第9話 夜中にお宅訪問
「どしたの?」
「お邪魔します」
玄関口で躊躇していた僕の肩をサチコさんが軽く叩き中に入るよう促した。
木製のテーブルを挟んで向かい合い、僕はチキンカツ弁当、サチコさんはチャーハンを食べながらビールを飲むことに。
「いただきます」
「礼儀正しいねー」
「少年刑務所に入る前は特別少年院にいて、そこがしつけに厳しいところでしたから」
「オンラインカジノで資金洗浄だけでそんなぶち込まれちゃうの?」
「外国のマフィアが売り飛ばした人達を冷凍車で輸送して、20人以上凍死しちゃったから、直接殺したわけじゃないけど」
「分かってるだけで20人以上ってことね。それって人間のすることなの?」
「僕も逮捕されてから話を聞いたんですけど、彼等とは直接の交際は無いので分からないです」
「どこかの魔王が人間を使ってやらせたのかもねー。冷凍された人間をこっちの世界に運び、お湯をかけて生き返らせて働かせるとか」
ビールをぐびぐび飲みながらサチコさんは話を続けた。
「人身売買はもちろん違法だけど、不逮捕特権をいいことにやりたい放題する奴ばっかりなのねー」
「魔王ゲインは村を一つ部下に命じて焼いたということですが、他にもなにかやってるんですか?」
「臓器をくり抜いて薬用酒の材料にしてる会社経営。それで財を成して魔王の権利を買った。つまり収賄で魔王になったんだけど、なったもの勝ちだから」
「収賄で魔王って、チート過ぎませんか」
「刃物もそれなりに使えるから応じなければ暗殺。なんでそこまでして魔王になりたかったのか知らないけど」
話を聞くほどに不安がこみあげてきたので素直に口にした。
「僕、首を刎ねてこいと言われたけど自信無いです。バタフライナイフもおもちゃ代わりにいじってたけど誰かを刺したこともないし」
「ケンタ君は出来るよー。悪行も修行のうちだよ、修行積んできたからこっちの世界に送られたんじゃないの?」
「僕も出所したら罪が消えるとは思ってないです。返り討ちに逢っても文句は言えません」
「一人で行かせるわけないでしょー。あたし手伝うって言ったよねー。作戦思いついたから飲んで」
勧められるままビールをコップに注いでもらい飲む。
「作戦はねー、夜討ち。二人で酔っ払った勢いでお宅訪問。それとも一晩寝てからにする?」
「そんな、一晩寝てからなんて」
「あー、エッチなこと考えたでしょー。角が生えてる女に萌えるんだー」
「角は関係ないです。きれいで優しいから」
「それ以降他の誰かとエッチしたら浮気と見なし去勢。切断してホルマリン漬けでいいならあたしも嬉しいなー」
酔いが一気にさめた。やっぱ恐い。
「では、これから魔王ゲインの首を刎ねに」
「うんうん、あたしに萌えてもいいけど仕事しないとねー」
酔っていたのでタクシーを拾い魔王ゲイン宅へ。普通に立派な二階建ての一軒家。インターホンを何回もピンポンピンポンと連打するサチコさん。
「おーい、変態オヤジ、遊びに来たよー」
足元をぐらつかせながら夜中に大声で騒ぐサチコさんは見た目コンサバな虎のようだった。
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