第3話/美容師

【この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。】


 ◇ ◇ ◇


 俺はモテる。

 造作もいいし、お洒落だし、話上手だし、いい感じにチャラい。

 近寄るコは似たようなご陽気上位タイプで正直事欠かない。わざわざ範囲を広げる必要もない。


 あの時は、たまたまお決まりと違うコが居たので面白半分に声をかけた。

 只それだけ。


 ◆ ◆ ◆


 男と飲み会だというのに化粧も服も髪型も地味。

 会話も受け身で数あわせ感が逆に可哀想。

 気付けば2軍の側でひっそりと相槌を打つ。


 ―――でも。


 男のプライドを掻き回さぬ巧みな返し。

 絶妙な物理的距離感。

 綺麗な箸の持ち方、笑い方。


 全く興味もなかった仕草がここにきて何故と疑うほど目に訴えてくる。


 こんな胸の高鳴りは初恋振りか?

 勢いづいた懐かしい感情が今の俺らしく醜く歪んでいく。


 わざとらしく相席を仕組んだ二度目の食事会。


 彼氏の存在と解かぬ警戒が後を押すように姑息な道へと進ませる。

 手持ちの微粉で細工を施した酔い醒ましのお冷やに彼女の艶やかな唇がそっと触れる。


 ◆ ◆ ◆


 チャラ男はやることが違うなぁ。

 モテ男が地味女にまで領域広げんなよ。

 上位同士で乳繰り合ってりゃ充分だろ。


 何をしたい訳じゃない。

 二人きりになりたいだけなのに。


 俺みたいなヤツが、奥ゆかしげで優しい笑顔の真面目なコとどうにか、と考える事はそんなに悪い事なのか?


 ◆ ◆ ◆


 俺の企みは彼氏の登場により失敗に終わる。

 それから数週間後。

 とある大型店舗で彼女と再会するも、当然視線も合わせず、ガン無視、そして存在の消去。

 後をつけての謝罪も一切受け付けない。

 僅かでも近付くことは叶わない。


 俺はそういう事をした、自業自得。


 極僅かにグサッと刺さる冷たい視線に望みを託し彼女への贖罪を抱えて生きていくしかない。


 そんな関係さえも儚い繋がりと曲解する程に、俺は今、彼女に恋をしている。

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