第9話/高校生

「よっ、とっ、はっ!」

「あぅ、いゃ、おぉっ!?」

「来たか!?」

「「「………ぐあぁぁっ!」」」


 うら若き女子が揃いも揃って、ある時は跳びはね、またある時は愕然とうな垂れて公園の一角で挙動不審な動きをする。

「ダメだ、掠りもしない」

「あとちょっと!というところでヤツら、文字通り掌返るし」

「我らの恋は実らんという事かーっっ!」


 私たちにはそれぞれ好きな人がいる。

 先日、恋バナが話題に上ったついでにほんのり擦り合わせてみると、全員が中々な期間の恋煩い中である事が判明したのだ。

 思い切り楽しめる学生生活はあと僅か。

「ここは一発、勝負かまして進学みらいへと集中すべきだな」

 満場一致で決まったものの、本来ビビりな私たちに確証もない勇気を出す力などなく、いつもの様に見つめるだけの日々を送るところへ、この内の一人がある情報を引っ提げてきたのだ。


『地面に落ちる前に桜の花びらを掴むと恋が叶う』


 ほんまかいな!


 突っ込みつつも、そのおまじないを信じてひらひら舞い散る花びらを得ようと必死に試みるが、なかなかどうして、一向に捕まらない。

「これは理系頭脳が必要なの、物理?」

「今は勉強の話しは止めれって!」

「あとちょっとなのに、悔しいなぁ」


「小一時間やってこれかぁ、いい加減疲れたわ」

「取れない=フラれる、ではないよ」

「お守りは代用出来るしね」


 ―――よし、帰るか。

 荷物を取り歩き始めたその時。


 びゅうぅぅ!


 髪を乱す風に乗って花びらが一斉に舞う。

「「「……あっ!」」」

 風が止み、握った手を広げて見せ合うとそれぞれに一枚ひとひらの花弁。

 これは落ちる前なのか後なのか。

 そこは深く考えず、ニンマリとして私たちはそれをお守りとした。


 ―――そして結果発表!

 2対1で勝利!

 私以外はめでたくカップル成立となった。

 悄気しょげる姿に二人は慰めてくれるけど、実は私は不戦敗。

 だって、私が好きな人は。

 目の前で『よしよし』と頭を撫でてくれる、あなただから。

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