第22話/中学生

 登校班が同じだった近所の兄ちゃんに彼女ができた。同じ高校に通うふたりは、駅から楽しそうに喋りながら兄ちゃんの家に消えていくらしい。

 ツヤツヤとした長い髪がさらりと風に揺れ、兄ちゃんより二つ年下の割には大人びた雰囲気で、睫毛がくるんと丸まる奥二重の右下に小さな泣きぼくろがある、なかなかの美人さんだ。

 当の兄ちゃんは、というと。

 そんなにイケメンではないが三人兄妹の長子らしい優しい感じ。ガチモテには程遠いが分かる人には分かる魅力を持つってヤツ。

 まぁ、残念系ではない、とだけ言っておこう。


 そんな兄の話をウンザリしながら語る同級生の斜め後ろの席で、小説を読むふりをして耳をそばだてる。

 良かったじゃないの、漸く春が来て。

 受験生なのに余裕ブッこきまくりだけどね。

 そう言えば推薦で受かったから暇なのか。

 恋愛ボケしてるとそのうち叩かれるんじゃない?

 いや、叩かれて別れてしまえ、いっその事。

 リア充の運命ってやつですよ、抗うな。

 同じ受験生として腹立つし。


 ◆ ◆ ◆


 高校受験の第一関門を控える冬。

 授業が終われば即下校となり、同じ小学校学区の奴らと帰宅途中にダベっていると、例の兄ちゃんが彼女連れですれ違う。

「早く帰って勉強しろよ、中坊」

「色ボケヤローは推薦取り消しでも食らっちまえ」

 ちなみにこの兄ちゃんとはこういう関係。

 そんなやり取りを、くすくすと笑う彼女さん。

 こんな男には勿体ないくらいの、クール美女。


 兄ちゃんは私立中学に進学したから知らないが。

 実は同じ塾に通う、顔見知り。

 それ以前に、地元中学の部活の先輩と後輩。

 そして。

 会話のどさくさに紛れて告ったが、本気にされずにな間柄でもある。


 知り合ったのはこちらが先なのに。

 何でこんな男に捕まったのか。

 あぁ、どうでもいいから早く別れてくれ。

 今度こそガチ告白するんだからさ。


 あ、そこの人!

「お前こそ色ボケしとるやん、受験生!!」

 とか、言わないでくださいよ!

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