第21話/カップル

 ここらが限界だと感じた。

 共に在ることは最早不可能なのだ、と。

 俺が居ればお前を苦しめる。

 構わないと微笑むお前を見て俺が苦しい。

 結局、自己チューでしかないとは

 情けない限りだ。


 覚られぬよう隠しきった苦しみを

 最後の最後にチラつかせ

 俺はお前を惨たらしく裏切る。


 お前と歩む道をずっと夢見ていた。

 それが叶って嬉しかった。

 どうにも生き苦しく抗えないこの世界で

 お前の存在だけが行き先を照らす光だった。


 どうか俺の事など忘れてくれ。

 記憶の底から消し去ってくれ。

 そしてその光は

 俺ではない誰かを優しく照らせるよう

 心から祈ってる。


 ◇ ◇ ◇


 仕事帰りにアパートへ向かう。

 インターフォンを鳴らすも静かな室内。

 覚悟を決めて鍵を開ける。

 備え付けのテーブルに残るブルーのスマホ。

 きみらしいね、徹底してる。

 たまの連絡さえも許されないということか。


「この手を離さないで」

「信じてる」

 言った本人が裏切っていたら意味がない。

 昨夜の稲妻は予想を覆すことなく

 きみとの行き先を別けていった。


 残り香が籠る部屋に風を通せば

 生温く頬を撫でるそれにふと気付く。

 そんな資格など無いくせに狡いよね。


 これからのきみの道を照らす光が

 どこかに有ることを切に願い

 きみのスマホを胸に抱く。


 幸せにできなくてごめんなさい。

 生まれ変わってもせめて友人でいさせてね。

 ありがとう。

 永遠に愛しい、僕の初恋のひと。

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