第16話/会社員
ニ年ほど付き合ってる彼氏は照れ屋なので愛情表現が下手くそだ。ひねくれ者だし、頑固だし、見栄っ張りで、そのくせビビりだ。
不満をあげればキリがないが、それでも続けてしまうのは我ながら惚れてるからであって、そんなヘッポコなところが愛しいと思うからなんだろうな。
◆ ◆ ◆
彼は、他支店からやってきた同期だ。
地方訛のイントネーションを僅かに残しながらも、それを笑いに変えて話題を広げては周囲を明るくする才能に長けた人物で、気が強く愛想の少ない私にとっては妬ましくもあり羨ましくもある存在だった。
当時、同じフロアに配属された同期は彼と私ともう一人の三人。退勤時間が合えば誰からともなく誘い合い、飲み食いする仲になるのは必然で、ともなれば、プライベートも共にするようになる。
好みのタイプではない彼にだけは絶対に惚れない自信が有ったが、油断したのか、いつしか彼と居る無防備感が心地よくなり、うっかり恋心が芽生えてそういう関係になった。
顔を合わせる度に深い溜め息をついて呆れつつも、三人の関係性を保ち続けてくれたもう一人の同期には申し訳ない限り、なのだが。
この満ち足りた日々が続き、いつかは……。
そんな私の疾しい思惑は、ある日を以って脆くも打ち砕かれてしまう。
「アイツ、実家に帰るつもりらしいな」
いつかは地元に戻りたいと聞いていたが、既に異動願を出していたとは想像もしてなく、絶句する。
しかも、それを人伝いに聞くことの哀しさを彼は気付いているのだろうか?
「何で相談してくれなかったの、隠してた?」
「そうじゃない、言おうと思ったけどタイミングがなくて……」
勤務先も同じで、互いのアパートにも行き来をし、数え切れぬ朝を共に迎えてるというのに見つからぬタイミングとは……一体?
あぁ、これは、ダメかもしれない。
◆ ◆ ◆
「いっそのこと、別れたらいいんじゃないか?」
休憩所で、もう一人の同期がぼそっと呟く。
痛いところをつかれて思わず俯く。
紙カップから立ち昇るコーヒーの湯気をじっと見つめては、自嘲する。
実は、ちょっと前から感じていたから。
自分ばかりが想っているようでツラい、と。
小さな
私にとって今回の彼の態度は決定的だった。
◆ ◆ ◆
彼はひとり、地元へ帰っていった。
たった一言、一緒に来てくれ、と言ってくれれば私は喜んでついて行ったのに。
それが出来ないくらいヘッポコだったのか、そこまで必要とされていなかったのかは定かではないが、彼との恋愛はこうして終わった。
ふんだっ!
お前が泣き虫なのは知っている。
向こうで独りさめざめと泣くがいい。
逃した魚は大きいと知れ、ヘッポコよ!
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