第6話 異世界お礼参り

「これで手術は終わりました。切り落とした角がこれとこれ。持って帰る患者さんもいるけどどーします?」

「記念に持って帰ります」

 手術台から立ち上がり自分よりはるかに小柄なサチコさんに膝を折り曲げ頭を下げる患者さん。この人は背が高いのにいつも這いつくばるように頭を下げているから首を悪くするのだと納得。


「はいこれー」

 45リットルの透明ゴミ袋みたいな袋に無造作に詰め込んだ角を渡すサチコさん。  ますます頭を下げて受け取る患者さん。

「お疲れ様です」

 僕だけ黙って突っ立っているのも変なので軽く頭を下げ帰りを見送った。


「随分丁寧な物腰の人でしたね」

「あの人は魔王ゲインが魔王に就任する前から王室局にいるから」

「就任って、その前に誰かいたんですか」

「お話が長くなる前にご飯食べたいからファミレス行こう」


 再びサチコさんの小型車に乗せられ山の中の道を下り街中に戻る。途中で裏返しになったソブリンがそのまま放置されていたので避けて通る。

「誰も居ない……」

「恨みは買っちゃったねー」


 悪い予感的中。サチコさんに連れられて入ったファミレスに、彼女に狙撃され大破したソブリンに乗っていたホスト系お兄ちゃんとその仲間二名が怪我をした様子も無くドリンクバーのコーヒーやソフトドリンクを飲みながらテーブルに陣取っていた。


 こういう時、話は彼等の仲間に伝わっているのが普通。僕は身構えたが彼等の視線に気付いているはずの最恐外科医サチコさんは平然。分かってここに来たのか。


「マグロ丼定食にしようかなー。ケンタ君おごるから好きなもの注文していいよ」

 何年ぶりかに見るファミレスのメニュー。感動している場合ではないのだがハンバーグ定食980円のところで目が釘付けになった。


「本当に奢ってもらえるんですか」

「うん、何にするの」

「ハンバーグ定食。大盛り、御馳走になります」

「いいねー、大食いの男の子あたし好きだよー」


 人間界では全く縁の無かったいい匂いのするきれいなお姉さんに魔界で飯を奢ってもらえるなんて。問題山積みだが来てよかった。


「涙ぐんでるとこ悪いんだけど、人間くん、ちょっと顔貸してくれる?」

 男の声。顔を上げればやっぱりホスト系お兄ちゃんとその仲間。数えてみれば六人に増えてる。

「サチコさんの味方をしたってことは、俺ら敵に回したってことなんだよ」

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