第13話/会社員

 あの日、別れを告げた海に向かう。


「あなたより仕事を選びたい」

 いつの時代の台詞だろう。

 我ながら、恥ずかしい言い方をしたなぁ。


 本当の理由は別にあった。

 優しいあなたは知恵を絞り共にある道を探してくれるだろうけど、逆にそれが苦しいから秘密のままにした。

 幾度も確認してくるあなたを泣かずに見つめるのは根気がいった。

 嫌いになった訳じゃないから。

 愛しさを残しての別離は想像以上だね。


 あの日より賑わう駐車場。

 ちょっとベタつく海風が頬を撫でる。


 へそ曲がりだけど優しくて、朗らかな声で心を落ち着かせてくれる、惜しみ無い愛情をくれた人。

 接点もなくなったいまはあなたの幸せを心から願うのみ。


 あぁ、でも最後にひとつ我が儘、いいかな?

 もう少しだけ、あなたの面影を心に住まわせて生きていくことを許して欲しい。

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