第2話
装甲車に乗って2時間程経ち、隼人と竜太郎は疲れて眠ってしまっていた。
「起きてください、駐屯地に到着しましたよ」
「ん………ぅ?」
目を擦りながら辺りを見渡すと、大勢の人達が自衛隊が建てた即席のキャンプに集まっていた。
「なんだこりゃ…」
「日本各地の自衛隊駐屯地に設営したキャンプです。ここでは新型のウイルスの検査や民間人の保護をしている所です、安全なのでどうか少しでも体を休めてください」
隼人と竜太郎は装甲車から降りると深く息を吸った。
「やっと落ち着けるな」
「どーだか……」
「隼人!」
振り返ると、そこには彩香が立っていた。
「あ、彩香……お前…」
「隼人…竜太郎も…無事で良かった…!」
彩香は思わず隼人の胸に飛び込んだ。制服は濡れてガタガタと震えていた。
「お前こそ生きてて良かったよ、めっちゃ探してたんだぜ」
隼人は震える彩香を見て長袖ジャージを脱ぐと背中に掛けてやった。
「ヒューヒュー、カッコいいぜ」
「うるせぇ、お前以外のクラスメイトは何処だ?」
「みんな別の車両に乗ってた、でも…6人くらい別の場所に連れて行かれたみたいだけど…」
「別の場所?」
「皆さん落ち着いてよく聞いてください!只今から交代制ですがシャワーが使用可能になりました。男性の皆さんは西側方面、女性の皆さんは東口の方にあります。先着順ではありません、ここにいる全員が浴びれるようにしておくのでご安心ください!なお、シャワーを浴び終えた人達から温かい食事が用意してあります、どうか少しでも体の疲れを取ってください!」
自衛隊の隊員がスピーカーを使って周りに呼びかけた。放送が流れると入浴セットを持ってシャワーの方へと人の流れが動いていく。
「彩香、とりあえずシャワー浴びたらこの門の前で落ち合おう、他に同じ学校の奴らが居たら連れて来てくれ」
「分かった、隼人達もよろしくね」
「任せとけ」
隼人はシャワーを浴びながら汗と付いた血を洗い流していた。
「痛って……打撲でもしたか」
左腕にはくっきりと青紫色の痣が出来ていた。頭の傷は幸い浅く切っただけだった。
「………………」
シャワーを浴びながら目の前で女子生徒がトカゲ人間のようになった姿を思い出し、ゾッと背筋に寒気が走った。
「何が原因でああなるんだろうな…」
ボソッと呟きながら隼人はシャワーを浴び終え、更衣室で服に着替えていた。
「ん?」
左ポケットに違和感を感じ、中に手を入れて取り出すとそれは学校で拾った牙のような物。
「しまったさっき学校で拾ったやつか、持って来ちまった…」
ふと見ると、牙の表面が紙やすりで磨かれたようにツルツルになっている。さっきまではまるで風化した石のような触り心地だったが、しかも赤茶色の色からほんのり銀色に変化している。
「……刃物みたいだな、危ねえから捨てておこう」
隼人が上着を着始めたその時だった。
オ前、旨ソウダナ…………
腹の奥から聞こえてくるような太い声が響いた。
「へ?」
辺りを見渡すが、もちろん更衣室で壁に囲まれ、外には大勢の人達が着替えている。
オ前ハ、オレノ餌ダ……今夜オ前ヲ喰エルト考エルダケデ腹ガ減ッテクル…
それは脳内に直接聞こえるような声だった。
「…………!」
隼人はすぐに荷物をまとめると慌てて更衣室から飛び出した。
「な、何だってんだ……!」
誰かのイタズラだろう、隼人はそう考えていた。
だが、背後からねっとりと誰かに見つめられているような不快な感覚に隼人は急いでシャワー室を後にした。
隼人は自衛隊から配給された大盛りカレーを持って約束の門の場所に来た。
「遅せーぞ隼人、お前がビリじゃねぇか」
「仕方ねーだろ混んでたんだし…って生徒会長さんと風紀委員長…?」
隼人が見る先には高校の生徒会会長、明山奏と風紀委員長、澁谷響子が彩香の隣に座っていた。
「隼人君も無事だったのね、彩香から聞いたよ」
「あ、あぁ、どうも…」
「とりあえず生き残れた人達は私達だけ」
「学年全員150人中4人か、俺達恨まれるんかなぁ」
「恨まれるってそんな怖い言い方しないで大野」
ボソッと呟いた竜太郎の言葉を響子はビシッと遮った。
「あっ、そうだ飲み物取ってこなきゃ、隼人は何飲みたいの?」
「俺は普通にお茶でいいよ、ってかお茶しか無くね?」
「さっきコーラもあったよ?」
「あ、じゃあ俺コーラ」
「私達も一緒に行くよ」
彩香と奏、響子は3人で仲良く飲み物を取りに行った。
「……なぁ隼人、風紀委員長の澁谷響子、あいつには気を付けろよ」
「あ?気を付けろって何だよ」
「あいつ…夜の店で身体で働いてるらしいって噂だ」
「身体で働いてるって…まだ高校生だぞ?」
「違法な店って事だよ、アイツはお前と一緒で一人暮らし、親もいないから1人で生計立てるのも大変だと思うけどよ……」
「身体を売って生計を立てる風紀委員長ねぇ…」
「しかも裏ではヤリ〇〇って話もある…風紀委員会がやけに人気なのは彼女のヤリ相手って噂もあるくらいだ」
「ただの噂だろそれ、本人の前でそんな事言ったらはっ倒されるぞ」
「まぁレスリング部だし下手したら殺される……あんな身体してるのに関東2位だし…」
「人は見かけによらないってのはこの事だな」
一方その頃、政府はこの新型ウイルスの異常な感染力と日本各地で目撃されるトカゲ人間の情報を遂に日本各地に臨時ニュースとして放送した。
「日本政府は感染力の高いこのウイルスと「リザーウイルス」と命名し、トカゲの皮膚を持つ人間は「リザーヒューマン」と名付けました。彼らは人間を捕食し、感染を広めて同種を増やしていきます。今現在日本各地でリザーヒューマンの目撃情報があります、爬虫類は日光浴をすることが有名ですが、彼らは人間の身体を持つため、夜間や寒冷地でも活動する事が可能です。目撃した時は直ぐに避難してください。彼らに真っ向から挑む事はまず不可能です。自分達の命を優先してどうか安全な場所へと避難してください」
政府の緊急会見は生中継され、あっという間に日本中に駆け巡った。
<リザーウイルスとリザーヒューマンって単純だな
<オオトカゲのリザードと人間を足しただけじゃん
<日本各地でトカゲ人間の目撃例あるって本当かよ
<人外好きには堪らんな(笑)(笑)
<このウイルスって人が死ぬとかってあるの?
<ggrks
<抗体とか特効薬って無いの?」
<あったら苦労しないよ
<とりあえずニートの俺は普段通りで安全って事ね
<隕石の後はトカゲ人間大量発生かよ…勘弁してくれ
<大量発生は草
<害虫みたいに言うやん(笑)
「ったく、5ちゃんねるのスレ民は呑気で羨ましいぜ…」
竜太郎はスマホを見ながらため息をついた。
「日本各地で目撃例があるってヤバいな、そんだけそのトカゲ人間が増えてるって事だろ」
「でも政府が何とかしてくれるでしょ…その為に自衛隊の人達が私たちを助けてくれたんだし」
「だといいけどなぁ…」
そして深夜1時、隕石が直撃して完全崩壊した隼人達の高校に4人のカメラを構えた男達がいた。
「はいどうも皆さんこんばんは、みすてりーチャンネルへようこそ!えーこれからね、隕石の直撃を受けた学校の調査を始めていこうと思います…!」
みすてりーチャンネルと名乗るこの4人組は主に都市伝説やホラー系の動画を作る今人気急上昇中のYouTuberで、チャンネル登録者数も89万人の超人気4人組。更に今日の企画は隕石を誰よりも早く探すという企画の生配信で閲覧者数は40万人を超えていた。
「すっげーボロボロだ」
「マジで足場気を付けろよ、崩れたら危ないから」
4人はカメラを回しながら高校の奥へと進む。そして瓦礫を避けながら校舎の裏側へと進むと、大きく凹んだ畑がライトに照らされた。
「オイもしかしてここに隕石あるんじゃないか!?」
「世紀の大発見になるんじゃね!?」
「やべぇやべぇ早く探そう!」
そう盛り上がった時、チャットが大きく流れた。
<あれダイゴは?
<ダイゴいなくね?
<ダイゴ消えたぞ
<フレームアウト?
<ドッキリとかじゃね
<ガチで消えた
メンバーの1人、ダイゴが姿を消した。
「あれ?ダイゴ?ダイゴ!?」
「おいダイゴ出てこいよ!流石につまんねーぞ!」
「隕石探しの企画だぞ、ドッキリとかいらんぞ!」
必死に3人は叫ぶが辺りには誰もいない。
「ダイゴ出てこ……」
叫び声が止まった。
「…………………あ」
カメラが地面に落下し、画面に赤い液体が垂れる。
<何何何何何何何何何
<え怖い何これ
<ドッキリだろ
<警備してる奴らに撃たれた?
<台本通りか
大荒れのチャットが流れる中、画面にノイズが走り、不気味な音が聞こえてくる。
バキッ……グチュ…ミジィッ……グジュッ…
そして、映像はここで途切れた。
「ふぅ………やっと満足…」
朝日を受ける巨大な龍のような姿。口は血に染まり、地面は血だらけのシャツとカメラが転がっている。
「…………」
龍は一つ息を吐くと、何かを感じたかのように南の方角へと首を動かした。
「同種がいるのか…」
そう呟くと全身がバキバキと音を立てて小さくなっていく。牙は小さくなり、手足もはっきりとして尻尾は腰に消え、筋肉質な人の腕へと変わっていく。そして首に掛けられた名刺にはこう書かれていた。
黒岸大介
食物連鎖の変わる日 茹で毬藻 @YudeMarimo09
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