第4話 試し斬り

「麻酔してるから痛くないですよー」

 白衣にマスクのサチコさんは巨漢の患者の左の角にノコギリを当てた。身長3メートル体重200㎏はある男性患者の頭に膝を乗せ、ゴリゴリと角を切り落とし始めるサチコさん。


「痛くないですかー?」

「痛くないです……」

 返事をしながらも不安そうな患者さん。やはりサチコさんが恐いのだろうか。


「角を伸ばし過ぎると重たくて首を悪くするのよ」

 やはり白衣にマスク姿の僕に解説してくれるサチコさん。彼女の白いふくらはぎにドキドキしてしまう。特別少年院から少年刑務所直行だと異性との接点が全くない。だが人間じゃない相手にときめいていいのか。


「ケンタ君もこの世界に来た瞬間から角が生え始めてるよ。人間性も段々失くしていっちゃうからさっさと魔王ゲインの首を取らないとね」

「サチコさんも元は人間だったんですか?」

「おじいちゃんは人間」


 ノコギリで患者さんの角を豪快に切りながら返事をするサチコさん。そうか。魔界に来てそのまま帰らずに住み着いた人間が昔からいるのか。


「魔王ゲインも母親は人間。奴の父親がさらってきたんだって」

「女性を誘拐は罪が重いです」

「それなりに悪じゃないと魔界にさらわれることもないけどねー。ケンタ君なにやったの」

「オンラインカジノで資金洗浄……」

「そりゃ悪質だわ、魔王ゲインは部下を使って村一つ燃やしたけど」

 

「あの、先生。あれは疫病流行を抑える為のものだったはずです」

 それまで黙っていた患者さんが口を開いた。

「病院長に相談なくやられたら困るんですよねー」

 左の角を切り落とし、右の角にノコギリを当てたサチコさん。ちょっと機嫌を損ねた風情。


「首を切り落としたら首を悪くすることもなーい。ケンタ君、試し斬りしてみよー」

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