第11話 腰痛魔王の最期

「お母さんの皮膚で作ったって、殺したんですか」

 戦慄しつつ質問。

「いやいや、土葬にしてから掘り返しただけだよ」

「そんなことして呪われてないですか?」 

「私は合理主義者だ。呪いなど信じない」


 サチコさんの顔をちらりと見遣る。すまし顔で僕と魔王ゲインのやりとりを聞いている。

 

「でね、この人形が大声を出すのでよく眠れなくて腰痛が治らない。医者が腰痛には抱き枕がいいですよと言うんで作ったんだが」


 抱き枕が女の声で叫んだ。

「叩けばほこりの出る奴が偉そうにするなああ」


「抱き枕を変えたほうがいいです。それは神社に預けて」

 サチコさんが口を挟んだ。

「抱き枕抱いて寝てみてもらえますー?」

 言われた通りベッドの上に横になる魔王ゲイン。彼は頭に生えた角が邪魔になり、体を横向きにしても顔は上向きという変な姿勢で寝ていた。これじゃ腰痛は治らない。


「二人とも言いたいことは分かるが角は切りたくないし、この抱き枕も捨てられんのだ」

 そろそろ帰りたくなった僕は提案してみた。


「抱き枕の口を塞いでみませんか」

「ガムテープか何かで?」

「あなたの口で」

「それもやってみたが、眠くなったら離れてしまう」

「うつ伏せに寝てみたらどうです?」


 魔王ゲインは僕の言うとおりにした。母親の皮膚で作った抱き枕にまたがる体勢。

「じっとして」

 僕はバタフライナイフを取り出し、うなじに斬りつけた。血は出なかったが魔王ゲインの首は胴体から泣き別れになった。僕は更に生首を掴み枕に押し付け布団を被せた。


 布団越しに魔王の眠そうな声。

「これならよく寝られる。おやすみなさい」

 寝息も途絶えた。サチコさんが布団をめくり胴体の背中に手を当て腕時計を見た。

「午後10時12分。御臨終」


 天井からまぶしい光が伸びてきた。任務を終えたからか。

「サチコさん、色々ありがとう」

「もう帰るの?」

 名残惜しそうな彼女。僕の判決を傍聴しに来た母親がこんな眼差しをしていた。


 光に引き上げられてみると少年刑務所の中。目の前には教戒師の笹野さん。

「ずっと待ってたんですか?」

「5分くらいかな。出所したら私のところで魔導士修行だ。ところで、後ろに立っている女性は?」

 振り向けばサチコさん。


「ケンタ君のこと心配でついてきたんですけどー」

 照れくさそうに頭を下げる少年刑務所には場違いなきれいなお姉さん。

「彼が出所したら迎えに来てあげてください」

 当惑した様子も無く刑務官の曽我部さんが言った。

「迎えに来ていいんですか?」

「問題はありません。一応角は隠して」


 塀の外の知り合いがやっと一人出来た。色々世話になったから恩返ししなきゃ。(了)

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身寄りの無い半グレが異世界で魔王を倒した スリムあおみち @billyt3317

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