第8話/カップル

 人も疎らな冬の海。

 吹きつける冷たい風に思わず肩を竦める。

「うー、寒い」

 思わず呟けば、後ろから伸びる大きな掌が冷えきった頬をそっと包む。

 ふふ、温かい。


 彼の前を歩き、しりとりをする。

「じゃあ次は俺から、『冬』」


「んー、『浴衣』」

「ぷっ、季節感、『樽』」


「〈る〉は卑怯だー!る、る、『瑠璃』」

「じゃあ、軌道修正、『竜』」


「『海』!」

「『水面』」


「……『もう会うのはやめようか?』」

「……『快諾できないな』」


「『何がどうなる訳でもないし』」

「『しんどい?』」


「『幾らか……』」

「『考えたくないな』」


「『ならば抱き締めてくれる?』」

「『ルール違反と言ったのは誰だい?』」


「『いっそ寝てみますか!』」

「『体を重ねるやつ?』」


「……ごめん調子に乗りました、忘れて」

「あっ」


 言い終える寸前にひとひらの雪。

 寒いはずだ。

 にび色の空からふわりふわりと落ちてくる白い氷の綿を受けようと、差出す互いの右手と左手の煌めきにそっと触れては消えていく。

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