第46話 傍観者
太郎が無事レベッカさんを連れてうちに来た、雰囲気を見るに妙な誤解は無くなったように思える。そんな二人を見て俺も他人事とは言えどこかホッと安心感のようなものを覚えている。
「みんなー?こちらガーディアンの先輩レベッカさんだ!ご挨拶上手にできるかな?」
\こんにちわー!/
「
何か嬉しそうなのは見てわかるが、レベッカさんの堪能な英語に子供達もキョトンとした顔を浮かべている。かくいう俺もネイティブ過ぎてよく聞き取れなかった、「みんな凄くいい子ね」みたいなことを言っていたのはわかるが。
「今のは、“私のほうがレオにお世話になりっぱなしなのよ、みんなレオって素敵よね?”って言ったんだ、みんなもそう思うだろ?」
「ちょっと?デタラメ言わないの!」
俺にもそれがデタラメなのはわかった。
しかし、今でこそ太郎はあんなデタラメな翻訳しているが普段はよくレベッカさんの英語に対応しているとこが見られる、あぁ見えて語学力が堪能なのかもしれない。
そんな太郎のデタラメ翻訳に子供達も元気よく答えた。
\レオにーに大好きぃー!/
「いや照れるなぁ?俺もみんなが好きだぁー!」
\キャアハハハハハッ!!!/
そう、みんな太郎が大好きだ。多少の無茶にも付き合ってくれるから。
レベッカさんはそんな太郎の子供たちからの支持率が意外だったのだろう、目を丸くして驚いてはその意外な一面に柔らかい笑みを向けていた。
「
「レオにーに実はみんなの人気者なんですよね~?いや参ったなぁ」
「調子に乗らないの!」
「てへへ」
元の二人に戻り夫婦漫才でも見せられてるような安定感を感じる。今日は二人とも是非本当の夫婦になって帰っていただきたいなとご先祖からも切にお願い申し上げる。
楽しみだ、あの二人のことだから可愛い子が生まれるに違いない。そうして命を繋いで繋いで、未来に生き続けてほしい。
そうすることが妻や子供達の存在の証明になる。俺達家族は確かに存在し、愛し合っていたのだと。
それが家族に置いていかれ無様に生き残ってしまった老人からの願いだ、頼んだぞ太郎。
さて、その為に今老人ができることはみんなを楽しませることだ。
「シロ~?次は~?」
「残ってるやつどんどん揚げて?ミク?次はドーナツだ、気をつけて持っていくんだよ?ベル?手伝ってあげてくれ」
「はい!ねぇベル見て?美味しそう!」
「はいはーい… すげー?ドーナツっておうちでも作れるんだね?僕お店でしか食べたことなかったからそういうものなんだと思ってた!」
二人ともドーナツに興味津々なようなので小さくカットしたものを口に入れてあげた。子供らしく甘いもので顔が綻ぶところを見ているとこれもまた未来を作るものだと思える。大きくなったら二人はどうするのかな?二人は… 待てよ?まさか二人は結婚とかするんだろうか?ベルと?ミクが?
仲良く並んでドーナツの皿を運ぶ様はまるで兄妹のようだが、そんな二人もいつかは大人になる。
その時二人も悩むのだろう。お互いの心と体の変化や、異性というものを見る目。
ベルはハーフだ、男版サーベルタイガーになるとしたらそれはそれは美形な男性になるだろう。そしてミクはヒトのフレンズ、未来の姿はありし日の妻と瓜二つ、美しい女性になるだろう。
まぁ似合いではあるがミクを… 嫁に?
う、覚悟はしていたつもりだがこれは実に複雑だ。ユキを嫁に出す時とは別格の複雑さがある。
まぁベルならまだ教育しようがあるしあの齢で既にしっかりしてるところがあるのでどこかのチャラッチャラした男に唾つけられるくらいならマシなのだが。
複雑だな…。
しっかりしろよベル。
「ねぇシロなにボーッとしてるの?手を止めないでよ?」
「あぁごめん… あのセーバルちゃん?ミクはベルと結婚したらここを出ていくのかな?寂しくなるね」
「はぁ?何の話をしているの?先のことなんてわんかんないよ、早く夢から覚めてお菓子作りに戻る。シロはうちの料理長なんだからしっかりして?ほら集中!」
怒られてしまった。
料理長仕事に戻ります。
…
一段落着いたのでそろそろ皆のところに顔を見せることにした。
「二人ともよく来たね」
「シロじぃただいま、忙しそうだったね?」
「ご無沙汰してますご先祖さん?お菓子頂いてます、
「それはよかった、太郎がいつもお世話になっているので是非楽しんでいってほしい、お時間に余裕があるなら夕食もどうぞ?なぁ太郎?」
と目を向けると太郎は意図を察してくれたのか照れくさそうに頭を掻きながら一言「うん」とだけ答えた。その様子を見るに順調なようだ、考えすぎかもわからんが二人はもう男女の関係になっているのかもしれない。
太郎が迎えにいって戻るまでの短い時間で何があったのかまでは変に聞くつもりはない、とにかく二人の仲が良好ならばそれで良かった。
後ろからは少し遅れてセーバルちゃんが顔を出す、レベッカさんとは初対面だ。
「シロ?こっちも済んだよ?」
「ありがとう、君も休んで構わないよ?お腹空いてるでしょ?」
「セーバルはずっと甘い香りに耐えてきた、その言葉を待ち詫びていた。ドーナツがいい、あれだけ砂糖が使われた物を揚げるだなんて実に暴力的なお菓子だよね?大好き」
「はいはい好きなだけお食べ?でも先にご挨拶、お客様だよ」
ところでセーバルちゃんのことはレベッカさんにどのように伝わっているのだろうか。
俺は初対面の時、太郎もレベッカさんも誰なのかよく知らずに助けていた、だからその時は特に長く会話もしていない。恐らく後から太郎越しに俺の話が出回ったのだと思う。
太郎から見れば彼女もご先祖みたいなものだが…。
「初めましてセーバルです、あなたは太郎の彼女だね?太郎がいつもお世話になってます」
どこで習ったのかとても丁寧な挨拶だった。スカートを軽く持ち、片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げ背筋は伸ばしたまま小さく上下する挨拶。カーテシーと言ったか、西洋にある女性の作法だ。
「や、ちょちょっとセーバルさん?先輩は彼女では…(まだ)」
「そうなの?そうは見えなかった、長年連れ添った夫婦みたいに見えたよ、ごめんね?」
セーバルちゃんから見るとそう見えたらしい、俺もそう見えた… がまだ男女の関係ではなかったか、しかしそう見えるということは秒読みだろう。よくやった太郎。
セーバルちゃんの簡単な謝罪を受け、レベッカさんも挨拶を返すが…。
「あ… いえいえお気になさらず?では初めまして?レベッカと申します。セーバルさんのことはお話伺っています!ご先祖さんの新しい奥様ですよね?」
おや…?
情報の行き違いを感じるな。
セーバルちゃんは太郎とレベッカさんが既に恋仲だと思っていたし、レベッカさんはどこから仕入れた情報なのか俺とセーバルちゃんが夫婦だと…。レベッカさんに小さく愛想笑いをした後、セーバルちゃんはキッと太郎を睨み付けた。
「太郎…?」ビキビキ
「俺じゃない俺じゃない!その目やめて怖い!お願いだから白目の部分黒くするのやめてお願い!トラウマ!」
昔何があったんだ太郎…。
隣で見ていてセーバルちゃんの顔はとても人に見せられるものではなかった、子供達には見えないようになっている辺り彼女がかなり気を使って白目を黒くしているのがわかる。早くフォローを入れなくては。
「最近よく間違われるんだ、参ったよ。レベッカさんは誰から聞いたのかな?」
「oh…
ミクか、近頃暴走しがちだがどうしたのだろうか。決めつけがましいのはよくないことだ。
「ミク?何か言ったのかい?」
「ごめんなさい… 二人ともデートに行ってから前よりもっと仲良しだし、それにこの前抱き合ってたでしょ?内緒だったらそれもごめんなさい」
「え?いやあれは抱き合ってたんじゃないよ、セーバルちゃんが床で足を滑らせたから支えていたんだ」
そんなことがあったんです。
いやよく見てるな子供は、気を付けていきたいが転ばせるくらいなら抱き締めるほうがまだいいだろうし… だが確かに軽率だったな。
俺の言葉が納得いかないのかなにやらじとっとした目でこちらを見るミク。
「じゃあ二人はそんなつもりないってこと?」
俺は白目が戻ってきたセーバルちゃんと一度顔を合わせ、意見が合っていることを確認するとミクの問いに答えた。
「…ないよ」
太郎やみんな、本人も隣にいたせいか少し口に出すのに間ができてしまった。ハッキリと言葉にするのを躊躇してしまった。
「ふーん…」
何か言いたげにジト目のままそう言うと、ミクはセーバルちゃんやレベッカさんにも謝って回っていた。
「なるほどね…」
そうして皆のとこに戻っていくミクの背中を見ながらセーバルちゃんが呟いた。
「なるほど… とは?」
「カコにしては準備が良すぎると思ってたんだ、セーバルとシロとのことはミクの差し金だね、カコも子供達も一緒に盛り上がってただけ」
「今のでよくそこまでわかるね」
「女の勘、セーバルの勘はよく当たる」
後でベルからこっそり聞いたことだが、子供達がやたらセーバルちゃんのとこに俺を差し向け妙に気まずくなるところまで計算されていたらしい。ミク… 妻のように洞察力や計画性などが高くなってきている。頭のいい子だ。
でも君は君のままでいいんだよ、子供のうちは子供でいてくれ。
心配なんだよ。
まだ幼い時から大人のように気を使ったり悩んだりするのではと思うと…。
クロみたいに。
…
先ほどはヒヤヒヤしてましたレオ太郎です。情報の行き違いは恐ろしい。報告、連絡、相談、それから確認。これらは大事なことだ、ガーディアンでもそう言われている。
みんなでお菓子を食べまくっていたのでシロじぃは夕食を軽めの物にしてくれた。女性にも優しいヘルシーなメニューに先輩もご満悦。やっぱり俺も料理習おうかな…?なんか悔しい。
でも今は二人きり。
みんなが気を使ってくれたのかお時間を頂きテラスに出て少し話している。
「ここ素敵ね?街では味わえないわ?星空も最高、
「あ、そそうっすね?」
前だったらこう言ってやったさ、「先輩のほうが綺麗ですよ?(爽やかな笑顔)」って感じで。勿論ふざけてだ。でも今は言えない、何故なら本当にそう思っているから。
忘れられない… 先輩の部屋で起きたこと。振りきれて普通に話せるようにはなったがこと雰囲気がそうなると尻尾のこともキスのことも倍意識してしまう。
先輩はどう思ってるんだろう、俺のこと。
「今日はありがとうね?連れてきてくれて」
「誘ったのはミクちゃんでしょ?作ってたのもシロじぃだし、俺は何も…」
「迎えに来てくれたじゃない?」
あ、ダメだ。
体温が上がり動機が激しくなるのを感じる。今俺は耳まで赤くなっているだろう、わざわざ鏡を見るまでもない。
「そりゃまぁ… 俺もちゃんとお話したかったし…」
「したいのは話だけ?」
「え…?」
あの顔だ、部屋でじっと見つめ合っていた時のあの表情。先輩は待っている、さすがにここまでされたら俺にもわかる。
これはあの時の続きだ。
なんて積極的なんだろう、そして俺はこんなに積極的な行動に弱いのかと認識した。
「ねぇ?あれやってよ?」
「あれ…って?」
「薔薇のやつ」
「あぁ…」
あれはずっとやっていない、そもそも使う機会がないだけでもあるが、不必要なサンドスターコントロールはあの時の失敗からずっとやっていないのだ。
「ずっとやってないから失敗するかも、あれ結構難しいんですよ?」
「できるの?できないの?」
「できますとも、まぁ見ててください?」
お望みとあらば。
俺は集中し右手に光る薔薇を形成すると先輩に差し出し、言った。
「どうぞ?」
「いつ見ても綺麗ね、本当に…」
先輩はそう言って薔薇を受け取ろうと指で触れた、そしてその瞬間薔薇は散りキラキラとサンドスターの花弁が舞い俺達を包む。
「…言わないの?」
「でも先輩あの時似合わないって…」
「聞きたい」
「じゃあ、はい… 失礼して」
あのキザったらしいセリフをまたご所望らしい。でもお望みとあらばと俺は小さく咳払いをして喉を整える。
よし…。
「先輩が、あんまり綺麗だから…」
「うん」
「薔薇は自分から散って…」
全然あの時と違った。
今の俺は本当に先輩が何よりも綺麗だと思っているし、この言葉を先輩に向かい、しかもこんなに真剣に見つめ合って言うことになると想定していなかった。
先輩は答えた。
「嘘じゃない?」
「嘘なんか…」
「証明して?」
証明… って。
多分、先輩は俺が言いやすいように仕向けてくれているんだろう。俺がなかなか言い出せない情けない男だとわかった上でこういう風にフォローしてくれているのだ。
お互いの気持ちは既にわかっている。
俺が先輩のこと好きなのは既に先輩もわかってるし、先輩も俺が好きだということも流石の俺にもなんとなくわかる。
ただ、先輩も一人の乙女だ、ハッキリ伝えてほしいのだと思う。
好きなら好きだって俺の口から。
「あの先輩俺…」
「
あの時みたいに手は俺の頬をゆっくりと撫で始めた。
そしてその瞬間心から雑念が消えていき、一つの感情、気持ちだけが俺の中に残る。
「ありがとうございます、いつも俺の面倒見てくれて… 今も、なんだか都合のいい俺の気持ちの変化に文句の一つもなく受け入れる姿勢でいてくれて」
「
「少し前まで先輩のこと先輩としか見てませんでした… なのに、今先輩が何よりも誰よりも綺麗に輝いて見えるんです、嘘じゃありません」
瞬き一つせず、秋空の下少し冷たい風にも負けず。俺は頬を赤らめた先輩の瞳をじっと見つめ、両手で優しくその肩を抱く。
そして…。
「死ぬほど好きです」
伝えた時、返事はなくとも彼女の瞳が大きくなるのがわかった。そして嬉しそうに小さく微笑えんでくれた。
この瞬間レオ太郎、勝利を確信する。
「俺だけの先輩になってくれませんか?」
あ、いやーこれはイマイチだ。
安心してカッコつけすぎた。
「それは無理よ」
「え!?」
やば!?嘘フラれた!?マインドクラッシュ!粉砕!玉s…
「…!?」
とその時、目まぐるしい心の動きの最中俺に起きたことそれは。
グッと引き寄せられたかと思いきや、唇に当たる何とも言えない柔らかい感触。それは外の空気のせいか少しヒヤリとしていたが心地よく、安心する。
やがて互いの顔が離れていくと、耳元で囁きが聞こえる。
「
だ、大喝采…。
ガーディアンのレベッカ先輩ファンクラブのみんなごめん、先輩俺と付き合うってよ?
祝、レオ太郎に初彼女ができる。
…
太郎、上手くやっているようだ。
子供達を寄せ付けぬように皆で手分けして太郎とレベッカさんの為の時間を作っていた。ミク、ベル、そしてセーバルちゃんは室内から隠れてその様子を見ていた。俺の警備をすり抜けていたのだ。
三人は「あらー」みたいな顔で目を覆ったりしている。だからわかった、上手くやっているようだと。
さぁ三人を連れ戻そう。
そう思い静かに近寄った時だ。
「ッ!」
近いな…。
「シロ…」
「わかってる、距離は?」
「東… 1㎞圏内」
セーバルちゃんと同時にその気配に気付いた、即ちその気配の主は急にその場に発生したということ。
「おじさん?」
「どうしたの?」
ミクとベルの二人はその気配にこそ気付かないが俺達の雰囲気に何か確実に不安を覚えていた。
なに大したことはない、セルリアンの一体くらい。
「少し用事ができた、すぐに戻るよ。セーバルちゃん、少し頼めるかな?」
「うん、任せて… ねぇシロ?」
どこか真剣な眼差しで、彼女は俺に小声で言う。
「気を付けて?なんか… 変な感じがする」
「わかった」
太郎達にも黙ったまま、セーバルちゃんとだけこの情報を共有し外へ出た。ここは任せておいて大丈夫だ。
何故なら、なんだろうと俺が阻止するから。
「東… 距離は1㎞以内… 動く気配はない…」
距離までわかるのだからセーバルちゃんのセンサーには恐れ入る。俺は四神籠手とサーベルを展開しセルリアンの元へと駆ける。
近いな。
土埃を上げ目的地に着地すると、その場にいるであろうセルリアンの索敵に入る。
「隠れてるつもりなのか知らないが、意味がないことはしなくていい… 出てこい」
丁度人一人が隠れていてもおかしくないほどの大木、その後ろ… いる。
俺が警告を促してから間もなくそいつは正体を露にする、少々驚かされた。木の後ろから幹を抉るような黒く鋭い爪を出し、すぐにそこに隠れているには無理のある巨体が大木を軽々とへし折りながら現れる。
驚いたのはそいつがデカいからではない。
「ヒト型か…」
三メートルはある筋骨隆々とした巨体、黒い肌には至るところに大小様々な目玉があり、あちこちをあらぬ方向へ視線を向けている。
「何でもいい、今うちの子がいい雰囲気でな?邪魔したくない、さっさと終わらせよう」
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