第5話 魔王の弱点は腰痛
口調は軽いが目が本気の彼女。逆らえずバタフライナイフを取り出す。
「クルクルって回して見せてー」
言われた通り、昔遊んでた頃のことを思い出しながら軽く回す。表情を強張らせる患者さん。
「この患者さんが魔王ゲイン?」
「別人。でも知り合いかなー」
「わたしは王室局の役人です。試し斬りの検体なら連れてきますので」
患者さんが逃げようとしたがサチコさんに右の角を抑え込まれて動けない。
「病院で医者に逆らうなあ。そーだ、ケンタ君、とりあえず角切ってみよーか」
クルクルと回しながら角に斬りつける。
「痛いです……」
麻酔が切れてきたのか涙目の患者さん。
「サチコさん、可哀そうだよ」
「んー、でも半分切れてるよ、すごい」
確かに患者さんの角には切れ目が入っていた。角の先を掴むサチコさん。
「このままボキッて取れそうですねえ」
「先生、角の根元が痛いです」
「彼に切ってもらう?」
「はい、お願いします」
「その前に、魔王ゲインの弱点を教えてあげて」
黙りこくる患者さん。今は拷問されている捕虜同然。
「魔王にも弱点が?」
「誰にでも弱点はあるよー。怒りっぽいとか」
「上司の、悪口になりますので」
「角、取っていいの」
サチコさんが力を入れると僕がバタフライナイフで斬った切れ目が少し裂けた。
「魔王ゲインの弱点というか持病は腰痛。デスクワークのやり過ぎが原因。更に現場の視察もせず部下の苦労を知らない。自分の命令で燃やした村の場所も地図で指し示せない」
患者さんは口を開いたがいたたまれずサチコさんに言った。
「この人は悪くないのに……」
「ケンタ君の弱点は優しすぎること。魔王の首を斬るなら鬼にならないと。人間の世界に帰りたいのよね?」
これまで地獄だと思っていた少年刑務所はまだ甘かったと思い知らされた僕は患者さんの角をバタフライナイフで切り落とした。
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