第17話/中学生
運動神経が下の中くらいの私。
友達の付き添いで運動部にうっかり入部。
結果の出せない輩は、あっさり雑用係に任命。
自分の存在意義が見出せぬ日々が続くなか、唯一の心の支えは一学年上の橋田先輩だった。
「水分くれー!」
はい、今すぐ、喜んで!
「俺のタオルってどこだっけ?」
ここですよ、と手渡し出来る喜び。
「緒形、記録見せて」
名前を呼んでくれる幸せ。
「いつもありがとうな、緒形」
眩しい笑顔と感謝の言葉も貰えちゃう。
正直、雑用係はシャレにならない忙しさだ。
加えて、グサグサと突き刺さる取り巻き女子の鋭い視線が滅茶苦茶痛い。
でもね、触れるどころか会話も視線すらも合うことのない彼女達の前で得られるこの優越が有れば、忙しかろうが痛かろうが何だろうが、なんちゃない話なのだ。
橋田先輩はめちゃモテる。
イケメン、運動神経抜群、成績優秀、人柄も良く生徒会副会長で頼もしいから男女問わず集まってくる。当然、笑顔も爽やか。
そして、なにより優しい。
そりゃ誰だって惚れるでしょう。
私は惚れましたわ。
だから、頑張れる。
◆ ◆ ◆
今日は部活動の集会日。
これまでの報告とこれからの活動内容が顧問から伝えられる。
我が部は大所帯でスタメン争いが激しい。
橋田先輩は二年生ながらも好成績を叩き出しているので、そろそろ名前が呼ばれる頃だろう。
そうしたら益々お世話に勤しまなければ♪
休憩時間に雑談が混じる。
「……橋田さあ……じゃね?」
「確かに、そろそろ……」
周りからも高まる期待の声。
さあ、声までイケてる先輩の謙虚な一言に全集中だ。
「……ていうかさ、三年でも使えねぇのいっぱいいんだから引退前に早く切れっつーんだよ、顧問も。特に中岡先輩とかマジ辞めてくれって。疲れるわ、ああいう人……」
あー、先輩、それ言っちゃうかぁ。
恋に恋するとはこのことか?
中学一年生の私には残酷な現実。
理想がガラガラと音を立てて崩れていく。
中岡先輩は付き添った友達のお兄ちゃん。
身近な相手への悪口だけに……。
聞きたくなかったなぁ、先輩のそういうの。
初めて年上を好きになった恋はあっけなく冷めていった。
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