51話 神は無意識を思し召して

 赤縞は止まることなく引っ切り無しに走っていた。鉢合わせる敵もいなければ障害物もない。ましてや数時間走るだけで息が切れるほど今の赤縞は柔ではなかった。しかし行けども行けども目的の場所に繋がらず、段々と赤縞の機嫌は悪くなっていった。何より同じ様な部屋ばかりで眺めるものが一つもない。以前、王家の城を散策したときの方がまだ良かったと舌打ちをした。

 「何か面白みのあるものはねえのかよ…」

 と赤縞がぼやいた所を見計らったように鳥の鳴き声が耳に入った。赤縞はその声を聞くや否や足を止め、耳を澄ましてその場所に体を向けた。

 「あそこか…」

 今迄に通った大きな通路よりずっと小さな部屋の入り口を見付けると、赤縞は何の躊躇いもなしに入っていった。見飽きた場所を攻めるより、隠れた部屋を荒らした方が何か出て来るかもしれないと思っていたが、その部屋の中身は目を疑うものだった。十畳程の小さな部屋に夕日が輝いた海岸線があったのだ。天井には白い鳥が飛んでいる姿があり、床には何もなかった。

 「何だこりゃ?絵…なのか?」

 部屋の壁に触れてみると、壁紙の様な質感だったがほんのりと熱を持っていて、手の平を離すと砂粒が付いていた。赤縞は手を払いながらその壁紙の中に妙なものを見付けた。とても海岸線には見られない金属の輪が一つ、壁に描かれていた。不審に思った赤縞はその輪に手を触れようとした矢先、

 「何かお探しですか?」

 背後から声を耳にすると腕を下げた。

 「物寂しい部屋だが、ここで一息入れりゃゆっくり出来そうだ」

 赤縞は背中を向けたままそういった。

 「ここは私だけの部屋、芸術家が唯一生を充足できる場所。お気に召して頂けましたか?」

 「生憎と俺ァ半端者だが、不思議とここの空気は心地良い。…あんたさっき何か探してるかって聞いたな。ああ、人を探してんだ。ゾラメスって野郎なんだが、あんた知らねえか?」

 赤縞は確信したように振り向いて、そこに立っていた人物の顔を眺めた。前髪は真ん中で二つに分かれ、長い髪の毛を後ろで縛った酷く中性的な顔の男だった。素顔からして三十代といったところだが、声はしわがれて四十代の中年男のようだった。女物の白いカーディガンが顔立ちにとても似合っていた。

 「私が貴方の尋ね人だったとは…。ご存知の通り、私がゾラメスです」

 そういうと赤縞は口許から犬歯を見せて笑った。

 「道草もたまには食ってみるもんだな。思わぬ所ででかい獲物を見付けられた」

 「野生の獣は自分より図体の大きい獲物を狙うことがありますが、その獲物が想像していたものより大きかったらどうするのです?」

 「腹を空かせりゃ形振り構っていられねえさ。それに…新しい体を試すにゃ良い機会だ。初陣で大将の首を取ればジジィも喜ぶだろ」

 「…さてそれが出来ますか?貴方のお爺様に亡骸は渡せませんよ」

 その言葉に赤縞が鼻で笑おうとした矢先だった。足元に妙な違和感を覚えると、それが現実となって現れた。床はまるで画用紙が波打ったように揺れながら薄く伸びていった。いつの間にか壁紙に描かれていた海岸線は消え、代わりに燃え盛るオレンジ色の炎が辺りに広がっていった。そして赤縞は自分の目を疑った。先ほどまで十畳ほどの部屋にいた筈なのに、今この目の先に広がっているのはまるで空襲を受けた国のようだったのだ。見渡せど広がるのは焼けた野原と半壊した家の残骸。赤縞は八大地獄という絵巻を思い出した。

 「私の心臓に足を踏み入れて正気で戻れた人はいません。ただの一人も…貴方はどうなるのでしょう?絶望に打ちひしがれその顔を歪ませるのか、或いは心の底から自らを否定しまうのか。いずれにせよ私の興味は尽きない」

 その地獄を悠々と歩きながらゾラメスはいった。

 「…悪いが、てめえの思うようにはいかねえよ。こっちは決死の覚悟って奴を常に頭の中に叩き込んであんだからな。見せてやんよ…敵も味方も、神や仏すらぶっ殺しやがった鬼って奴を」

 赤縞は急に奥歯をぎりりと噛み締めた。顔を歪めながら必死に何かの痛みに耐えている。ふとゾラメスは赤縞の額に突起物のようなものが膨らんでいくのが見えた。その突起物は皮膚を突き破り、血を噴出しながら角となって両目に沿って現れた。更に指先に鋭い爪が宿り、口許からは虎のような牙が伸びた。唸り声と共に赤縞の片目は山吹色に光りだした。髪の毛は灰色に染まり、体中の筋肉はより一層引き締まっていった。

 「この程度の火は獄卒にゃ生温い。地獄の炎はあらゆる罪人の体を焼け焦がす。もっと気合入れて貰わねえとよ、締まるもんも締まらねえんだよ。覚悟しな、ゾラメス。その汚ねえケツ蹴り上げて、地獄に連れてってやらァ」

 赤縞は斧を片手で持ち上げその切っ先を渋い顔をするゾラメスに向けた。その光景は宛ら地獄にて亡者を阿責する鬼のようだった。



 「…近い」

 紫薇は通路を走りながら鼻をひく付かせた。以前より遥かに身軽になった体は紫薇の体を悠々と跳び上がらせ、長い道を機敏な動きで縮めていった。足が届かない場所は白い鎖を天井に打ち付け、ロープのようにして到達するなど新しい芸もあった。そんな力を持ちながら、紫薇は鼻を刺激するにおいの元に対して一握の不安を抱えていた。紫薇はその不安に飲み込まれないように頭の中でメディストアとの修行を思い返していた。


 「…また無残に死んだわね」

 四肢のない体を横たわらせる紫薇を見てメディストアは頭を掻いた。

 「いつになったら一振りが百になる。もう二年だぞ…」

 細切れにされた体をもとに戻しながら紫薇はついぼやいてしまった。

 「千年の努力をたった二年で越されちゃ苦労しないわよ。私の超越力はあんたにゃ出来ないって言ったでしょ。話のわかんない子ね…」

 やれやれといって懐から煙草を取り出すと火を点けた。

 「ならどうすればマクシミオ級の実力を身に着けられる?奴を…ヴァルベットを踏みにじるのが俺の目的なんだぞ。何の超越力もない俺がどうやって?」

 「あのね、あんたに言わなきゃいけないことが二、三あるわ。まずあんたの肉体でマクシミオ級になるのはまあ無理な話ね。特にあの灰狼族なら尚更よ」

 落ち着けといわんばかりに煙を紫薇に吹きかけた。紫薇は苦虫を噛んだような顔をして煙を払い、悔しそうな顔をしたが、次にメディストアの口から出た言葉は思いもよらないものだった。

 「…そう、無理な話の筈なんだけど…あんたのその体の中に眠っている力が、不可能を可能にさせるかもしれないのよ。あんた、自分には何の超越力もないって言ったわね?じゃあその便利な体は何なのよ?魔性の血を引き継いでいないのに自在に半獣人、獣人の姿になれるなんて千年を生きた私でも聞いたことないっつの」

 紫薇は権兵衛の姿を思い返し、顔を俯かせた。

 「しかも二つの体はそれぞれ奏力と魔力に使い分けられてるし、半獣人にならなきゃ奏力の痕跡すら残らない。これを超越力と呼ばずして何だって言うの?話は聞いてるけど、未だに信じらんないわ」

 しかしその力に、権兵衛に授けられた力には一つの枷が付いていることを思うと紫薇は素直に肯定できずにいた。

 「…あんたは権兵衛を何て見る?もとは獣人か何かだと?」

 「そうね…でもそれだと奏力は持っていないのよ。獣人や亜人は言わば魔力に体を乗っ取られたのと同じもんなの。まあ、それだけ魔力がねちっこいって事なんだけど…。考えられるとすれば一人の人間が魔力に認められた…血族になったとでも言えば良いのかしら?そんな所かしらねえ…」

 メディストアは自分でいったことに自信がもてないのか仕切りに煙草を吸っては吐いてを繰り返した。

 「女王の眷属、か…」

 「そういやこんな話を聞いたことがあったわね。女王に背いてはならない、もしもこの禁が破られれば白い災いがお前を焦がしにやって来る。災いは我らにとって法そのものなのだ。昔、彩魚族の女王が言ってたのよ。懐かしいわね…」

 メディストアが回想に耽っている内に紫薇はどうして権兵衛が自分にこの力を託したのか考えた。権兵衛はこの世界の均衡を保つための存在だったのかもしれない。いつからかわからないが、きっと女王と共に、そして女王の亡き後もたった一人で世界を脅かす者たちと戦ったのだろう。あのとき、傷だらけの姿だったのはその脅威から逃れる為か、追いやられた為だったのだろう。そしてその力は自分に託された。外敵から身を守る為の手段として。

 「…メディストア、修行を続けるぞ」

 「急にやる気になってどうしたのよ?」

 「いや、こんなところで足を引っ張っていたらまた指を噛まれそうなんでね。あんたの言った通り、この力を我が物にしてみせるさ」

 そういって紫薇は転がっていた剣を手に取り、メディストアに向かっていった。


 「俺に力を貸してくれ、権兵衛…」

 紫薇は一瞬、目を瞑って亡き権兵衛の姿を想った。

 「俺は今日、奴の首を取る」

 最後の通路を抜けるとにおいのもとがより際立った。そこにはかつて辛酸を舐めさせられた相手がいた。緑色のポンチョを靡かせ、天井をぽつりと眺めていたが紫薇の気配を感じると視線を向けてにたりと笑った。

 「ヴァルベット…」

 その素顔を見た瞬間、紫薇は腹の底から煮え滾るものが込み上げた。ずっと耐えてきた感情が今正に解放される。せき止められた水が一気に流されるように紫薇は声を上げて再びその男の名前を叫び、そしてその感情を刃に乗せて振りかざした。

 「おやおや…いずぞやにあしらってやった坊やか」

 その切っ先を腕で受け止めながら丸眼鏡を上げた。腕は部分的に獣人と化して鋼のような毛先に身を守られていた。

 「見ない内に立派になって…。そうか、ゾラメスを狙って来たのはお前たちか。ということは魔性の姫君もどこかにいる。これは楽しみだ」

 ヴァルベットの興味はまだクレシェントに向いていた。そのことに更に怒りを募らせた紫薇は半獣人から獣人に成り変わり、筋肉を膨らませてヴァルベットの体を押し出した。そして口を開け、距離が離れた所を狙って喉から赤黒い光を吐き出した。

 「ほう、前回よりは楽しめそうだ」

 紫薇が吐き出した光に当てられる前にヴァルベットの体は離れた場所に移動していた。その場所には揺りかごのようなベッドがあり、傍に数本の瓶が転がって中にはミルク色の液体が入っていた。

 「だが俺の興味は以前、魔姫の心臓を向いたまま…。くくっ、まるで恋焦がれた文学でも抱いているようじゃないか」

 瓶の一つを手に取って封を切ると美味しそうに中の液体を口づけた。

 「お前にはわかるまい。魔性の血を持った者が、どれほど彼女に崇高な昂ぶりを感じるか…。あの血の匂い、あの血の匂いを一度嗅いだだけで麻薬のような恍惚と、酒に溺れたような快楽が私を奪うのだ。あの匂いに比べれば、こんなものは腐った小便だ」

 瓶を握り潰しながらヴァルベットは紫薇に視線を向けた。

 「わかるか?怨恨だの復讐だのと現を抜かして俺に歯向かわれても困るのだ。お前の感情の矛先は、あの女を抱いた妄想に耽ける自慰にでも向けろ。いや、お前も雄ならば雄らしく、あの雌を押し倒してみたらどうだ?」

 「その手で飽き足らず、今度はその口でも汚そうとする…。もうお前に躾は必要ない。鞭の代わりにお前の頭を噛み砕いてやる。命乞いなど受けるものか、お前は…俺の手で必ず殺してやる」

 そういって紫薇は頭から被っていたマントを脱ぎ捨てた。

 「お前の心臓を魔姫の手土産にしよう。小さいから贈り物には十分だ」

 丸眼鏡をポンチョに引っかけると、紫薇と同じように脇に放り投げ、徐々にその体を獣に近付けていった。体毛が全身に回ると低い唸り声を上げながら腰を屈め、両腕をぶらりと下げて身を固めた。

 狼と猫がお互いの縄張りを主張するかのように睨み合い、唸り声を喉から出しながら全身の筋肉を緊張させる。二人の目にはお互いを食い潰す描写しか描かれていなかった。野蛮で無骨だが二人の意見を貫くには酷くシンプルだった。紫薇は意識的に、ヴァルベットは無意識にその命題を実行していた。



 クレシェントが再び走り出したのはあれから少し経ってからだった。体中に悲鳴を浴びせた傷が再生するまで壁に寄りかかってじっと待っていた。その間、ネロカロドゥスが起き上がって来るのではないかと内心びくびくしていたが、相手の意識は完全に沈黙していた。亜人が死ぬときはもとの人間の体に戻るとデラから聞いていた。ネロカロドゥスの体はまだ変化したままだった。

 クレシェントは倒れているネロカロドゥスの姿を見ながら、幾ら自分が先にダメージを与えていたとはいえ、一撃で相手を倒した紫薇の成長を思い返すと嬉しい感情と一緒に少し寂しさを感じた。

 体を動かせるようになるとクレシェントは一目散にその部屋から出ていった。と同時にあちこちで強い力のぶつかりを感じた。赤縞も紫薇もそれぞれの相手と戦っているのだろう。クレシェントは足に力を入れて風にも負けぬ速さで通路を駆け抜けていった。

 次の部屋に辿り着くまでそう時間はかからなかった。一本道だった通路の途中で木製のドアを見付けると、クレシェントの足はぴたりと止まった。まるでそこが終着点とでもいわんばかりに辺りには何もない。クレシェントは扉の先に注意を払いながらドアノブを握った。しかし幾らドアノブを回しても扉はうんともすんともいわなかった。

 「…壊れてるのかしら?」

 諦めて来た道を戻ろうかと思っていた矢先、不意にドアノブがぽろりと取れてしまったのだ。するとドアはほんの少しだけ開いてクレシェントをこまねいた。クレシェントは壊れてしまったドアノブを見詰めると、そっともとの場所に刺してドアを開けた。すると目の前に広がったのは取り分け清潔感が漂う部屋だった。いや、その清らかさは病的といっても良い。床は薄い緑色のタイルで出来ていて、真っ白な壁は一点の染みもなかった。まるで紫薇の世界にある病院のようだとクレシェントは思いながら先に進むと、奇妙な格好をした人物が目に映った。

 その人物は厚めのコートを羽織り、深い青色のセーターを着て極端に短い椅子に座りながらカンバスと睨めっ子していたのだ。黒いアルスターコートは随分と長い時間を共にしてきたのかよれよれだった。クレシェントが近付いてみると、その人物は鬱陶しそうに首元に巻かれた赤いマフラーを背中に回し、毛皮の帽子を少し上げて頭をぽりぽりと掻いていた。強めのパーマをかけている辺り、女性なのだろうとクレシェントは思った。

 「…はっ!」

 急にその女は手に持っていたパレットの絵の具を筆に着け、これまた妙なことだがカンバスに白い塗料だけを使って絵を描き始めた。ぐしゃぐしゃと出任せに腕を振るっているようにしか見えないが、やがてそれが立体的な肖像画だと知るとクレシェントは感心しながら見入ってしまった。よく見ればそのカンバスは何度も上塗りされ、人物像が浮き出ているように見えた。

 「出来たわ…我ながら最高傑作ね…」

 筆を置いて足元に転がっていたボトルの水を手で手繰り寄せようとしたが、ボトルを指で蹴ってしまい、ころころとクレシェントの傍に転がった。クレシェントはそのボトルを手に取るとその女性に手渡した。

 「ありがと…ってあんた誰よ!?」

 ボトルに手を伸ばしたところでやっと気付いたのか心底驚いた顔をした。

 「あの…私は…」

 「寄るな!病気が移る!」

 しっしっと手で払うとクレシェントは仕方なしに距離を取った。

 「ったく、風邪でも引いたらどうすンのよ…」

 傍にあった濡れちり紙で手を丹念に拭いて席から立ち上がった。するとクレシェントはその女の素顔を見てぎょっとした。その顔はすっぴんで眉は髪の毛ほどの細さしかなく、鼻の上はそばかすが目立ってしまっていた。メイク用の顔の作りにしているせいで顔の悪い部分が丸見えだった。目はくりくりして可愛らしいものだったが、気にしないのだろうかとクレシェントはちょっと疑ってしまった。

 「…で、誰よあんた?人の部屋に勝手に入って来て挨拶もないの?」

 「あの…実はゾラメス…」

 そうクレシェントが説明をしようとした辺りでその女は話を勝手に変えた。

 「あんた何よその汚い格好、血だらけにして…。そういうのがロメルニア最近の流行なの?センスないわねえ…」

 「いえ、これは本物の血で…」

 「やばっ!あれロメルニアの展示会に出す奴だから今の内に修正しとかないと。…あんたいつまでそこに突っ立ってんのよ、用がないならどっか行って」

 クレシェントは同じ位の年齢なのに自分勝手な人だなあと苦笑いした。

 「…わかった、サインね。こんなところまで追っかけて貰って悪いけど、あたしサインとかそういうの嫌いなの。悪いけどまた今度にしてくださる?」

 そういってその女性はクレシェントに背中を向けて背の短い椅子に座り直した。

 「芸術家ってこういう人ばっかりだって本当だったのね…」

 だがその一言を切欠に事態は豹変した。本当に小さな声でぼそっとクレシェントが呟いた矢先、その女は筆をへし折ってコートの裾をちらりと広げた。するとその裾の中から人間の顔が蠢きながら這い出て、ろくろ首のように首を伸ばしてクレシェントに襲いかかったのだ。その首に噛み付かれそうになるも、クレシェントは後方に跳び上がり、何とかその噛みつきをやり過ごした。

 「あたしのいっちゃん嫌いな言葉を口にして、生きてここから出られると思わないことね…壊乱の魔姫…!」

 素顔に怒りの化粧を塗りたくって席から立ち上がった。

 「貴女、私を知って…」

 「今思い出したのよ。昔…あたしの家を目茶目茶にしたのが壊乱の魔姫だって話を聞いたわ。カルディエ地方を血に染めた魔性の女、壊乱の魔姫…。あのとき、あんたが暴れた場所にあたしのアトリエがあったの。出張先から戻って来てみたら、ものの見事に家は崩れていたわ。ほんと、酷いことしれくれたわよね…」

 その言葉にクレシェントは何もいえなかった。と同時にやはり女王の力は受け入れられないと改めて思ってしまった。

 「その恨みでも晴らさせて貰おうかしら。病気を移されそうにもなったしね」

 コートの両端を持ってスカートで挨拶するように内側を見せた。コートの内側は靄がかかって奥がどこまで深いのかがわからない。ふとクレシェントはその靄の中に何かが蠢いたのを見た。沢山の人面がにたにたと笑いながら靄の中から現れ、一斉にコートの中から飛び出していった。

 クレシェントは剣を具現化させると、ゆっくり後退しながら剣を振るい、それぞれにやって来た人面を切り裂いていった。月光を浴びていたときと違って体の調子は万全とはいえなかったが、それでも視界に映っている人面の動きはクレシェントにとって取るに足らないものだった。

 『ディオレ・ジェネフィリア・ザード(我は惨劇を呈して)』

 あらかた人面を屠った後に手の平を前に向け、残っていた人面もろとも赤い光を撃ち出して貫いていった。だがその光が相手にぶつかる直前、光は透明な壁に阻まれて掻き消されていった。

 「アイロニーの盾…」

 その継続時間や使用回数が限られていても、その皮肉の盾を具現化することの出来る人物は極めて優れた響詩者であることに違いない。確固たる意思と際限のないイメージが行なえる者だけにその盾は現れる。その事実はクレシェントの戦意を確実に削いでいった。

 「我々の目的は瞬間的なアドレナリンの解放ではなく、むしろ驚嘆と静寂の精神状態を生涯かけて構築するものだ。ただ悪戯に概念を具現化させるだけでは美とは呼べない。自らの意思を概念に乗せ、より一層その内なる美を庭園から引っこ抜かねば響詩者とは見做されないのだ。ゼルア級といえどもその事実を理解している者は少ない」

 「その言葉、まさか…エネミスクリア・ダ・オーディネポワゾ・モアッシェ…」

 その言葉をクレシェントは耳にしたことがあった。美芸師として、また画家として名高い人物の名言だった。精神の発掘者などと呼ばれ、若々しい鮮烈な概念の具現化によって世界中から寵愛される人物の一人だった。

 「かのゼルア級が第二械節をどこまで凌駕するか…あたしに見せてくれる?」

 『グール・ド・ジルヴェネジア(この手は誰しも怒らせる)』

 コートの両端から具現化された腕が天井まで伸びると、その針のように鋭い指をある一定のリズムに乗っ取って動かし始めた。指の大きさは人間の大きさほどあって、床を破壊しながらクレシェントに向かった。

 クレシェントはその指の些細な動きも見逃さないように仕切りに目を凝らし、感覚的に体を移動させていった。指の先が股の下に突き刺さり、スカートを破いた。次いで左斜め上、頬を掠める。脳天に気配を察知して避けると、今度は空いていた左上腕を貫かれ、引き抜かれた。その痛みに我慢しながら両足を曲げて体を折り、心臓を狙っていた指を避けた。下手に動くよりも体を捻った方が効率的だとわかると、クレシェントは次々と指先の脅威から逃れていった。

 一定のリズムの中、指の動きの間に虚を見付けると、クレシェントはその一瞬を潜り抜けてエネミスクリアに近付いていった。アイロニーの盾があるのはわかっている。ならばその盾を食い破り、剣を突き立てようと概念を呼び起こした。

 『リオール・ジェネフィリア・エード(手形は哀傷を置いて)』

 しかしその赤い腕がエネミスクリアに向かう前にクレシェントの背後で床を叩いていた指は急に手を閉じ、その指を真下に押し付けた。クレシェントは体を押し潰されはしたが、その指には触れていなかった。エネミスクリアに飛んでいかなかった概念が幸を成してクレシェントの体を守ったのだ。赤い腕は下から指を持ち上げて苦しんでいるクレシェントを解き放とうと苦心しているが、床との差は一向に変わらない。

 「(もっと…限界まで力を出し切らないと…確実に殺される…)」

 心の底、いや体中の細胞が鳴らす警告を感じると、クレシェントは全身全霊の力を引き出した。

 『クリュード・ジェネフィリア・キーズ(狩人は矜持を忘れて)』

 赤い腕の力に赤い槍が突飛する力を加えると、やっと指を押し出し始めた。槍はクレシェントの周りから一点に集約するように円錐状に伸ばされ、さながら彼女を守る鳥かごのようだった。その間にクレシェントは手の平をエネミスクリアに突き付け、新たに赤い腕を具現化させるとエネミスクリアに向かわせた。

 当然のようにエネミスクリアの周りにはアイロニーの盾があった。赤い腕はその壁に阻まれながらも必死に取り付いてその盾を引き剥がそうとしている。クレシェントは剣を携えながら槍の鳥かごから抜け出し、一気に距離を詰めて剣の切っ先を盾に打ち付けた。目に映らない透明な壁が刃を拒んでいるが、剣に込められた力は徐々にその壁を解かしていった。そして終に皮肉の盾を打ち破ると、クレシェントはその勢いに乗ったまま体を走らせた。剣の峰は変わらずエネミスクリアの心臓を狙っている。

 しかしエネミスクリアは目前にクレシェントが迫っても特に慌てることなく、悠長にコートの両端を靡かせた。すると裾は餅のように伸びていき、三倍ほど広がると押し迫っているクレシェントを包み込み、そのままコートの中に仕舞ってしまった。

 「捕まえた」

 小刻みに体を揺らしながらエネミスクリアが笑い声を上げる。その一方でコートの中に吸い込まれてしまったクレシェントは異様な光景に目を見開いていた。そこはまるで気泡の中から明かりの少ない水槽を眺めているようだったのだ。周りは弱い光に当てられてゆらゆらと水の影が動いている。魚のいないアクアリウム、その代わりに引き伸ばされた灰色の人影が一つクレシェントの視界を横切った。その数は次第に増し、悠々気侭に辺りを泳いでいる。自然とクレシェントは持っていた剣を構え、その人影に警戒してしまう。と、そのときだった。それまで魚と同じように水中を揺らめいていた人影はクレシェントの真上に集まり始め、気泡の中に影を作っていった。人影が集まるほど影は濃くなり、やがてクレシェントの体全体を覆っていった。

 「出ていらっしゃい」

 異物を吐き出させるようにコートの裾を開くと、その中からクレシェントの体が頭から飛び出していった。その際、体中に黒いヘドロのような粘液がクレシェントの手足から引き千切れていった。クレシェントは解放され、床にのた打ち回ると胃の中からその黒い粘液を吐き出した。

 「良くあの場所から生きて帰って来れたわね。普通ならあたしの庭園の中で精神が泥沼に溺れさせるっていうのに…」

 「あれが…庭園ですって…?まさか貴女は…」

 「そうよ、あたしは響詩者から嘆歌者に移り変わったの。独創性を押し込めた概念を作り出す為にね。お陰で美を極めていた庭園は光の薄い泥沼となってしまったけれど、今迄にない鮮烈な感性を手に入れた」

 「でも嘆歌者は時にその身を変貌させてしまう…。余りに集約し過ぎた精神は肉体を意識の内に追いやってしまうから…」

 「ええ、篭りっきりな芸術家に見られる傾向ね。でもあたしは手懐けたのよ、その無意識を。そして人の姿を保ったまま嘆歌者になり、また響詩者として解放的な概念の具現化も出来るようになった。ゾラメスも驚いていたわ。貴女は確かに精神の発掘者だってね」

 そうしてエネミスクリアは開放性と閉鎖性の概念をそれぞれ具現化してみせた。コートの裾は生物のように蠕動して広がり、生理的な色を模したサーモンピンク色の膜となってそこから両腕のない人の上半身が次々と生えていった。半透明な体を持ったその上半身は口をぱくぱくさせ、宛ら歌でも歌っているかのようだった。更に開いた口の先に七色の光が集まり、輪となって浮かび上がった。

 「こんなの…次元が違い過ぎる…」

 クレシェントはその光景をまじまじと見せ付けられ、半泣きになりながら口許をがたがたと震わせた。ゼルア級を目にしたときとはまた違った恐怖心がクレシェントを襲った。全身から発せられるオーラが違うとでもいえば良いのだろうか。しかしいつまでも恐怖している訳にはいかなかった。エネミスクリアの虹の輪が完全に纏まるとクレシェントは膝の笑った体に鞭を打った。

 『グール・ド・ベーヴェルツォ(この手は何をも改める)』

 両腕のない上半身の一人の口から七色の輪が吐き出された。クレシェントは体を震わせながらも何とかアイロニーの盾を形成し、その輪を受け止めてみせた。だがその瞬間、七色の輪が盾の表面を浸透するように腐食させるを見ると、クレシェントは咄嗟にアイロニーの盾を消滅させてその場から飛びのいた。

 七色の輪が空を切ってクレシェントの背後にあった壁にぶつかる直前、輪の中心が光ったと同時に絵の具が飛び散ったように輪の色が壁に飛散し、壁を融かしながら破砕していった。

 「概念の解放と侵食が同時に起こって全てを飲み込んでる…」

 嗚咽を漏らすようにクレシェントは背後で起きた現象を口ずさんだ。

 七色の輪は最初の一発を機に次々と発射されていったが、クレシェントは死に物狂いで足を動かしてエネミスクリアから逃げていった。そして背中を向けながら敏感な肌を頼りに虹の輪を避け、一先ずは距離を取った。

 相手を見渡せるほどの距離を離すと、クレシェントはすぐさま体を反転させ、手の先をエネミスクリアに向けて赤い光を撃った。それだけでなく左右から赤い腕をしゃにむに並べ、一斉に向かわせた。残りの奏力などお構いなしにクレシェントは我武者羅に概念を繰り出す。それだけクレシェントは追い詰められてしまっていた。

 二人の間で七色の輪と赤い腕が鬩ぎ合う。クレシェントの腕は嘆歌者の概念に飲み込まれまいと全力で抗った。その内の何本かは七色の輪をすり抜け、輪を繰り出した本体に向かって両腕のない上半身の首を握り締めていった。クレシェントの有りっ丈の意思と共にサーモンピンクの首が捻り切られる。ぬめぬめとした血液が飛び散りながら半透明の生首が床に転がった。

 その隙にクレシェントは赤い腕の下を一気に走り抜けていった。そこでエネミスクリアの右腕が払われた。エネミスクリアの腕はゴムのように伸びていて、皮膚は始めに彼女が具現化してみせた三奏詩と同じ形になっていた。クレシェントは走りながら爪を真っ赤に染め上げ、床を蹴って跳び上がると爪の先から細い線を具現化させてそのレールに沿って走り出した。だがその後を追うようにエネミスクリアのコートの内にあった両腕のない上半身がその体を伸ばして這い出ていった。赤いレールの上をクレシェントは懸命に走ってみせるも、両腕のない上半身は次第に近付いていく。

 クレシェントが視線を後ろに向け、前に戻したときだった。前方からも両腕のない上半身が現れ、クレシェントを待ち構えていた。そして終には逃げ場を失ったクレシェントの体は前後から両腕のない上半身に挟まれ、そのままゼリー状の塊の中に閉じ込められてしまった。

 『エルゼキュオ・ジェネフィリア・オーズ(牢獄はさしも安息に似て)』

 ゼリー状の塊から赤い光が漏れ出すと、粘着性の肉を押し退けて真っ赤な檻が拡散されていった。クレシェントの檻はそのままエネミスクリアの腕を消滅させながら広がり、檻の中でクレシェントは宙を蹴ってエネミスクリアに特攻をかけた。再び檻が閉じられ、クレシェントの体を守るように立方体になりながらエネミスクリアの体に激突する。檻はこれでもかとその形を回転させてエネミスクリアに対抗していった。しかしエネミスクリアもただ静観していなかった。コートの裾を限界まで引き伸ばし、大口を開けるとクレシェントの檻をしゃぶっていった。クレシェントは声を張り上げながら意思と奏力を檻に込める。すると徐々に檻はエネミスクリアに近付けていった。その最中にクレシェントは全精神の集中を解いて概念を消滅させた。意図的に、お互いの拮抗する力が最大点を迎える前にその身を自由にさせ、宙を滑空して剣の刃先をエネミスクリアに滑らせた。エネミスクリアの右胸から血が噴き出す。その血飛沫を背にクレシェントは床に降り立った。

 「私も伊達に修羅場を潜り抜けてきた訳じゃないのよ…」

 声を震わせながらも確かにその言葉をエネミスクリアに浴びせた。それは自分にいい聞かせるようでもあった。相手の呻き声を聞きながらクレシェントは槍を具現化して一列に配列させると、エネミスクリアの背中を突き刺した。やっとクレシェントの体は落ち着きを取り戻したのか、以前にも増して挙動に余裕が出ていた。

 「…確かに原罪人の卵としては申し分ない力ね」

 エネミスクリアは背中から胸を突き抜けた槍を愛おしそうに撫で回した。

 「動かないで…」

 脅しの意味を込めてクレシェントは刺さっていた槍を伸ばしてエネミスクリアの体を吊り上げた。か細い女の悲鳴が漏れてもクレシェントは容赦しなかった。

 「動けばこのまま心臓を貫くわよ…」

 「良いわ、出来るものなら奪ってご覧なさい」

 そういってエネミスクリアは手を自分の体の中に沈ませ、その痛みに悶えながらも笑みを浮かべた。細い紐を千切ったような音がクレシェントの顔を歪ませる。現れたのは抽象的な心臓の形をした肉の塊だった。

 「これがあたしの心臓…。さあ、遠慮は要らないわよ。思い切って刺しなさい」

 「そんなこと…出来る訳が…」

 そうしてクレシェントがしどろもどろになっていると、

 「そう?奪ってくれないの?じゃあ、あたし知らないから」

 エネミスクリアの心臓は独りでに彼女の顔にへばり付いた。すると肉の塊は膜となって顔全体を仮面のように覆っていった。赤いデスマスクが出来上がっていくにつれてエネミスクリアの体も変化していった。伸びたコートの内側に肉々しい人面が幾つも生まれ、その中からやたらと細いモデルのような足が出た。足はヒールの靴を履いていて体と同化していた。首もとのマフラーは二つに分かれて蛇のようにうねり、その先に紫色の球体が浮かび上がった。球体の表面はそれぞれ男女の生理的特徴を模していた。

 「まさか認識を捨てて…自分の体を無意識に捧げたの?」

 今のエネミスクリアは動物と同じだった。深い自己意識を捨て去り、さながら神と同等になった彼女はクレシェントの体の三倍に膨れ上がっていた。しかしその姿を神と呼ぶには余りにも醜いものだった。

 完全なる無意識の攻撃がクレシェントの体を切り裂いた。エネミスクリアの暴虐に変貌した爪が大振りにかざされるも、自己意識の強過ぎるクレシェントはその動作をまるで読めなかった。反射的に体が後退したお陰で胴体が別れることはなかったが、それでも深い傷痕がクレシェントの肉に残った。

 「これじゃ…まるでゼルア級じゃない…」

 風呂桶の水を流したように出血する体を懸命に支え、クレシェントは赤い腕を具現化してエネミスクリアの体を狙った。しかしクレシェントを更なる絶望が襲った。赤い腕がエネミスクリアの体に触れる直前、指先は目に見えない壁によって折れ曲がってしまったのだ。それだけで飽き足らず、マフラーの先にあった球体は弾いた赤い腕に近付くと、空気を吸い込むようにしてクレシェントの概念を飲み込んでいった。

 「マルテアリスが言っていたのは…このことだったんだわ…」

 大げさに足踏みをしながら近付いてくるエネミスクリアだったものを見て、クレシェントは改めて嘆歌者の危険性を思い知らされた。

 本体が動き出すよりも前に男型の球体が息を荒げながら鼻をひく付かせた。その姿は何かに発情しているかのようで、その匂いのもとを見付けると一目散に近付いていった。クレシェントはそのもとが自分だと知ると、恐怖に歪みながらアイロニーの盾を張ってそのアプローチを止めてみせたが、男型の球体の異常な求愛は収まることを知らず、ぬめりとした舌を出してクレシェントの体を舐めようと試みた。思わずその醜態に顔を背けると盾は更に力を増し、その舌を食い止めはしたがクレシェントの視界には透明の壁に舌を這わせる光景が映っていた。

 クレシェントは盾が消滅する瞬間を狙って手に持っていた剣を男の舌に突き刺した。その行為はさしもの無意識も驚いたのか、悲鳴を上げて痛がり、渋々と引き下がっていった。

 「このままじゃ…いずれ取り込まれる…」

 目の前の脅威を見てクレシェントは少しずつ戦意を削がれてしまっていた。なにくそと思っても、出血で揺れる頭がそれを阻害してしまう。この場から逃げることなど出来ないのだ。あるのは勝利か死か、究極の二択だった。戦うにしてもどうやって無意識の塊に反抗すれば良いのかわからなかった。

 そのとき、心臓が自分勝手に鼓動を始めた気がした。クレシェントは咄嗟に胸に手をやってその鼓動を押し止めた。女王の力は使えない。いや、使いたくないのだ。それでも現実は音を立ててやって来ている。もう選択を考える時間はなくなっていた。

 「私も…意識を捧げれば…」

 ふとある考えがクレシェントを過ぎった。しかしそれは女王の望んだ結末ではなかった。意識的に女王の力を受け入れるのではなく、無意識の間に女王の力を解き放つ。壊乱の魔姫と呼ばれる無意識の自分を具現化させるのだ。ある意味これはクレシェントにとって禁忌だった。急かすように心臓がちくりと痛み出す。だがクレシェントは本来の女王の力をとても受け入れられなかった。痛みを無視して小さなナイフを具現化させると、ゆっくりとこめかみに近付けた。

 「ご免なさい…」

 クレシェントはそう懺悔するように呟いてそのナイフをこめかみに突き刺した。

 『メギュレフォン・ジェネフィリア・ハーグ(死に水に唇を捧げて)』

 こめかみに刃が刺さると、クレシェントの意識はそこでぷつりと途切れた。噴出した血は中にばら撒かれ、目が明後日を向きながら力なしに床に倒れる。その様子はエネミスクリアの足を立ち止まらせた。先ほどまで元気に飛び回っていた獲物が急に倒れるものだから、狸寝入りでもしているのではないかとエネミスクリアは指でクレシェントの体を串刺しにして眺めてみたが、うんともすんとも言わない。そのうちに飽きてしまったのか、ボールでも投げるようにクレシェントの体を捨てた。

 エネミスクリアが何か他に興味を惹けるものがないかとクレシェントから目を離したときだった。今さっき興味を失せたものの辺りから物音がすると、エネミスクリアは顔を向ける。しかし特に変わった様子がないことを知ると再び顔を背け、クレシェントだったものが立ち上がる瞬間を見逃した。

 低い唸り声が辺りに響き渡る。その声に驚いたエネミスクリアは慌てて三度顔を戻し、その光景に唖然とした。満身創痍の体を引き摺りながら、血よりも濃い双眸がじっと自分を見詰めていたのだ。エネミスクリアはそこで言いようのない恐怖心を覚えると共に、自分にとって絶対的な外敵を認識した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る