第10話 暴言抱き枕
「君達が来るのは分かっていた。警察で事情聴取を受けたろう?色々教えて貰ったよ」
僕とサチコさんは洋風の応接間に通され、魔王ゲインは酔い覚ましに、と緑茶を直々に持ってきてくれた。なんだ?妙に親切丁寧な人だなと思ったが緑茶を飲んでいいものかためらった。毒が入っている可能性を考えたからだ。
「ああ、毒殺など姑息な真似など私は」
魔王ゲインが途中で言葉を切った。サチコさんが遠慮も何もなく熱い緑茶をぐびぐびと飲み干したから。
「おいしいー。もう一杯。ちょっとトイレ借りていいですか?」
「ええ、玄関の脇にあるので」
彼女はタクシーの中で既に尿意を催していたのかバタバタと慌ただしくトイレに駆けていった。男子小学生みたいだ。
「彼女とは以前からのお知り合いですか?」
一応魔王ゲインに確認。
「彼女が勤務している大学病院に通院しているから顔を知っている程度の仲だ。で、その迷彩服は魔王討伐隊の制服か何かなの?」
「気が付いたら着て、街を歩いてました」
「ここに来るまでに脱がされたりしてない?脱いだら私の首を刎ねても人間界に戻れない。じゃ、またお茶を淹れなおしてこよう」
すっと立ち上がった魔王ゲイン。しかしすぐに腰を屈めた。聞いてはいたが腰痛か。気遣いの声を掛けるのも変なので見ないことにした。苦しそうに腰に手を当て顔をしかめていた彼は30秒ほどで持ち直し、何事も無かったかのように応接間から出て行った。
入れ替わるようにすまし顔で戻ってきたサチコさんは少し酔いが醒めたようだ。黙って僕の横に座り、僕と彼女の為に淹れなおした緑茶を運んできた魔王ゲインに軽く頭を下げた。
「したのはおしっこだけですのでー」
「そんなこと言っても色仕掛けにはならない。でね、私も首を刎ねられてもいいんだがその前に相談がある。二人とも寝室に足を運んでもらえる?」
サチコさんの言動に色仕掛けを思った魔王ゲインに変質者の匂いを感じたが、後に従う。
寝室には簡素なシングルベッド。その上に抱き枕。
「これね、この人形は僕の母親の皮膚を使って作った自作のものなんだが夜中暴言を吐くんだよ」
彼は抱き枕の事を人形と言った。よく見ると確かに女性の顔が描かれていた。
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