第18話 カップル作戦
「あの、スザク様?」
「なんじゃ?」
「結局何がしたいんですか?」
お洒落なカフェにいる。
今日は天気がすこぶる良いのでテラス席に座ることになった。予報は午後から曇りだったと思うのだが、スザク様が何かしたのだろうか?
そんなスザク様は手元にあるカフェオレに口を付けると俺の質問にこう答えた。
「今、真っ最中じゃが?」
実に簡潔。それが何かと聞いているのだけど、スザク様は逆に「何を今更」って顔でその返事を返してきた。ならばこちらは物申す。
「緊急指令で、しかも俺でなくてはダメだというから休みを返上してきたんです。ですが今は呑気にカフェでお茶をしています」
「フム、言いたいことはわかる… が待て!ケーキが来たぞ!これを待っていたのじゃ!」
話の腰を折るように限定ケーキなるものがテーブルに届けられた。スザク様はご満悦だが、俺は何のためにここにいるのか余計にわからなくなった。俺は仕事のつもりで来たのだ、ミク達をほったらかしにして。
「ほぉ~!実に美味じゃ、これはカップル限定らしくてな?助かったぞ、お前も食うか?」
「いりません」
「なんじゃつまらんのぉ?カップルのケーキなんじゃぞ? …それにしても本当に何も食わんのじゃな?試しに食ってみんか?ウマいぞ?ほれあーん?」
ケーキを丁寧にスプーンで掬うと向かいに座る俺に満面の笑顔でそれを差し出してきた。なんのつもりなんだこの方は?ケーキの為に俺を連れ出したのか?訳がわからないので俺は断固拒否を続けた。
「いりませんって」
「遠慮するな!我直々に口に運んでやろうと言うのじゃぞ!」
「…」
しつこいな。
この時どんな顔をしていたのか自分ではわからないが、ただ真っ直ぐスザク様の目を見て口は決して開こうとはしなかった。
その様子を見てさすがのスザク様も何か察してくださったようだ。
「そ、そんな怒らんでもええじゃろう?なんじゃ釣れないのぉ…」
「はぁ… もう帰ります、お代は払っておきましょう、なので急に席を立つことをお許しください」
なんのつもりか知らないが俺はスザク様とデートをするつもりはない。ケーキの為と言っていたがスザク様のことだから本当は俺のためにやってくれたことなのかもしれない。申し訳ないがそうだとしてもこれは余計なお世話だ。そもそも今日はミク達と一緒にいる約束をしていたんだ、ワガママでもなんでもいいが何かお願いがあるなら仕事の時にしてほしいものだ。大体カップルのフリなら俺である必要はない。
俺がうんざりして席を立ちお代を払い終えると、スザク様はあたふたとこちらに駆け寄り店の前で俺を引き止めた。
「待て待て待て!話を聞かんか!」
「聞こうと思ってずっと付き合ってあげていたでしょう。でもケーキが理由なら俺は用済みのはず、それでは失礼します」
「あぁ~わかったわかった!まったくつまらない男になったもんじゃのうお前は… とりあえず戻って座れ?良いか?」
なんだ、本題があるならさっさと言えばよかったのだ。俺を迎えに来た時点で話してさえいればこの訳のわからない時間を過ごす必要などなかったのだから。
とりあえず指示通り席に戻るとスザク様は周囲を気にしながら俺に小声で尋ねた。
「感じるか?異様な気配を」
「… いえなにも、セルリアンですか?」
「ダメか… いや実はこれは囮捜査なんじゃ、カップルを装い敵を誘き寄せるための」
何?何故そんなことを四神が直々に?
スザク様が言うには最近若いカップルだけを執拗に狙うセルリアンが街中に現れていたらしい。スザク様はその話を受けフウチョウ達に俺へのメッセージを頼むつもりだったが…。
「フウチョウ達はなぁ… ほれ?チンチクリンじゃし、二人組じゃろう?それにお前と並べると親子みたいになると思ってな」
「まぁ確かに… でもなぜわざわざあなたが?その為の俺のような存在ではないですか?二人は確かにあれですがオオフウチョウさんならどうです?カップルを狙うごときのセルリアンなんて何も四神が動くほどのことではないでしょう?」
「まぁな、まぁそうじゃが… ってオオフウチョウじゃと?アイツはダメじゃ、やかましくって捜査にならん… なんじゃ我よりオオフウチョウがよいか?」
「どっちでもいいです」
確かに理由らしい理由なのだが、だからと言ってスザク様のような方が直接出てどうするんだ。あなたのような方が出てきたらそのセルリアンも逃げるでしょうが。自分をなんだと思ってるんだこの方は。
少々呆れてため息がでた。
「はぁ… しかしカップルなんて街中にたくさんいるでしょう?わざわざ装ってるこちらに来るとも思えませんけどね。ましてや貴女はスザク様です、一目でヤバいことくらいセルリアンにもわかりますよ。慎重なやつなら尚更です」
「うーむダメか… はっ、やはりもっとベタベタせんといかんのかのぅ?や、やるか?///」
「お断りします」
「おま… まぁよい、確かに我らでは難しいようじゃ、しかしどうしたものか?」
作戦タイムに変更し話し合うことにした。
例えば、セーバルちゃんはどうだろう?いや… 忙しそうだし普通に断られそうだ、彼女なら寧ろ街中にいるだけで見付けてくれそうなんだが彼女の都合も無視できない。
これにはスザク様も特殊な存在であるセーバルちゃんではセルリアンに気付かれるということで却下となった。無論先生もだめだ、あの人に至っては特殊どころの騒ぎではない。
ミクは子供だし、そもそも危険なところに連れてはこれない… 子供を囮に使うなんて間違っている。
ん、待てよ?スザク様の話には若干や矛盾がある気がする
「思ったんですが、セーバルちゃんや先生がダメなら俺もダメなのでは?無論指令がある以上俺の仕事ではありますが… というかわかってるならなんでわざわざ自分で出てきたんですか?俺達一番ダメな二人でしょうが、わからない方だな…」
「う、うむ… うむ… まぁ過ぎたことなどよいじゃろ!!それよりもどうするかのう?一般人やフレンズを囮に使うのもな…」
話を逸らし正論をぶつけてきた、確かに仰る通りだ。
なら知らないカップルを張り込むべきか… いやそれではあまりにも博打、もっと効率
良く誘き寄せる方法があるはず。
セルリアンにも油断しない強くてとびきり仲の良いカップル…。
「あ… そうか」
「お、名案か?」
閃いた。
スザク様も期待の眼差しを向けている。これならいけるだろう、報酬もすぐ出せる。
「はい、適任がいます、一旦帰りましょう」
…
「というわけで、頼む太郎」
「意味わかんねー!?絶対やだ!しかもなんで先輩!?どーせなら俺もスザク様とデートさせてよ!」
太郎に頼むことにした。
彼女役はアムールトラのあの子、真面目そうなので四神からの特別任務と言えば来てくれるはずだ。二人なら簡単にやられはしない、ガーディアンだから。
「スザク様ではダメなんだ、存在が強すぎる… 俺もその例外に一致するらしい。だから頼む太郎」
「なぁにそれ?ふーん… どーしよっかなー?」
太郎はこうして口を尖らせて渋っているが、俺はちゃんと秘策を用意してきた。
「太郎、これは四神からの依頼だ。もし快く受けるならスザク様は大変お喜びになるだろうな、俺からも口を聞いてやろう」
「え… それってつまり…」
「受けるならスザク様とデート一回は硬い、仕事ぶりによってはその後も一目置かれ交流があるかもしれない」
少しの間があり、太郎の目がカッと開くと食い入るように返事をくれた。もちろん良い返事だ。
「まぁじっすか?やりますやります!是非やらせてください!よしさっそく先輩に電話だ!」
「助かるよ、ありがとう」
すぐにあの子に電話を掛けてもらい電話口で俺から事情を説明すると予想通り彼女は二つ返事でOKをくれた。いい子だ、この子が太郎のプライベートも面倒見てくれたらいいのに。
というわけで来てもらった。
「急な頼みで申し訳ない、助かるよ、ええっと…」
「レベッカです、全然気にしないでください?No problem.そのセルリアンもレオのこともお任せください!」
レベッカさん…。なんて頼もしいんだ、それにお洒落じゃないか。太郎とのデートの為にこんなにおめかししてきてくれるなんて… 遠い子孫のことだが嬉しいものだな。
「我からも頼むぞ二人とも!心配するな、こちらからこのなんか最新な技術で指示をだす!シロも隠れて尾行させるから二人はとにかくイチャコラしてヤツを誘き寄せるんじゃ!」
スザク様からもざっくりとしすぎた概要が説明された。危なくなったら俺が出る、しかもスザク様もいる、たいしたやつでもなさそうなのに無敵の布陣だ。カップル役の二人もやる気満々のようだ。
「了解!レオ?いいわね?」
「余裕っすよ先輩。でも、本気になっても知らないぜ?☆」
「
「
なんだこいつら。
仲良いな、早く結婚しろ
…
俺、レオ太郎。
みんなにはレオって呼んでもらってる。
一部は太郎だけど。
ひょんなことからレベッカ先輩とデートすることになった、スゲーめんどくさかったけどこれもスザク様とのデートの為だ。寧ろ相手が先輩なのは助かったかもしれない。あんまり気を使わなくて済むしそんなに緊張しない。
「Hmm… レオ?それにしても妙だと思わない?」
「なにがっすか?」
隣では珍しい私服姿の先輩が顎に手を当て考え込んでおり、そのことを俺に尋ねた。
「ここ街中よ?防御シールドがあるのにセルリアンなんてどうやって侵入したわけ?しかもカップルだけ狙うなんて変わり種… Impossibleだわ?」
言えてる。
シールドブレイカーならまだしもリア充絶対殺すリアンなんて癖の強いやつの侵入は不自然だ、街を守る防御シールドはそんなに緩くない。先輩に言われて初めて気にしたけど。もちろん俺にもそれがなぜなのかわからない。隣で俺も考えこむとスザク様からの通信が耳に入った。
『そのことなんじゃが、人為的に生み出されたとしか思えんのじゃ… ハッキリとした証拠もないのじゃがな?』
『俺が依頼で倒してきたセルリアンもそう、どれも妙だった。裏で糸を引いているヤツがいるのかもしれない… 二人も十分注意してくれ?』
シロじぃが割り込み注意を促した。だがシールドブレイカーを一人で捩じ伏せたシロじぃが苦戦してきたセルリアンのうちの一体だとするなら、確かに注意が必要だろう。
「「了解」」
俺と先輩は声を揃えた。
それにしてもカップル狙うったって俺達このまま歩いてるだけでいいわけ?
『むぅ、現れんな… お前達!もっとイチャコラするんじゃ!』
なんか複雑なんだよぁ…。
「腕でも組みましょうか」
だが先輩に躊躇はなかった、先輩プロだよなぁカップルを装うことに疑問が一切ないんだもん。
肩を寄せ合うと俺の腕に先輩の腕が絡み付き、互いにあったはずの距離という概念が0に変わる。
ぎゅっとしがみつかれると、体温や柔らかな感触を右腕が集中的に感じとる。しかし先輩があっさりとこんなことができるのにも理由がある。
「先輩俺のこと男として見てないでしょ?」
「レオは私のこと女として見てない、そういうこと」
「胸当たってるんですけど」
「
傍目から見るとまるでカップルのように皆から見られているのだろうか?俺と先輩は俺と先輩でしかなくそれ以上でもそれ以下でもないのは確かなのだが。こうしているとどこか先輩の女性の部分を意識してしまうのを否定できない。
そりゃまぁ男ですから?
猫科、特に大型猫科になるとこうしてグラマラスな女性になることがフレンズ内で多く確認されている。その子孫もまたそうだ。
先輩はスタイルがいい、服も体の線の出やすいものを着ているのでそれはよくわかる。
ただ俺はスレンダーな子がタイプだ、ムチムチで肉付きのいい子が嫌いな訳ではないが鳥フレンズのようなほっそりとしている子が好みなのだ。先輩がアムールトラでなくハクトウワシの方の特徴を受け継いでいたらアウトだっただろうね、一生着いていきます。
そんな先輩が俺をどう意識しているのか知らないが、疑似カップルである俺達はそれから移動の際にずっと腕を組んで過ごしていた。その間俺の右腕はずっとおっぱいだった。というかもう集中しすぎて右腕が本体だった。
そこまでやったのになかなか現れないターゲットに気分が急いたのかスザク様がこんな指令を下してきた。
『うーむまだ現れんか?もっともっとイチャコラするんじゃ!ほれ尻尾じゃ!尻尾も絡めんか!』
互いの尻尾を絡めるという行為。
これは個人的にキスに匹敵する恋人だけに許された行為と心得ている。鳥の子とはできないのが難点ではあるがその分それができるというのは俺達フレンズの血縁にとっても特別なことである。
「や、さすがにそれは… ねぇ先輩?」
「街の為よ、やりましょう?」
「冗談でしょ!?正気ですか!?」
ここでひとつ誤解してもらいたくないことがある。
俺は先輩とそれをするのが嫌な訳ではない、ただそんなに軽率なことをしたくはないのだ。先輩だって心に決めた人とそうしたいはず、だから先輩も不本意ながらということではあると思う。
ただ四神っていう凄い立場のある方からの命令だし、一般市民を守るのが俺達ガーディアンの仕事だから先輩はできると答えている。
「私とじゃ… イヤ?」
「そ、そうじゃないけど…」
そう、イヤって訳じゃない。
じゃないけど。
「レオ、もしかして初めて?」
「えっとそのはい…」
「All right?そんなに難しく考えなくていいのよ?ただ尻尾同士がクロスしていくだけ、ゆっくりいくわね?いい?力を抜いて?」
「せせ先輩ちょっと待っあぁ… あ」
やだなにこれやばい開発されちゃう…。うるさい、そうだよ尻尾童貞だよ俺は。←?
先輩慣れてるんだろうか?
ゆっくりと丁寧に先輩の尻尾が絡み付いてくる。互いの尻尾の真ん中辺りからそっと交差し、もう一度… もう一度… と優しく捻れていく。
俺は尻尾が擦れる度に小さく情けない声を挙げる情けない男である。
『なぁ、二人ともあまり無理しなくてもいいんだぞ?大丈夫か太郎?内股になってるぞ』
「シロじぃ… 俺もうお嫁にいけないかも…」
『落ち着け、それは元からだ』
先輩ぃ~… ケロッとしてるよなぁ?先輩はどうして平気なの?やっぱりあれなの?美人だから経験人数多いの?あんまり男っ気感じなかったけどプライベートは実はめちゃくちゃやり手なの?なんてことだ、こ、このままでは俺も先輩の餌食に。
しかしその時の先輩の僅かな変化を俺は見逃さなかった。
「ンっ……」
あれ?
先輩ももしかして初めてなのでは…?
仕事だからって体張りすぎだよ先輩、好きでもない男と尻尾絡めるなんて。なんでそこまで無理するのさ?はっ!?まさか先輩俺のことを!?くぅっ…!でもその気持ちには応えられませんッッッ!俺にはスザク様が!しかしここは最初に言われた通り俺がエスコートしなくては、男らしくな。よし。
「どこかで休みませんか?このままじゃお互い… ほら?」
「ちょっと、それってどういう意味?調子に乗らないで」
「え?あぁ違う違うそうじゃなくて!?」
よく考えたらそう、今のはまるでホテルへの誘い文句のようだった。くそ、血迷ってやがる。先輩のことそんな風に見たことなかったのに急にエロく見えてきた。
そして愛しのスザク様はどうやって映像を受信してるのかわからないけど俺達のドギマギしている姿を見て次の指示を出し始めた。
『おぉ… よし!次は尻尾を絡めたままハートを作るんじゃ!』
いや~もうキツいっす。
仕事の鬼である先輩にもさすがに限界というものがある。
『スザク様、二人をオモチャにしないでください?まったく… 二人ともよくやった、頼むから無理しないでくれ?そろそろ休憩にしよう、お昼は二人とも好きなものを食べるといい、全てスザク様が持つ』
シロじぃ…。
俺はこの助け舟に御先祖の愛を見た。
「先輩?とりあえずどこかで何か食べましょう?そこで作戦会議っす」
「こ、このまま?まだこのままでいく?」
「えっと… い、一応着くまではそうしましょう」
シロじぃが休憩を許してくれたのでとりあえず色々絡み合ったままファーストフードにでも入ることにした、確かそこの角を曲がったら見えたはず…。
早く… 今はとにかく早く休みたい。
がその時だった。
『太郎ッ!後ろだッ!』
俺はまったく気付くことができなかった。
「えっ…!?」
互いのことで油断しきっていた俺達の背後に忍び寄る者の影に。
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