さなければ…。
殺らなくては殺られる。
俺が負けたら、二人を助けられない。
サーベルからも叱咤を受けた。
『今更怯まないで!やらなければベルを守ることができない!腹を決めなさい!』
わかってるよ…。
「行くぞ…!」
俺は呼吸を整えると四神の力を纏い再度攻めに転じた。
風で速度を上げ、水で動きを封じ、炎で牽制し、地の如く身を固めた。
それらは確実にイーターを追い詰めていった。
「ウァァァ!クソォ!」
「四神の力… 耐性を付けたはずだがやはりそれでも限界があるか…っ!」
「終わりだ!今まで食ってきたフレンズ達に…!詫びてこいッ!!!」
ヤツは特に水の耐性が弱い、水の力を纏った剣を使い今度こそ脳天から兜割りをお見舞いしてやる。
水龍を纏うサーベルは大剣の如く巨大な刃を作り出す。俺は高く飛び上がりヤツの頭を叩き切るトドメの一撃を放った。
「くたばれぇぇぇ!イーターッ!!!」
「ネコマタァァァァァァ!!!」
が… その剣は。
「なにっ…!?」
「ヘェッヘァ!ヤァット来タカ!」
突如現れた炎の壁に阻まれ、水の力も打ち消された。
この炎…。
そんなはずは…。
イーターを庇い現れたのは美しい紅い羽を持つフレンズだった… 俺にとって、馴染みの深い方だ。
間違えようがない。
代表は彼女を見て言った。
「遅かったじゃないか?セイリュウ相手だと流石に相性が悪かったかな?」
「…」
「デモ助カッタゼ!流石神様!」
嘘だ…。
なんであなたが…?
「スザク様…!?」
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