14話 甘みのない台詞

 頭の天辺から指先までが凍っている。恐怖に支配された体は確実にクレシェントを精神を追い詰めていた。じっとデラの二つの赤い目が視界から離れない。歯が揺れる。クレシェントは半泣きになり、呼吸は止まった。デラの指がクレシェントの首筋に触れた途端、全身に鋭い痺れが走った。圧倒的な力を前にクレシェントは全てを投げてしまっていた。何度も誰かの名前を頭の中で叫ぶ。その声は余りにも切実で、情けない音だった。

 「…嫌…」

 動かない体に反して声だけが発せられる。そんなクレシェントに対して無慈悲にも手に込められた力は強かった。手の平がぴったりとクレシェントの首元に食い込んでいる。

 「目を瞑れば少しは楽になれるさ」

 その言葉は魔性の囁きとなってクレシェントはその言葉に従った。両目を自らの意思で閉じることは自分の命を絶つことと類似していた。そこに一瞬の安らぎがあることを知ると、クレシェントは静かにその運命に身を委ねた。

 その時だった。不意にクレシェントの首からデラの手が離れていった。そしてクレシェントの体は誰かの強い力に抱かれて引っ張られていった。力の入れ具合は自分の知っている人間ではない。しかしその人物から発せられるにおいはとても良く知った、嗅ぎ慣れたにおいだった。

 そのにおいに釣られて目を開けると、そこには白い髪が靡いていた。その髪の毛の隙間に冷たい、それでいて寂しげな目が前を向いている。その人物から伸びた太い、筋肉質な腕がしっかりとクレシェントの体を抱いていた。

 「…紫薇?」

 紫薇の変わり果てた肉体にクレシェントは目を疑った。その言葉を耳にすると、紫薇はクレシェントの顔を一瞥した。

 「相変わらずの間抜け面で安心した。…拍子抜けした気分だ。助けに来ない方が良かったかもな」

 その悪態っぷりは間違いなくクレシェントの知っている人物だった。

 「クレシェント様、ご無事で…!」

 紫薇に続いてプランジェが駆け付けた。

 「プランジェ?貴女もどうして…」

 「当然です。私は貴女の従者なのですから…」

 プランジェは半泣きしながらクレシェントの手を握った。その姿を見るとクレシェントも嬉しそうに笑って目から涙をこぼした。

 「奴が、デラ・カルバンス…」

 自然と紫薇はクレシェントの体を握る力を強めていた。一行の目の前に立っている男からは不自然なまでの力が感じ取れた。不気味な赤い目に頬に埋め込まれた妖精のかけら。権兵衛は警戒を上げながらその力に気後れしている様だった。

 「先程の概念、あれは君のものだな…良い味をしていた。孤独に満ちてそれでいて情に欠ける。負の感情を媒介にした概念は力強い。それでもランドリアが敗北したのには驚いたがね。名前は、確か紫薇だったね」

 ストライプのシガレットパンツに赤いリボンブラウス、黒いベストの上には濡羽色のマントを羽織ってまるで吸血鬼のような格好だった。笑みを浮かべながらも紫薇は今迄とは桁の違う奏力を感じ取っていた。

 「本当にあれは人間なのか?魔姫よりもずっと濃い力を感じる…」

 「いや、奴は人間ではない。ナーガにてあらゆる魂を吸収すると言われている亜人、呑魂族エヴァルクの最後の生き残り。かの原罪人、ゼルア・ヴェルヴォルトウォーゼに匹敵すると言われ、その恐るべき力から『吸殲鬼』と畏怖された男だ」

 「第ゼルア級犯罪者か…」

 「駄目…やっぱり敵わない!二人とも逃げて!」

 クレシェントは安堵してやっとまともな反応を示した。

 「奴に聞いてみろ、逃げても良いかってな」

 「…冗談を言わないで!あの男に勝てる筈がない!デラ、この子達は何も関係がないの!手を出さないで!」

 「同じような言葉を彼に言ってみよう。逃げたいのなら逃げれば良い。私は許可してあげるよ。但し、逃げられればの話だがね」

 その時、初めてデラの視線から殺気が漲った。赤い目の光は辺りを包み込むかのような冷たい空気に苛まされ、紫薇とプランジェはまともにその気配を受けると、その場に立往生してしまった。

 「次元が…違い過ぎる…」

 プランジェの幹線から生暖かい汗が噴き出す。それは紫薇にとっても同じだった。二人揃って手を震わせながら、決してデラから目が離せなかった。それでも紫薇はその恐怖を振り払うように刃に白い光を点した。

 『ノヴェント・キグタリアス(その手は魔女のように)』

 左腕の筋肉に力を入れて柄を振ると、爪で引っ掻いたような痕の刃がデラに向かって滑走した。

 「これが、紫薇の概念…。なんて悲しい声をしているの…」

 その純白の光の中に深い絶望と悲哀をクレシェントは感じ取った。

 誰かを否定するような強い拒絶の力を持った紫薇の概念は、その無念さを象徴するかのように虚空を切り裂き、デラの正面に向かった。しかし概念がデラの鼻の先に到達すると、概念は急に音を止めてデラに吸い込まれるようにして消滅した。

 「…掻き消された?いや、取り込まれたのか…!」

 「恐ろしい概念だ。まるで人の業を煮詰めたようなだね」

 「紫薇、今の奏力では奴に通用しない!亜人の長と称えられた一族の名は伊達ではないぞ!」

 「お前と関わると碌な奴に会わないな…」

 頬に汗を垂らしながら苦笑いをする紫薇を見てクレシェントは紫薇の腕の中から抜け出し、二人の前に立った。

 「二人とも逃げなさい。今の力を見たでしょう?私たちが束になっても勝てる相手じゃないわ。私が時間を稼ぐからその間に逃げて!」

 「そのようなこと、出来る筈が…」

 「私のいう事を聞きなさい!」

 クレシェントは初めてプランジェに向かって怒鳴った。そして呆気に取られたプランジェに優しく語りかけるように横顔を見せた。

 「…ご免ね。でももう良いの。二人がここまで来てくれただけで嬉しかった。私の運命に、二人を巻き込みたくない。だから良いの」

 顔を前に戻すと手をぎゅっと握った。

 「…紫薇、プランジェをお願いね」

 だがクレシェントの決意を他所に、紫薇とプランジェの足元には円を描いた陣が描かれ、最後にクレシェントの足元にも同じ陣が描かれた。

 「時間のかけ過ぎだよ、クレシェント。お前の望み通り、二人とも一緒に葬ってやろう。なに、痛みはないさ。永遠に私の中で生き続ければ良い。奏力も魂も、その出来損ないの体もろとも取り込んでくれよう」

 三人の足元に魔力が伝わる。陣は光を点して中に入っている三人の命、奏力を吸い上げようとしたその最中、一筋の青い光が醜悪な右腕を掲げながらデラの首元に閃いた。その気配にデラは陣の力を取り止め、右腕でその力を弾いた。

 「あなた達ねえ、あれほどデラには手を出すなって言って置いたでしょう?」

 ジブラルは三人の前に背中を向けて降り立った。

 「す、済まん…」

 「悪かったな、遅いんだよ…」

 「…ジブラル?貴女がどうして…」

 クレシェントはその姿に驚いた顔をした。

 「別にあなたを助けに来た訳じゃないわよ。ただそこの紫薇に助けられちゃったのと、あの男に受けた借りを返しに来ただけ。これが終わったら次はあなたよ」

 その殺気をクレシェントに向けると彼女は思わず身構えた。

 「ま、でも今は私に従いなさい。どこぞの馬鹿にやられて心臓が痛いの。あの男を相手にするには骨が折れそうだわ。こんな事を口にするのは最初で最後。クレシェント、力を貸しなさい。二人であの澄まし顔をぶっと飛ばすわよ」

 そういうとクレシェントは苦笑いをしてジブラルの隣に立った。手には赤い剣を握り締めている。既に恐れは消えていた。

 「こんな日が来るなんて思いもしなかったわ、ジブラル」

 「私もよ。傍に居るだけで気が揉めそうだわ、クレシェント」

 二人は静かに口許を緩ませるとお互いの武器をデラに突き付けて声を揃えた。

 『 「嫐ってあげるわ」 』

 「小賢しい真似を…」

 その二人の姿を見て臆する所か更に体内の魔力は跳ね上がり、その赤い目はぎらぎらと光だした。

 二人は同時に駆け出した。その速度は瓜二つで赤と青の光を纏いながらデラに向かい、その軌跡は途中で八の字を何度も繰り返し、片方に集中させない様にした。一度目、二度目、そして三度目の交錯をすると二人は四度目には大きな弧を描いてデラの両脇にその右腕と剣を振りかざした。

 絹を引き裂いた音と共にデラのマントが細切れになった。だがそこにデラの肉体は消えていて、二人は同時に真上を見た。

 「流石にゼルア級が二人ともなれば油断は出来ないな」

 天井に足の裏をぴたりと張り付いて逆さになった状態で二人を見下した。その言葉と裏腹にデラの目は余裕に満ちていた。

 『バレオン・メターディア・シュベール(楽園の誰もが跪いて)』

 ジブラルは即座に左手を上げて肥大の青い光線を撃ち出した。部屋の隙間いっぱいを埋め尽くしながら天井をデラもろとも貫いていく。それに続いてクレシェントも右手を天井に掲げると目一杯の奏力を繰り出した。

 『ディオレ・ジェネフィリア・ザード(我は惨劇を呈して)』

 赤い閃光が今や柱となった青い光に混ざりながら天井を貫通する。空いた穴は天井の殆どを蝕んでいた。部屋全体を地響きが襲い、二色の光に覆われると紫薇とプランジェはその光景に息を飲んだ。その二人の実力を遥かに超越した力が目の前で起こっている。

 二つの光が徐々に収まり、ジブラルとクレシェントの顔に疲れが現れた。固目を閉じかけ、手をぶらりと下げる。だが二人の目に戦意は消えていなかった。それを具現化する様に空中には鋼色の翼を纏ったデラの姿が漂っていた。

 翼手類に似た特徴的な片翼。その翼はデラの姿とすっぽりと覆ってしまうほど巨大で、表面が鋼で出来ているかのように光沢を帯びていた。光が収まるとその翼は開かれ、中から人の姿から亜人へと変化したデラの姿が映し出された。

 耳はエラの様に成り変わり、その表面は鋭利で緑がかっていた。頭からは強大な魔力の結晶である細長い角が生え、口許からは長い犬歯が伸びていた。巨大な片翼は左肩から出て、右腕にはそれと同じ小さな翼が腕と一体になっていた。

 「あれが…デラ・カルバンスの本性…」

 口を震わせながらプランジェは呟いた。

 「なんて力だ…」

 紫薇はその滲み出ているデラの魔力に絶句した。その力は以前に見たクレシェントが変化した魔姫の状態よりも遥かに凶悪で、圧倒的な力に溢れていた。

 その恐怖はクレシェントとジブラルも同じものを抱いていて、二人は上を見上げながら汗を垂らし、じりじりと後ろに下がっていた。その二人の姿を見るとデラは鼻で笑ってみせると右腕を赤い光に包み、体を急降下させて腕を床に叩き付けた。

 その瞬間、紫薇の中にいた権兵衛は紫薇の意識を乗っ取り、傍にいたプランジェを抱かかえると尾っぽを展開させて盾を作った。その直後にデラの右腕が床に着弾すると床の表面を吹き飛ばし、床の深い部分を捲らせながら辺りに撒き散らした。

 吹っ飛んだ瓦礫や礫が周りの壁や残った床に突き刺さり、崩れ、一時にして廃墟のようにさせてしまった。紫薇の体は尾を展開させて身を守ったが、余りの衝撃に体をプランジェと一緒に吹き飛ばされ、崩れた床の上に二人一緒に寝転がらせいた。

 「うっ…。単奏歌でもないのにこの力か…化け物め…」

 倒れた体を起しながらプランジェは頭を手で抑えながらいった。

 辺りの衝撃が止むとデラは体を起こし辺りに目を向けた。すると残骸の中から赤い軌跡がデラに向かって飛び出した。体中から血を流し、肌の至る所を擦り剥き、抉れてしまってもクレシェントは剣を振り回した。クレシェントは右手だけで柄を握っている。今の衝撃でクレシェントの左腕は折れてしまっていた。普段と反対の方向に肘が曲がっている。

 クレシェントの剣戟にデラはその場から一歩も動かずにその鋭利になった右腕で彼女の刃を受けていた。甲高い音を鳴らしながら上や下とデラは振りかざされる剣を弾きながら、その時々にクレシェントの肩や腹部を裂いていった。裂かれた部分から血が噴き出し、デラの足元に飛び散った。

 クレシェントはその時を待っていたかのようにデラの腕を振り払いながら剣を捨て、手を前に突き出した。デラの周りに飛び散った筈の血液はその形を変化させ、細い小さな腕になるとデラの体を次々と纏わりついていった。足や腕、胸や首に巻き付いてがっちりと固定したが、デラの表情は変わらなかった。だがふとデラは頭上に気配を感じ取った。

 そこには宙に飛び立ったジブラルの姿があって、彼女もクレシェント同じ様に全身を血で汚していたがしっかりと狙いを定めたように左手をデラに向けていた。ジブラルの手の平に再び青い光が装填される。その瞬間、デラはクレシェントの捕縛を引き千切り、クレシェントの首根っこを掴むとジブラルの目の前に差し出した。

 「…ちっ!」咄嗟にジブラルは左手を引っ込める。

 直後、二人に、ジブラルはその視界の中に、クレシェントは背中に、それぞれ薄いピンク色で描かれた丸い陣が現れた。陣は大小それぞれ指の数だけあり、陣の中には星が描かれて中心に目をあしらった模様があった。

 花火のような光を出して二人の傍にあった陣が炸裂すると、二人はそれぞれ宙に投げ飛ばされた。ダメージは外傷よりも中に現れ、吐血しながら宙を舞った。強烈な痛覚が二人を襲う。紫薇やプランジェならば絶命していたであろう損傷に二人は歯を食い縛って我慢し、ジブラルは右腕に力を込め、クレシェントはその手に赤い剣を握り締めるとデラに向かって繰り出していった。

 デラは左手を掲げ、アイロニーの盾を形成した。アイロニーの盾とは自己を対象にして没頭し、それに距離を取って皮肉に見ることによって限定された自我を解放する言わば精神の生理現象で、自我を解放する際に他方の存在を拒絶する心の壁だった。簡素な力場といっても良いかもしれない。その盾を展開させ、二人の必死の猛攻を食い止めた。二人はその盾を突き壊そうと力を入れ続けている。

 「クレシェント、あなたの奏力を寄越しなさい!」

 ジブラルが怒鳴り声を上げると、クレシェントは戸惑いながらもジブラルの左手を握り締めた。途端、ジブラルは苦しそうに顔を俯かせる。波長も合わせていないクレシェントの奏力はジブラルにとって毒の様なものだった。その顔を見てクレシェントは握った手を解こうとするが、ジブラルは歯軋りをして手に力を入れクレシェントの奏力を奪った。

 ジブラルの右腕にクレシェントの赤い腕が憑依され、その姿を変化させた。

 『シュベレツジェネディア(切歯扼腕)』

 その腕の太さは従来の倍に及び、爪は黒い棘で腕の筋肉は高まり、鱗のような皮膚で何かの生物のような肌だった。その肌の隙間から氷柱の様な赤い柱が幾つも飛び出し、攻撃的なフォルムが乗り移ったかのようにジブラルの右腕に浮かんでいる。その右腕をジブラルは掛け声を上げながら振り払った。

 その指先はデラのアイロニーの盾をいとも簡単に引き裂いてしまった。巨大な右腕が振り払われたがそこにデラの姿はなかった。しかしその場にぽたぽたと血が降り注いだ。真上にはデラの姿が浮かび、胸元に引っ掻き傷を負いながらも既に次の一手の準備を済ませていた。

 『アグシェイド・バルア(天国からの逮捕状)』

 デラの頭上に天使の輪の様な光が現れていた。その光には強い奏力に溢れ、今の二人にはその脅威から逃げる事は出来なかった。具現化されていた巨大な右腕はとうの昔に戻り、二人の体は既に限界に来ていた。特に奏力の殆どを奪われたクレシェントは床に膝を着いてしまっていた。その輪の途中には棘が出ていて、五つの棘の先に黄色い光が現れるとデラは手を掲げた。その光が蠕動しながら一斉に動き出す。その時だった。ジブラルは残っていた体力を絞って体を起こすとクレシェントの体を突き飛ばした。

 「…ジブラル!」

 クレシェントの叫び声の後にジブラルの体が光に包まれる。そしてジブラルはその光を受け止めると、全身を痙攣させ、両目を閉じながらその場に倒れこんだ。膝を折り、真横に倒れるジブラルの姿を見てクレシェントは切実な悲鳴を上げた。同時に、クレシェントの中に深い、憎しみとそれに伴った力が生まれようとしていた。

 「ゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウウ…!」

 クレシェントの背中が嫌な音を立てて蠢いた。今度は右肩からも同じ音が、右腕から骨の折れた音がすると肉を蠕動させながら折れ曲がった腕を元に形に戻していった。口からは牙を伸ばし始め、徐々にその手を歪な指先に変えていった。

 「この感覚…まさか…!プランジェ、離れるぞ!」

 紫薇は以前にも感じた事のある魔力を肌から感じ取ると、プランジェの手を引っ張った。しかしプランジェは食い入ったようにクレシェントの変わり果てていく姿を見ている。その目は恐怖と絶望に満ちていた。

 「感情の昂ぶりが魔姫へと変化させたか…。しかし所詮はその程度、たかが知れている。その醜い姿のまま滅ぼしてくれる!」

 「(…違う!)」

 紫薇は咄嗟に心の中で叫んでいた。今のクレシェントの力は以前の時と比べてまるで別物だった。いや、実際にはそうなりかけていた。まだその力は以前と変わらないが、確実に、着実にその力は底上げされていた。その微妙な変化の片鱗をデラも感じ取ったのか、初めて彼の顔が歪んだ。

 「どういう事だ…?この力、依然にはないものを感じる。テテノワール、お前は失敗作ではなかったのか?それとも…」

 その言葉を言い切る前にクレシェント、いや魔姫の姿はデラの目先に迫っていた。デラの体を貪ろうと大きい口を開けている。デラはその姿を確認すると右腕を振り払った。デラの手の甲が彼女の頬に当たる。その力は魔姫が壁に激突するまで一秒とかからなかった。

 壁は瓦礫と化し、余りの勢いに突風が吹き荒れ、紫薇とプランジェを土煙が襲った。デラは宙に浮かびながら瓦礫に埋もれた魔姫に目を向ける。その直後に煙を振り払って赤い光が魔姫の口内から撃ち出された。デラは右手を出してアイロニーの盾を繰り出し、その光を受け止めている。魔姫は数秒だけその場に留まると、口の中から光を吐きながら膝に力を入れ、再びデラに向かって飛び掛った。

 アイロニーの盾の表面で魔姫の体がぴたりと止まった。しかし未だ口の中の光はその勢いを弱めることを知らず、更に力を加えている。デラは魔姫の猛攻に顔色一つ変えずに概念を具現化させた。

 『アグシェイド・テレチア(奈落からの冤罪符)』

 魔姫の真下の床から灰色で描かれた陣が浮かび上がると、そこから一気に三角状の建物がそそり立って魔姫の体を串刺しにしながら天井まで伸びていった。その建物は小さな紙切れが集まったように出来ていて、螺旋を描いていた。

 「…末恐ろしいものだ」

 魔姫の体から噴出した血の雨の中、デラは右の手の平に目を向けた。火傷をしたかの様に彼の手の平は爛れ、膿んだようにぐじゅぐじゅになっていた。

 遥か天辺まで押し上げられた魔姫の体が落下する。腹部には大穴が空いて下半身と上半身が皮一枚で繋がっていた。肉を潰したような音がすると魔姫は言葉にならない悲鳴を上げ、プランジェの目を背けさせた。だが目を背けなかった紫薇の視界には信じられない光景が広がった。

 傷口から肉の繊維のようなものが広がると、それは爆発的に増殖し、粘土をくっ付けたかのように消滅した体が再構築を始め、僅か数秒で元の体に戻っていった。その異様な光景にデラは固唾をのんでしまっていた。

 「嘘だ…こんなの…」

 最後の部分だけプランジェは目にしてしまったのか、手で頭を押さえるとふらふらと膝を折ってその場に座り込んでしまった。そして気が抜けたように頭を回すと目を閉じて意識を失ってしまった。まだ年端のいかない少女にとって臓器が再生する光景など酷だった。紫薇は驚きながらもその事を再認識して床に寝かした。

 「お前が本当に失敗作ではないというのなら、その力…見せて貰おう」

 そういうと魔姫の傍に白い色で描かれた陣が幾つも並び始めた。その数は指では数え切れないほどで、まるで檻の様に彼女の姿を囲んでいった。その陣を見ると魔姫は目を歪ませ、全身に力を溜め始めた。体から赤い光が滲み出し、音を立てて彼女の体の回りの床を凹ませた。遠大な二つの力がお互いに装填され、その力の切っ先が向けられる。紫薇は思わず息を飲みながら、果たして自分は生き残れるのだろうかと自問した。

 デラと魔姫がにじり寄る。紫薇が汗を頬から垂らしたその時、突如として魔姫の体の周りに火の粉が飛び散り、魔姫の体は火柱に包まれた。赤とオレンジ色の光が魔姫の姿を飲み込み、デラの描いた陣を次々と破壊していった。デラはその光景に驚いた顔をしたが、やがて思い返したようにその火柱を具現化させた正体に目を向けた。

 そこには紫薇が予想だにしなかった人物が立っていた。小洒落たレストランの無骨な店主。その人物が神妙な面持ちで立っていた。

 デラはその人物に目を向けると、昔を懐かしむように小さな声で呟いた。

 「久し振りだな、ウェルディ…。いや、『炎獄の魔皇帝』よ…」

 「ああ、あん時 以来か…お前がその女を引っ連れてきたときから、随分と時間が経ったな。だがよ…俺は大いにがっかりしたぜ。久し振りにお前の顔を見りゃあ、砂利を相手になにをムキになってやがる。俺の知ってるデラ・カルバンスっていやあ、もうちっと高貴な男だと思ってたがね」

 「私は何も変わってなどいないさ。ただ少しだけ真実に近付いた。それだけの話だ、ウェルディ」

 「…真実に近付いただ?違えだろ、お前の本当の目的は」

 ぎろりと目を光らせて睨み付けると、デラは目を細めた。

 「なあ…お前は何をやってんだよ?俺にはお前が、血迷っちまってる様にしか見えねえ。堅気の人間に手え出して、てめえは仁義ってモンを忘れてんだ。ただのチンピラだった時代は、もう終わりにしたんだろうが…デラ」

 そういうとデラは急に口許を緩めた。

 「…お前は昔から何も変わらないな。自分の都合が良いときだけしか介入してこない。がさつで、自分勝手な奴のままだよ!お前と話すことなど何もない。黙って魔姫の手で殺されるが良い!」

 そういって懐から小さなあの白い鐘を取り出し、不適な笑みを浮かべながら横に振った。その光景を見ると、紫薇は唖然としながら炎の固まりに目を向けた。火の中心から不気味な胎動がした。それはやがて火の中に眠っていたものを呼び覚まし、覚醒と共に火の結界を突き破った。そしてその鐘の音に耳を傾けると何かに操られたかのように頭をぐるりぐるりと回し、悲鳴と雄叫びを上げ始めた。

 「ちっ、あの偏屈馬鹿が…」

 その叫び声を耳にすると、ウェルディと呼ばれた男は即座に倒れていたジブラルのもとに移動した。そして移動の軌跡すら目に残さない速度で紫薇の目の前に現れると、抱えていたジブラルを紫薇に放り投げた。

 「こいつを頼む」

 急に目の前に二人が現れたので紫薇は驚いた顔をしてジブラルを受け取った。

 「そいつらと一緒に出来るだけ外に逃げろ。それとあの女のことは諦めるんだな」

 「…諦めろだと?」

 「こっから先は人外の領域だ。砂利の、ただの人間の出る幕じゃねえんだ。ゼルア級でもないお前がこっちに来れば一瞬で死ぬぞ。あの女がああなった以上、もとに戻す方法なんざねえだろ。いっそ殺してやった方が身の為だ」

 「殺して…やった方が…」

 その言葉が紫薇の胸に深く突き刺さった。

 「不幸な女だよ、同情はしねえがな。それに関わったお前もだが…お前は未だ若い。くたばるなら普通に年を食ってくたばりな。ここからはもう、お前はお呼びじゃねえんだよ。俺からはそれだけだ」

 その言葉を吐き捨てるように紫薇に向けると、ウェルディはデラと魔姫に向かって走っていった。直後、凄まじい轟音と突風が紫薇の視界の先に広がった。その光景は文字通り普遍性に欠け、紫薇が手を触れられる余裕など微塵もなかった。紫薇はウェルディにいわれた通り、二人の体を持ってその場所から離れていった。

 魔姫の口から赤い光が吐き出された。その光をウェルディは片手で受け止めると、天井に向けて弾いた。その光が残り少ない天井を蝕むとウェルディは魔姫の懐に潜り込み、強烈な一殴を魔姫の腹部に叩き込んだ。魔姫の体は真っ二つに折れそうなまで曲がり、長い舌と嘔吐物を吐いている間にウェルディの平手打ちを食らって壁まで吹き飛ばされた。

 その隙にデラは右腕が変化した翼を使ってウェルディの背中を上から下に一直線に振り下ろした。背中に亀裂が入り、その隙間から血が噴き出したがウェルディはお構いなしにと体を反転させ、デラの首根っこを掴むとそのまま壁まで走り出し、壁に叩き付け次に床に叩き付けと何度もその動作を繰り返した。床や壁は半壊し、辺り一面に血や肉片が飛び散った。それでも尚、ウェルディはその動作を止めない。そしてデラの体を振り上げてもう一度、床に叩き付けようとした時、デラの手はウェルディの右頬を突き飛ばし、壁に叩き付けた。

 まるで人とは思えぬ戦いをする二人に向かって魔姫は再び口内から赤い光を放出させた。壁を木っ端微塵にさせ、爆発する赤い光が辺りを覆った。その光景を魔姫はじっと見詰めたがすぐに目を細めた。中にいたデラはその場から飛び退いて天井辺りに浮遊していたが、ウェルディは直撃を食らって体を瓦礫に埋めていたが平然とした顔で魔姫に顔を向けた。

 「…可哀想になあ、意識なんてまともにねえんだろう」

 ウェルディの顔は哀れみに満ちていた。

 「強過ぎる魔力に呪われ、勝手知らぬ男に良い様に弄ばれ…まだこれからじゃねえかよ、ええ?お前よ、本当に何をやってんだよ…」

 だがその顔に強い憤怒が刻まれるとウェルディの体から火が溢れ始め、ゆっくりと立ち上がるとその目線はデラに変わっていた。

 「お前が何を望んでるかなんて知ってるよ…だがな、ちっとやり過ぎだぜ」

 「説教はゼルアだけで事足りているよ、ウェルディ。今の私に…迷いはない!魔姫で駄目だというのなら、この私が扉を破壊してくれる!魔姫の心臓を口にしてもな!邪魔をするのならお前とて容赦はせんぞ!」

 「やってみろや!」

 二人が牙を剥き出しにして叫び合った中、その声を掻き消すように魔姫の叫び声が鳴り響いた。二人が何事かと目を向けた時には既に魔姫の背中から血で形取った腕が何本にも枝分かれしてその指先を向けていた。

 「ちっ!見境のない獣め…!この鐘を使っても扱い切れなくなったのか…!」

 デラが右腕を一振りすると腕は細切れになって消滅した。

 「待ってな、一瞬で息の根を止めてやるからよ」

 ウェルディはその体を赤い腕に巻かれながら手を繰り出した。その指先には強烈な奏力が込められ、その奏力を感じるとデラは咄嗟に概念を繰り出そうとしたが、残っていた腕に行く手を阻まれた。

 ウェルディの込めた力は魔姫の再生力などまるで通用しない、骨まで燃やし尽くしてしまう程の力が秘められていた。その力が魔姫に焦点を定め、恐るべきゼルア級の概念が解き放たれようとしたときだった。

 『ノヴェント・キグタリアス(その手は魔女のようで)』

 ウェルディの概念が完全に具現化されるよりも先に、白い光が撃ち出された。三本の爪がウェルディの体ごと赤い腕を引き裂いていったが、白い爪が損傷させたのは頬を僅かに引っかいただけだった。その傷口から血を垂れる。ウェルディはその概念の持ち主に目を向けた。そこには今の概念を具現化させたのもやっとな満身創痍な体の紫薇が立っていた。

 「あいつ、なんだって戻って来やがった…」

 紫薇の繰り出した概念が消滅すると、紫薇はその場で膝を着いてしまった。体に残留していた奏力は底をついて、立っているのも辛い状態だった。それでも紫薇が戻ってきたのは、やはりクレシェントを放って置けなかったからだった。

 その光景に見取れていたウェルディの隙を突いてデラは単奏歌を使って結界を作り上げた。巨大な白い陣を床と天井、そして左右に浮かび上がらせ、箱型の空間を具現化させた。その中はデラとウェルディだけで、敢えて魔姫は結界の外に置いた。

 「デラ!てめえ!」

 はっとしたのも束の間、ものの数秒で結界は二人を閉じ込めた。

 「この中でならお互い本気の力を出せる。そこに魔姫は不要だ。どの道あの子供もあとで殺めるつもりだった。残酷になったものだな、私も。魔姫を助けに来たつもりが、魔姫の手によって殺されるなど、安っぽい悲劇だよ」

 その言葉を耳にしながらウェルディはデラを睨み付け、頭に巻いていたターバンを緩めた。彼の額には黄昏色の妖精のかけらが埋め込まれていた。

 「歯ァ食い縛れ…。その腐った口ごとぶっ飛ばしてやるよ」

 怒号の後にはその結界の中は炎一色に包まれ、二人の姿は見えなくなった。


 紫薇は結界の隣に立っていた今や魔姫と化したクレシェントに目を向けた。彼女の目はまっすぐに紫薇を見詰めている。獲物は定められた。紫薇は体を引き摺りながら魔姫に向かって剣を手にしながら走っていった。魔姫はその紫薇の動きを見詰めると、膝に力を入れて走り出した。猛烈なスピードこそ出ていないものの、今の紫薇にとって魔姫は瞬間移動したかのように急に視界の真ん前に現れ、その腕が獰猛に振り払われる。

 紫薇の体が吹き飛ばされる。しかしその力は極限にまで弱められていた。膝に加わった力も本気には程遠い。その理由は魔姫の中に眠っていたクレシェントの意識が徐々に覚醒を始め、必死に抵抗をしているからだった。それでも意識の殆どが魔姫に乗っ取られ、いつその抵抗が切れるかわからない状態だった。

 床に寝そべった体を紫薇は辛うじて起き上がらせると、震えた手で剣の柄を握り締めた。体の中の権兵衛が警鐘を鳴らしている。今度は紫薇の体を逃がそうと権兵衛は紫薇の意識を乗っ取ろうとしたが、紫薇はそれを拒否した。

 「手を…出さなくて良い…俺がやるんだ…こいつに…約束したんだからな…」

 そういいながらも紫薇は柄を握っているのか握っていないのかもわからなかった。疲労と打たれた衝撃で頬は晴れ上がり、目は半開きだった。片腕で切っ先を上げ、振りかざす。そこに魔姫はいなかった。明後日の方向に打ち込むと、魔姫はその爪で紫薇の胸元を裂いた。体を二歩後退させたが何とか踏み止ませる。その間に魔姫は紫薇の懐に入って左肩に噛み付いた。紫薇は低い声で悲鳴を上げると、徐々に膝を落としていった。ずぶずぶと魔姫の歯が紫薇の体に進入する。紫薇は体を吸い込まれるような奇妙な感覚を味わっていた。魔姫はがっちりと口許を抑えると紫薇の肩の肉をしゃぶりながら血液を啜っていた。

 紫薇は魔姫の牙を通してクレシェントの過去を垣間見た。累々と横たわった砕けた死体の真ん中に幼い体のクレシェントが血に染まった両手を見て震えている。そこには壊乱の魔姫として苦悩に満ちた彼女の心境がまざまざと描かれていた。


 「貴方は私と同じなのね」

 暗闇の中にクレシェントの姿がぼうっと浮かび上がった。

 「私はただ、黙って自分の運命を呪うことしか出来なかった。小さな部屋の中に閉じこもって、目を背けることしかしていない。私は貴方が羨ましかった…ううん、本当は煙たがっていた。だって、貴方は自分の過ちから逃げているだけだったもの。ただ目の先が外の広い世界か中の狭い世界かだけの違い。だけどそれすらも私には出来ないことだった。貴方が羨ましい。私には逃げ出す勇気もないから」

 そういってクレシェントは嘲るような笑みを浮かべた。

 「いっそ死んだ方が良いのよ、私は。貴方を妬むことしか出来ない女なんて、生きていたって仕方がないもの。だからその剣で私の心臓を刺して。幾ら怪物になっても心を壊されれば、悲鳴を上げて死ねるから」

 紫薇は今にも消え入りそうな意識の中、黙って聞いていた。

 「でも一つだけお願いがあるの。…優しくしてね、一思いに殺して。それが私の救いになるから」

 最後に見せた笑顔はとても悲しい色で、病んだいたたまれないものだった。


 紫薇はその笑顔を見ると意識を戻し、最後の力を振り絞って柄に力を込めた。左手を魔姫の肩に回し、右腕を後ろに引くと再びクレシェントの顔が脳裏を過ぎった。


 口角を上げた寂しげな笑み


 それは最後に紫薇が見た、雨の中のクレシェントの姿だった。紫薇はその笑みがどうしても気に入らなかった。自分の世界を変えてくれた人が、まだありがとうの言葉も伝えていない人が、そして自分にとって初めて安らぎを与えてくれた人が、まるでかつての自分のような顔をしている。それがどうしても気に入らなくて、紫薇の意識は一瞬だけ完全に覚醒した。

 紫薇は手に持っていた剣の先を魔姫の胸に突き刺す。鳩尾を抜けて肉を裂いて、背中を突き破り、刃を深くまで伸ばした。堪らず魔姫は仰け反って痛みに身を震わせたが、その口からは悲鳴がこぼれなかった。切っ先は心臓の横を通り過ぎていた。痛みは心臓を突き刺したよりも鋭く、優しさのない酷い仕打ちのようだった。

 「苦しめよ…」

 紫薇はその光景を見ると、初めてクレシェントに向けて笑みを浮かべ、頭を床に落としていった。紫薇の体が横たわる。その勢いで紫薇のポケットに入っていたものが転げた。魔姫は突き刺さった剣を引っこ抜くと指を唸らせながら紫薇の体を引き裂こうと滲み寄った。その時だった。転げたものは偶然にもその螺子を回し、この世界にはない真新しい美意識を奏で始めた。

 ぴたりと魔姫の体が止まった。まるでその音に取り憑かれたようにじっと体を硬直させ、胸に空いた傷の再生は止んでしまった。その直後、胸の痛みは魔姫の体中を駆け巡り、今度こそ悲鳴を上げて苦しみ出した。

 魔姫の悲鳴が上がると、結界の中に入っていたデラは動きを止めてその光景に見入ってしまった。


 「馬鹿な…鐘を使わずにもとに戻るなど…」

 驚愕しているデラを他所に魔姫の体はもとの勇気のない女の体へと戻っていった。

 「案外 身近にあるもんなんだな、奇跡ってやつはよ」

 まるでフィルターがかかったような声でウェルディは喋っていたが、その体は炎に包まれて全貌がなかった。


 クレシェントは魔姫の姿から完全に戻っていた。傍に横たわっている紫薇を見詰めると不意に胸の辺りに強い痛みを感じた。

 「…うっ!」

 その傷を手で触れてみると風穴は心臓を避けていた。

 「どうして…。どうして…貴方は私を殺さなかったのよ…」

 膝を着いて紫薇の顔を見ると、今にも泣き出しそうに悔しさを噛み締めた。すると目を閉じていた紫薇は薄っすらと目を開けて、ゆっくりと人差し指をクレシェントの風穴に向けた。そしてクレシェントをひと睨みすると、生きろとその目で訴えた。その言葉にならない意思を伝えると、紫薇は今度こそ意識を落としていった。

 いつの間にかオルゴールの音は止み、代わりにクレシェントの泣き声が辺りに響き渡った。倒れた紫薇の手を必死に握り、嗚咽を上げて頬を塗らした。


 「何故、あの子はああまでして魔姫を…」

 「お前と同じ理由だろう。魔姫に対してじゃねえ、お前が望んでいたことに対してだ。いつからだよ?お前がその気持ちを忘れちまったのは。これ以上、踏み入ってやるなよ、あの二人に…。いい加減、自由にしてやれ」

 「……………」

 「浮かばれねえだろ、このままじゃあよ。お前も、お前の一族も。ガキの命を弄ぶってんなら尚更だ」

 「だが私は…」

 「わかってるよ、だから苦肉の策だったんだろ。だがもう、終わりにしとけや」

 「私は…私はこんな筈ではなかった…こんな筈では…」

 デラが肩を落とすと、それに呼応するかのように結界は音を立てて崩れ始め、中で渦巻いていた炎はその力を弱めていった。落胆するデラの顔をじっとやりきれない顔をしながらウェルディは見ると、今度は紫薇の体を抱きかかえるクレシェントを見て自分とデラを皮肉ったように鼻で笑った。

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