第6話/小学生

 夏休みに父の実家へ行くと決まって遊びに出掛ける空き地があって、今どき珍しく従兄弟達と鬼ごっこやボール遊びに明け暮れた。


 その日はサッカーパスの練習中、

「行くぞ、そりゃ……あ、やべっ!!」

 隣のお宅の庭に従兄の豪快シュートが炸裂した。


「お願い、先に行って!」

 ボールを取りに玄関に立つ。こういう時はいつも自分が矢面に立たされるから嫌なんだ。

 インターホンに指を掛ける寸前、

「これは君たちのかな?」

 背後から低い声がして思わずギャッと飛び上がる。

 そこには、額に青筋を立てたおばあちゃんが仁王立ちしていた。


 ◆ ◆ ◆


「はい、お疲れさん、麦茶どうぞ」

 ボールの下敷きになった花達を植え直してお詫びの代わりとし、茶を貰う。


 家に上がれば、欧風な家具が上品に揃う部屋。

 自分の家かと錯覚するほどに写真が並ぶ。

 ふと、おさげ髪の女子ふたりが仲睦まじくはにかむ古びた一枚に目が留まる。

「これはわたしの大切なお友達」

 戦争で亡くなったそうだ。


 枝にとまる蝉に夢中の従兄弟たちに隠れてこっそり聞いてみた。

「どれくらい大切だった?」

 もしかしたら、と思ったから。


 答えは想像通りでちょっとホッとした。

「まだまだ難しい時代だけど恥ずかしいことじゃないから、そういう想いは大切にしなさい」


 ◆ ◆ ◆


 新生活の準備も終えたとある夏、父と共に里帰りをした。

 成長してみると長旅で身体が痛い。


 アイスを買いに、例の空き地の前を通りコンビニへと向かう。

 あの家は無くなっていた。


 年頃になった今だからこそ、もう一度あのおばあちゃんと話がしたかった。

 二度と会うことは出来ないけれどあの時の言葉を胸に生きていく。

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