第23話 中学生

 中学生は中ぶらりんだ

 小学生のように身も心も小さいままで居られない

 高校生みたいな高みを望む術もない

 大学生ほど大人の仲間入りが出来る訳でもない

 中ぶらりんの、どっちつかず―――


 ◆ ◆ ◆


「それ、漢字が違うよ」

「え……どれ?」

 向かいに座る家主の同級生から突然の指摘。

 改めて見直すも、全く気付かぬ我が頭脳。

 残念どころの話ではない。

「これだ。『中』ぶらりんじゃなくて、『宙』」

 右隣の優等生が覗き込み、正解を示す。

 いつ見ても綺麗な字を書きよる。

「あはは! 来週のテスト、ヤバくね?」

 自分と同レベルのお調子者が言える立場か。

 左隣からの軽い罵倒にムッとして返す。

「これで覚えたし、これ迄の漢字問題は完璧だし」

「言うねーっ!」

 あはは! くすくす! きゃはは!

 定期試験前の部活休止期間を利用しての勉強会。

 幼馴染み、と言うほどでもない同学年が集う。

 同じ小学校学区とはいえ、子供会が異なるほど自宅が離れてる者も居れば、一度も同じクラスになったこともない者も居る。それは公立中学に上がっても同様で、部活も委員会も違うのに誰からともなく声を掛け合い、気付けばこうして集まってしまう不思議な関係。

 でも、居心地が良いのでこれで良しとしている。


 さて、冒頭の文章は、テスト当日に提出すべき国語の課題『詩を書こう』における記念すべき我が第一作目なのだが、初っ端からしくじったようでモチベーションはだだ下がりだ。

 それでも。

「誤字は置いといて、なかなかの出来だよ」

「厨二臭いとこに、味がある」

「その闇が逆に我らを救う……てか?」

 正直、まともな評価は全く無い。かと言って、全否定する訳でもない思春期特有の共感に助けられ、思いの丈を言葉に乗せて詩を完成させる。

 よし、これで漸く試験勉強に取りかかれる。

「おつー、てか遅いわ!」

「どれだけ時間をかけたら、気が済むのか?」

 手のひらを返すように、何とも冷たいお言葉。

 先程の心温まる応援の理由は、他のメンツは既に作成済みでガンガン試験勉強を進めているなか、自分だけが悶々とした思いを言語化出来ずに一時間を費やしていたからだった。

「まあまあ、いいじゃないの。一段落したところで、休憩といきましょうよ」

 賛成! との多数決により、お菓子とジュースの準備が始まる。

 いや、英単語の一つくらいは覚えたいんですが。

「皆さーん、すっとぼけいが真面目ぶってますー、罰として恋バナをさせましょー!」

「「イェーイ!」」

 思春期真っ盛りが集まると謎に生まれる連帯感。

 そして、恋への興味が拍車をかけて襲いかかる。

 正直、やめてほしい。

 特に、今は。


「で〜? 告られて始まった同じクラスの谷和原やわらとは、どこまでいったんですか、パイセン!」

 大きなお世話だよ、お調子者。

「以前、手を繋いで仲良さげに帰ってたのを見た」

 それ、ひと月前の話です、優等生。

「そういえば、最近は一緒に居なくない?」

 客人に出す前に菓子をつまむな、家主の君よ。

 そもそも、お前さんはこの手の話が苦手なはず。

 下手に悪ノリして逆につつかれたらどうするのか。

 仕方なく、ため息混じりに真実を暴露する。

「……二週間前に終わりました。何処までも何も、ショッピングモールで映画を観たり、買い物に出かけるくらいの関係。手を繋いだのも数える程度。理解した? ならば……今度は、全員残らず晒していただこうじゃないか、あーーん?」

 睨みを利かせて語尾を強めたせいだろうか。

 一同、言葉を失ってドン引きしてる。

 ていうか……空気が、重い。

 え、ちょっとお待ちを。 

 お調子者が目を潤ませてるし。

 優等生よ、鼻水はすすらず、ズビーっとかめ。

 メガネをずらして肩を叩くな、家主の君!

「ゴメンよ〜! 知らなかったから、突撃レポートかましちゃったよ〜!」

「その思いをこの詩に託したのか……昇華できたのなら、それで良し! ズビビ!」

「次の素敵な出会いに期待しよう、うんうん」

「あー、その、何だろう……まぁ、頑張リマス」

 皆さんからの温かい声援、重ねて感謝しよう。

 ならばこそ。

 勉強会を再開しようではないか。

「てか、聞いてくれい! 実は最近、気になるヤツが居てですね〜……むふ♪」

 まだ続けるのか、恋バナ。

 頼むからこの話題、早く終わって欲しい。

 

 ◆ ◆ ◆


『他に、誰か好きな人が居たりする?』

 不意を突かれて思わず無言で見つめ返す。

 気付かれぬよう配慮したのに、何たる不覚。

 この別れの理由を、今は知られたくないんです。

 その相手は誰なのか、問われたくないんです。

 特にこのメンツには。


 きみがいる、このメンツにだけは―――。

                  

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