第12話/大学生

「好きな人には好きな人がいた」


 青空を見つめながら唐突に告白する、後席の背の高い同級生。


 あったねー、そんなCM、覚えてます?

 相談されちゃったわけですよ、大親友に。

 いや、違うな、相談じゃなくて愚痴だ。


「相手は年上だから諦めてるけど、事実を知ったからには、やっぱり凹む」

 三時限目後の休みにお菓子で小腹を満たしながらガンッと机に突っ伏すから、私は言ったわけ。

「カノが居るわけじゃないなら可能性あるんじゃない?」

 でも、フルフルと首を横に振っては無理、って。

 何故かと聞いたら……。

「はぁ!?10歳も上!?」

 そりゃ、諦めの境地だ。

 何でそんな男に惚れたんだよ。

 どうせ皆んなに優しい顔するヤツなんだろう?

「分かってるんだけどねぇ……」

 頬杖をついて哀しそうに笑う。


 見たくないよ、お前さんのそんな落ち込む顔。

 自信なさげな性格でも、てへってハニカんでるのが可愛くて素敵なんだからさ。


 それから一年後。

 卒業式の後に意を決して年上講師おっさん――私にしたらね――に告ったら上手くいったらしく、卒業パーティではニッコニコの満面の笑みでラブソングを歌いまくっていた。


 つまんないの、私と遊ぶ時間が減るじゃないか。

「土日は仕事だから、いつでも空いてますよ!」

 オイオイ、年下彼女を放置して仕事かよ。


 いつかまたションボリ顔をするんじゃないかと心配になってくるので、そうならないように私が支えたろう、と決意がみなぎった。


◆ ◆ ◆


 大親友とは高校からの付き合い。

 この高校を選択した理由である念願の軽音部に入部するには同学年でメンバーを揃えねばならず、ひょんな事で互いに余り者だと知った彼女と出会い、卒業までの三年間、クラスが変わっても同じになっても相談事はコイツに、という程の固い絆で結ばれるようになった。

 そして現在、運良く大学も同じ学科に進み、共に切磋琢磨している。


「あれ、今日は棚橋一人?」

 大親友と出席番号が前後する男子が問いかける。


「体調悪いみたいで休みだけど、聞いたら大したことないから大丈夫だよ」

 男子に『生理痛が酷くて』とは言えないんでね。


「えっ、そうなんだ。うーん……お見舞いメールしても良いと思う?」

 コイツはマメ男だ。しかも何かと気遣いが出来るスゴイ奴。同科の女子からは影で〈気配り王子〉と呼ばれて持て囃されているのを、本人は全くもって知らない。

 そして、そんなコイツのハートをがっちり掴んで離さないのが、何を隠そう我が大親友なわけだ。


「いや、今日は寝かしてやってよ。明日来た時に労れば十分だよ」

 助言をすると、そうか、と肩を落として隣である大親友の席をチラ見する。

 愛されてんなー、大親友。

 でもね、それ以上に私が愛してやまないんで、悪しからず。


「あ、棚橋、今日の昼飯、一緒に食わない?」

 おや、大親友が居ないのにお誘いなんて珍しい。


「何だ何だ〜?企みがございますって顔してるよ、シュン兵衛」

「あのなぁ、そのヒトの名前で遊ぶのやめろって」


 逢坂アイサカシュン。

 コイツの名を弄んで呼ぶのが最近のマイブーム。

 嫌がる事をするのはいけないことですが、その度にツッコんでくるので楽しくなってきている私。


「寛大なシュンシュンだから許されると思って、てへ♪」

「てへ、じゃないわ、全く。で、どうなんだよ?」

「んー、理由次第かな?カホが居なくても相席する子は居るからね」

 そう言うと、一瞬視線を外してちょっと躊躇いがちにボソッと呟く。

「……その藍田の事を教えて欲しいんだけど」


 藍田カホ、我が大親友。

 個人情報をダダ漏れさせる訳にはいかない。

 が、当たり障りのないことなら良いかと判断し、

「仕方ないなぁ、今日だけはつき合ってやるよ、シュン坊にね」

 共にお昼ご飯を食べることにする。


「だーかーらー、やめろってーの!」

「あはは!」


◆ ◆ ◆


 ―――好きな人には好きな人がいた。


 私の愛する大親友との仲は取り持てないけど、キミの為にランチタイムを過ごすことにしましょう。


 私の好きなキミへの想いを笑顔の裏に隠しながらね。

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